2012/05/24

School Lottery



Great Schoolsの記事にこんなくだりがありました。


As parents in a big city with a competitive school lottery, we know the importance of choosing the right school for our children.

 (人気公立校の抽選枠争率が激しい大都市で子どもを育てる親として、子どもにとって最適な学校選びがどれほど大切か、私たちは皆よく知っています。)

この「a competitive school lottery」って、アメリカの公立校に子どもを通わせたことのある方なら多少なりとも悲喜こもごもの思い出がある言葉ではないかと思います。

が、日本やほかの国の方には、たぶんピンと来ないのではないでしょうか。

「school lottery(学校のくじ)」=入学のための抽選枠、ということですが、どうして公立校に抽選枠があるのかというと、アメリカの公立校は学校間でものすごい格差があるからです。

私が子どもの時通っていたのは東京都内の区立小学校でしたが、どこどこの小学校は良いとか全然ダメとか、中野区は良くて杉並区はいけないとか、そんな話は聞いたことがありませんでした。
現在はどうなのでしょう?多少はあるのかな?

地域によっても違うのかもしれませんが、少なくとも昭和後半(後半ですよ、一応ね!)の東京郊外では学校間の格差、学区間の格差というのはほとんどありませんでした。

今思えば、どこの小学校にも図工と音楽の専用室と専任教師があり、音楽室にはちゃんとしたグランドピアノがあり、広い校庭とプールと体育館があった。…って、アメリカの公立校に比べたら、考えられないほど素晴らしい環境です。

ハワイ州でもワシントン州でも、公立はもちろん、私立校だってそこまでの設備がある小学校はほとんどありません。音楽室や美術室どころか、音楽や美術の時間も、予算の都合で存在していない学校のほうが多いです。

アメリカの学校には連邦政府からあんまりお金が出ていないので、ほとんど地方税でまかなわれています。ハワイのように州が一括して管理しているとこもあれば、もっと小さな単位の自治体で学校を運営しているところもあります。

シアトル市の学校はシアトル市の運営で、予算の半分は州から、約4分の1が市の目的税(School Levy)からで、国からの補助金は13%に過ぎません。(参考*Seattle Public Schools


ハワイ州は(シアトル市も)予算を学校に均等に(生徒数に応じて)分配しているはずなのに、それでも学校間に差が生じるのはどうしてなんだろう、と最初疑問に思っていました。

学校間でパフォーマンスに差が出る理由は色々ありますが、裕福な地域に優秀な学校が集中するのはまぎれもない事実です。

Great School などのサイトは、生徒の全国平均テストの点数や先生と生徒の割合などで各学校に「点数」をつけていますが、この点数が1から10の評価で8~10の高得点 の学校は、かなりの割合で地価の高い地域にあります。

学校の評価が良いと学区にある住宅の値段も高くなるので、不動産価格と学校のスコアはほぼ比例関係にあるといってもいいくらいです。

各自治体でシステムは違いますが、シアトル市やハワイ州では各学校に学区外からの「越境入学」枠がそれぞれあって、人気学校には希望が殺到します。これがschool lottery枠です。 

子どもを12年間公立の幼稚園~高校に通わせてみた実感として、ハワイでもシアトルでも、優秀な学校は

1)落ち着いた住宅街の恵まれた環境にあり、コミュニティからも強くサポートされている。
2)その学区に子どもを通わせるため、子どもが学齢期になる前から引っ越して来る親も多い。>コミュニティからのサポートがさらに強くなるし、学校への金銭的・時間的サポートも強い。
3)学区外からの越境入学を希望する親は概して教育熱心で、学校にも積極的に関わるし、子どもにもお尻を叩いて勉強させる
 4)教育熱心な親が多いので学校全体の成績が上がる

…という良循環によってどんどん明るくなって行くのに対して、問題のある学校は、真逆の悪循環にはまっているようなのです。

1)比較的平均世帯収入の少ない地域にあり、治安も良くない場合が多い。コミュニティからのサポートが薄いことが多い。
2)教育熱心な親は遠くてもほかの学校に通わせたがる。時間やお金を使って学校をサポートする親の数が少ない。
3)移民が多い地域では子どもの教育にまで手が回らない親も少なくなく、勉強時間も確保されないので、子どもの成績も上がらない。それどころか学校に来ない子どもも多かったりする。
 
親たちからの時間的/金銭的サポートというのは、慢性的に予算の少ない公立校ではかなり大きなファクターです。

ハワイで人気公立校に子どもを二人越境で通わせていた知人は、学校に「感謝の気持ちとして」数千ドルはすると思われるポータブル倉庫をぽんと寄付してましたし、校舎のペンキを塗ったり草を刈ったりといったボランティア活動やPTAの寄付集めにも、越境で通わせている熱心な親は積極的に参加する確率が高いのです。





で、冒頭のこの記事は、そうやって希望の学校に入ったは良いけれど、今度は「良い先生」が自分の子どもの担任になるように働きかけるべきかどうか…と悩む親の話でした。


希望の学校に子どもを入れ、最善の環境を提供するためにあらゆる手段を駆使する親の中には、いろいろな手段で先生のチョイスに働きかけようとする人も多いようです。

これは日本で問題になった、要求だけをゴリ押しする「モンスターペアレント」とは全く違って、学校に多大な貢献をしている親たちです。PTA活動にも熱心で、時間もお金も出している親は自然と学校とのパイプが太くなり、公式にではなくとも影響力が強くなるというのはうなずける話です。

実際、12年間の間にははっきり言ってやる気がないとしか思えない先生、子どもが嫌いとしか思えない先生、自分のやり方を押し付けることしか出来ない先生にもお目にかかりました。
反面、感動するほどエネルギッシュで、生徒をインスパイアしてくれる先生にも何人か会いました。

アメリカでは教え方やカリキュラムもかなり先生の裁量にまかされているので、同じ学校でも先生によって大変な差が出て来るのは事実です。

でも先生のチョイスに親が口を出すべきか。出せるのか。

記事の著者は、何も言わなかったことで「とても評判の良い先生」のクラスに娘が入れなかったのにはやはり悔いも残る、下の娘の時には、子どもにどんなスタイルの学びが必要なのか、きちんと主張しようと思う、というような結論を述べていました。

親の努力やリソース次第で子どもの学ぶ環境にも結果にも大きな違いが出るのが当然、ということが前提になっているアメリカの公教育。飛び交う情報を集めて、ベストと思う学校を選び、子どもが入学できるように最大の努力を払い、さらには学校内でも先生について情報を収集して、子どもがどの先生に当たるかにもいろいろ運動する、当然学校の活動には貢献するし、子どもの宿題もばっちり見てやる。…というのが「できる親」、みたいなことになっているので、親にとっても相当ストレスです。わたしはとてもそんなパーフェクトなことはできないので、焦ったり、罪悪感を感じたりもしました。

同じ学校内でも格差があるから、親が受身ではいけないということと、親が子どもに常に期待値を示していかなくてはいけない、というのは何度も痛感させられました。(もちろん、期待通りには育ってくれないものですが、それはそれとして…) 

学校にも個性があって、画一的でなく、いろいろなチョイスがあるのは大変良いことだと思いますが、とにかく積極的に情報を集めて動ける余裕のある人勝ちのシステムだから、結局格差はそのまま受け継がれることになるなあ、というのも実感です。


いつもありがとう!
よかったらまた来てくださいねー。
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6 件のコメント:

  1. ハワイの公立校は今日で終わってしまったよ!
    そして、わたしもじつは今、迷っておりまする。
    担任の先生の希望を、校長先生に言いにいくべきか否か……。

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    1. 早っ。メモリアルデーで終わっちゃうんだっけ?
      新学期始まるのも早いのよねー。いったいどうしてそんなに前倒しなスケジュールになったんだろうね?

      そうかー、通るかどうかはともかく、希望はやっぱり言っておいたほうが悔いが残らないのかも。Great School のこの記事のコメント欄も賛否両論だったけど、単に評判が良い先生だからというんじゃなくて、教え方のスタイルが子どもに合っているとか、そういう理由があるのなら、学校とコミュニケーションを取っておくに越した事はない、と思ってる人が多いみたい。
      うちはもう最終学年だから先生でどうこうという問題じゃないんだけど、高校の最初の年にはちょっと困った先生とぶつかってしまって、いろいろありました。教え方に相当問題のあった先生が苦情で首になったりもしたみたい。問題があったら黙ってちゃダメなんだなということは良くわかったけど、誰に何をどう伝えるかが難しいし、何が期待できるのかを見極めるのもほんとに難しいと思いますた。

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  2. 家には子どもがいませんけど、夫のいとこは良い学校へ子ども達を入れたいがために、引越しを決める際、ある特定のNeighborhoodを選んで、「そこでないとダメ!」と頑固に言い張りましたよ。
    そしてその「地区」へ引っ越しました。

    それとは反対にうちのお向かいの奥様は、学校の良い悪いよりも、子どもが歩いて通える(ここらかは3ブロックほどしか離れてないかも。)、ストレスの少ない学校に子どもを通わせたい。
    そのためにその学校の”Waiting List"に、子どもの名前をのせたのですが、チャンスが無かったようで、わざわざバスを2つ乗り換えないといけない学校に通ってるの、と。
    (友人家族が送り迎えしてくれてるようですが。)

    でも、こんなに近くの学校に何故入れないのだろう・・・?疑問だわ、といってました。
    ちょっとあほらしい、とも。
    シアトル全般でしょうか?学区って、その学区内に1年だか住んでいないと、そこの学校へは入れないって決まりがあるじゃないですか?
    学区外に住んでいる子どもは絶対ダメって言う。
    まあ、公立だから仕方ないのかしら・・・?とも思うけど、それも何だかなあ・・・と思います。

    良い・・・と言われる学校でも、子どもの性格にあわなければどうしようもない気がします。
    それを極めるのは難しいことでしょうけどね。
    最近の子ども達は苦労してますね。
    (あ、ご両親のみなさんも!)

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    1. オレンジ猫さん、シアトルの公立校は、たしか2年前から制度が変わって、学区に住んでいる人優先になりましたが、それまではオープンポリシーで市内のどこの学校にでも申し込みできる仕組みだったようです。
      今でも、何パーセントかは越境の受け入れ枠があるのだけれど、その枠が学校によって、またその年によって変わるみたいで、どうしてもその学校に入りたい人は気が気じゃないでしょうね。
      ほんとに、「良い学校」でも子どもとの相性はあると思いますよ!
      うちの子が今行っている高校は、スコアでいったら10段階の4か5ですが、良いプログラムがあってとても良い先生もいるし、人種構成が多様な環境で、結果としては合っていたかなあ、と思います。

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  3. 私も、今、将来を考えて、引越しを検討中なので、興味深く拝見しました。アメリカって、やっぱり、貧困から抜けだせるのほ本当に大変、アメリカンドリームは一部の人のものなんだなあって思いました。でも、Tomozoさんの仰るように、良い学校が必ずしも全ての子にとって良いという訳ではないのも事実ですよね。うちの弟は、それなりに良いと思われてた先生との相性が最悪で、可哀想なくらい学校が辛そうだったことがあったんです。自分の子にとって何がベストなのかを見極めるのが大切なんですね。むむー。自分が、学校との交渉とか色々できるのか、宿題を(英語で!)見てあげられるのか・・・(-_-;)親も、学校に行ったから安心、ではなくて、常に学んでいかないといけないのですね・・・。

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    1. ZIZIさん、アメリカンドリームはウソではないけれど、本当にものすごく実力のある人にのみ適用されるんだなあ、とつくづく思いますね。
      学校間で格差があるのはもとから承知でしたが、高校に入れてみて、学校内で激しい格差があるのに軽くショックを受けました。考えてみればまあ当然なんですけど。
      息子が行った最初の数学のクラスは、誰一人先生の話を聞いてない、宿題もやってこない、落第しないスレスレの成績以上の勉強は先生も期待していないというクラスでした。カウンセラーとも何度か話して、次の学年では一学年下の上級クラスに入ったら、生徒の「8割がアジア人」で、みんな真面目で、先生の期待値も高いと。なんだかなあ、とガックリしました。
      ZIZIさんだったら、学校とのコミュニケーションも冷静に上手に切り抜けていかれると思いますよ!!  わたしは今から思い返すと、あの時ちょっと遠慮しすぎていたな、と思うこともあるし、もっと積極的に関われたらよかった、と思うこともあります。

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