2019/06/29

漱石山房の猫たち


草間彌生美術館に行ってから初めて知ったのが、ミュージアムの裏手から民家の間の曲がりくねった狭い猫道のような人道を歩いて、なんと徒歩わずか3分のところに漱石山房記念館があるという事実!

夏目漱石先生のご自宅跡の記念館です。

去年から行きたいと思っていた場所だけに、ミュージアムと同じ町内(正確にはお隣で、ミュージアムがあるのは弁天町、漱石山房は早稲田南町ではあるけれど、なにしろ本当に徒歩3分)にあるという偶然にびっくり!
弁天町には彌生ちゃんの現在のお住まいとアトリエもあるのだそうだ。

草間彌生美術館と神楽坂のまんなかあたりには泉鏡花旧居跡というのもある(ここは単に札が立っているだけ)。

新宿区すごいな。今度ゆっくり早稲田と神楽坂を歩いてみたい。
漱石山房記念館には漱石先生ゆかりの周辺散歩道マップもありました。
これはぜひとももう一度行かなければ…。できれば暑くも寒くもない時期に…。
神楽坂周辺はそういえば、本郷と並んで漱石作品にもよく出てきてました。



漱石山房記念館は新宿区立。和風を意識した、すっきりとしたデザインのとてもモダンな建物で、オープンは2017年9月だったそうです。

 ここは漱石先生が教職を辞し、朝日新聞の社員という立場で連載小説を書く専業小説家に転身した後、亡くなるまでの10年間、すなわち専業作家ライフのすべてを過ごした場所。

漱石先生の生前は借家だったそうですが、『三四郎』『それから』『門』『彼岸過迄』『こゝろ』『明暗』などなどがここで執筆され、お弟子さんたちが集った「木曜会」のサロンでもあったのでした。(「木曜会」の説明は、地元漱石ファンの「NPO 漱石山房」のサイトへどうぞ)。

そうなんですよね、とてもとても存在感の強い国民的作家にもかかわらず、漱石先生の本格的な作家活動はたったの10年間。それも胃の病気にしばしば悩まされた10年だったのでした。


1階に入ると両側は「ブックカフェ」の席になっていて、床から天井までのガラス張りの明るい窓辺で、いくらでもゆっくりと本を読んだりできます。

復刻版や漱石先生関連書籍が席の前の本棚に並んでいて自由に手にとれるようになっている。しかし一つ問題が‼

日本語の読み書きは幼稚園レベルのうちの息子に英語版の「吾が猫」を見せようと思ったら、なぜか英訳版の小説がひとつもない!!

サイトもパンフも英語版を用意してるのだし、代表作の英訳版ペーパーバックくらいはこのカフェの横の棚に並べておいてほしいなあ。

地下には図書室とレクチャールームがあるようです。
1階の右半分は「山房」の書斎を再現した展示室、2階も展示室。

入館は無料で、展示室の入場は大人300円でした。


書斎を再現した部屋には係の方がいて、とても丁寧に説明してくださった。

神奈川近代文学館にも、この全く同じ書斎を再現した展示があり、そちらには実際に漱石先生が使っていた文机などの調度が置かれているそうです。
後発のこちらは、残された写真とその展示を参照してすべて再現したもの。

しかしさすがにオリジナルロケーション、念入りです。


書斎の外にバナナが…?
と思ったら、これはバナナじゃなくて「芭蕉」でした。

その下に生えているツンツンした「トクサ」も漱石先生が好んで植えたもので、当時の様子を写した写真のままに再現されているのでした。


こちらが再現された書斎。ペルシャ絨毯の上に白磁の火鉢、紫檀の文机(さすがに再現ではすべてホンモノの素材ではなく「それらしい」雰囲気を持つもので代替されてましたが)。

こぢんまりしているけれど、居心地がよさそう。


積んである書籍も、書棚に並ぶ本も本物ではなく、すべて外側だけ本物そっくりに作ってあるのだそうです。


再現書斎の先は回廊になっていて、黒猫が先導してくれます。

この白い手すり、芭蕉と合わせてちょっと南国風のおもむきのあるフェンスも、漱石先生が好んで取り付けたものだそうです。


ちょうどこんな感じの回廊だったのですね。
大正モダンのさきがけな感じ。
芭蕉といい、南国風が流行っていたのか、漱石先生がお好きだったのか。

後ろはうっそうとした木立になっているのが今とは違う。


2階の展示室は撮影禁止。
まだ資料館としては資料は少ないそうですが、御遺族や関係者など色々な方面から寄付があって充実しつつあるそうです。

「気に入らない事、癪に障る事、憤慨すべき事は塵芥の如くたくさんあります。
それを清めることは人間の力では出来ません。それと戦うよりもそれをゆるす事が人間として立派なものならば、出来るだけそちらの方の修養をお互いにしたいと思うがどうでしょう」

漱石先生から武者小路実篤宛ての手紙の一節。大正四年六月。


カフェにも黒猫ちゃん。かわええー。ノラちゃんに似てる。

探検家ノラ子。



作品にも出てくるという「空也」の最中とほうじ茶(またはコーヒーか紅茶)のセットで648円。
このカップがあまりにもかわいくて持って帰る。

実のところは『吾輩は猫である』に出てくるのは最中じゃなくてここの餅菓子であるようです。

ほうじ茶おいしかった。
カフェでは本を広げて読みふけっている人が数名。のんびり長居できる感じなので、ここでパソコンひろげてちょっと仕事をさせてもらいました。

小学校の下校時間で、目の前の細い道を小学生たちが、体育着入れを振り回して戦いながら通っていくのを眺めつつ。

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2019/06/25

無限の水玉


5月の東京ですよ。
草間彌生ミュージアムにも行きました。この日は息子と二人で遠足。


 開催中の展示は「幾兆億年の果てより今日も夜はまた訪れてくるのだ―永遠の無限」。

彌生ちゃんはいつも頭からつま先まで大真面目でとてもストレートフォワード。
いつも直球です。


東西線の早稲田駅から10分くらい歩いたところにある細長いたてもので、オープンは2017年。
建物は久米設計だそうです。ケレン味はないけど実直に品よく、そつなくおしゃれ。


たまたま建物の壁にできていたこんな影が綺麗でした。

ミュージアムは完全予約制で、時間入れ替え制(滞在可能時間は90分)。
オンラインでもチケットが買えるので、飛行機のチケット取るのとほぼ同時に入手しました。
1名1000円なり。
半分くらい外国人のお客さんだった。彌生ちゃんは海外でも大人気。

とっても小さい美術館で、各フロアの面積は、こぢんまりしたリビングルームといった感じ。
美術館というより、ちっちゃいギャラリーを4段重ねにしました、といったおもむきでした。

「ちっちゃすぎだろ」というレビューもあったけど、いやいや、かなり楽しめましたよ。
1000円はリーズナブルプライスだと思う。これ以上高かったらやだけど。


1階が入り口とショップ、2階にから4階がギャラリー、その上は小さなライブラリと屋上のオープンエア展示。

ギャラリーは自然光をたくさん採り入れてとても明るい。ぐるぐる階段を登って上の階へあがっていくシステムは、ニューヨークのNew Museumのような感触(あちらはずっと規模が大きいですが)。

階段が使えない人のためにはエレベーターがあります。


フロアの一つに展示されていたインスタレーション、無限のはしご。

こことショップと屋上だけは撮影OKでした。

床に置かれた丸い鏡の上に、ネオンのはしごが設置されている。
覗き込むと、光の梯子が上にも下にも永遠に続いています。
とほうもない「永遠」をかいまみてしまう作品。

彌生さんは小さなころから幻聴や幻視に悩まされ、すみれの花や犬がとつぜん話しかけてきたり、おかしな影法師のような存在におびき出されて池で溺れそうになったりしていたそうです。


「ある日、机の上の赤い花模様のテーブル・クロスを見た後、目を天井に移すと、一面に、窓ガラスにも柱にも同じ赤い花の形が張りついている。部屋じゅう、身体じゅう、全宇宙が赤い花の形で埋めつくされて、ついに私は消滅してしまう。そして、永遠の時の無限と、空間の絶対の中に、私は回帰し、還元されてしまう。これは幻でなく現実なのだ。私は心底から驚愕した。そして、怖いインフィニティ・ネッツに体を束縛される。
…のちに私の芸術の基本的な概念となる、解体と集積。増殖と分離。粒子的消滅感と見えざる宇宙からの音響。それらはもう、あの時から始まっていた。」
(『無限の網 草間彌生自伝』作品社、61 ページ)

…という、幼少期からえんえんと続いている、「脅迫」のようなビジョンと、それを乗り越えて作品にしていく旺盛な表現力、生命力。

<筋金入り>というのはこういう人のことをいうのですね。

「無限に続く全体のなかに溶け込んでしまう」という感覚は、少しわかる気がします。
鏡の部屋や永遠のはしごだけでなく、一連の水玉作品にも、その圧倒的な感覚が背後にあると思うと、見方が変わるはず。


屋上階は美しいかぼちゃのための空間。
完璧な青空でした。


近づくと、自分もカボチャの中で水玉世界の変な模様になっているのです。


彌生ちゃんのカボチャたちには特に心惹かれるわけではないのだけど、この磨き抜かれたシルバーパンプキンはいままで見たカボチャの中で一番好き。この場所がパーフェクト。

展示は年に2回、変わるそうです。次回は10月頃から新展示。




エレベーターの中も、無限の水玉。


ショップでハンカチ買った。たしか1,200円 2,000円でした。


『宴のあと[SOXTE]』(2005年)というドローイングをハンカチにしたもの。
やはりここにも増殖していくものたちが色々と好き勝手な方角へ。


細胞たちと顔たちと妄想たちが繰り広げる宴。

そのなかをわたくしたちは生きているということを思い出せてくれるハンカチです。

(ここでも)ああやっぱり図録買ってくればよかったー!ご飯一食抜いても!

とても楽しかった。また行きたい。


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2019/06/23

通りすがりの関係


緯度が高くて夏の日は長いシアトル。

夏至を過ぎて、夜10時まで明るいので、うっかり夜更かしをしてしまうこのごろ。
(…と書いてから、季節にはあまり関係なくうっかり夜更かししているのに気づいたが)



近所を歩いていると飛び切りの別嬪さんが。

にゅいーん、よっこいしょ、仕方ないわねぇ、と出てきて、


めっちゃ接待してくれた。

思う存分、猫成分を充電。


つかの間のしあわせよ、さようなら。


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2019/06/22

甘酒と霊獣、積まれていくもの


5月の東京の話です。

クライアントさんと神田で打ち合わせがあり、帰りに神田明神へ。

いつも華やかな感じのする境内ですが、元号が変わって「奉祝」ののぼりが立っていて、華やかさもひとしお。

社殿にむかって左手に新しいたてものができていて、その名も「EDOCCO」だって。
さいきんはやりの、和の単語をローマ字表記にするやつね。キッテとかソラマチとかの。明神様にはぴったりでかわいい。エドッコ。


(写真は公式サイトより)別名「神田明神文化交流館」。
去年12月にオープンしたのだそうです。1Fはショップとカフェ、地下はシアター、上階には多目的ホールやラウンジがあり、春にはジブリの展覧会をやっていたそうです。
最近アニメと縁が深いらしい神田明神。
いろんな層の人が来て賑わうのはいいことですね。
ワカモノや外国人にも受けがよろしいのではないでしょうか。

ショップがけっこう楽しい。神棚やお米やお塩も売っている。
オリジナルグッズも多く、ロゴのデザインも気が利いてます。
ミュージアムショップもだけど、オミヤゲ業界全般がこの10年くらいでものすごく洗練されてきた気がする。日本のおみやげショッピング文化は不滅ですね。

だけど同じ日本人女子でもたまに、お買い物一切が大嫌いという人もいるので面白い。
通訳のM嬢は、買い物には一秒でも余計に費やしたくない派だそうです。かっこいい。そうそう、この人は以前うちに泊まったときにも出したバスタオルを使わず、持参の手ぬぐい一枚で身を拭って出てきたので仰天したのだった。


 こんなの買った。柚子塩。なかみは高知のゆずと九州の塩だって。


「天皇陛下御即位記念」の祭てぬぐい。
この色の取り合わせと字体、いかにも江戸らしくて威勢が良い。

生前退位>即位っておめでたい一方でいいですね。
平成のはじまりはお葬式で、暗かったものねー。


東京総鎮守であり武将を祀る神社にふさわしい、すごく凛々しくて強そうな狛犬さん(獅子さん?)。
筋肉ムッキムキですね。敵に回したくない。

そしてこちらは…。



門前の老舗の看板息子。

ここの地下深くに、明治時代からの糀室があるのだそうです。


柱時計がたくさんある、寺山修司の映画にでてきそうな店内。


暑い日だったので冷やし甘酒。おいしゅうございました。


こちらは、お向かいの湯島聖堂の「大成殿」の屋根を守るものたち。

銅屋根の専門家集団「日本金属屋根協会」のサイトによると、てっぺんにいるのは「「鴟尾(しび)」の一種で、龍頭魚尾で頭から水を噴き上げている、鬼犾頭(きぎんとう)という「水の神として屋根の頂上にあって火を防ぐ」霊獣だそうです。

この孫の手がかさなったようなものは、水だったんですね。

睨みをきかせてる猫っぽい人たちは「鬼龍子」(きりゅうし)。
「想像上の霊獣で、孔子のような聖人の徳に感じて現れるという」。

この建物は関東大震災で焼失後、昭和10年に再建されたもの。戦災はまぬがれたのですね。火を防ぐ願いは切実。


いろいろなものに出くわす神田界隈。


植木ももりもり。

神保町界隈を歩くと必然的に古書をしこたま買うことになるのであらかじめ丈夫なカバンを持って出かける。

1階に看板がでていた、とある古書店をめざして、とても小さなエレベーター(定員4名くらいか、冷蔵庫のようなサイズ)に乗って4階に上がると、エレベーターを降りたところが…


…このようになっていました。

ええとこれは降りていいところ?と、しばらく躊躇したけれど人の気配がするのできっとこれはお店なのだろうと判断して先へ進む。

両脇に本がうず高く積まれているので荷物を持ったままでは通れない。入り口付近に荷物を置いて中を見ると、奥のほうに山に埋もれるようにしてレジがあり、お兄さんが一人ちんまりと座っていました。

「地震のときは大変ですね」って思わず聞いてしまうと「ええ、だいぶ崩れました」と静かに苦笑していらした。ひー。


ファンの多い有名喫茶「さぼうる」の入り口にある赤電話。現役かどうかは知りません。


そしてまた持って帰れないほど買い込んでしまう。
いったいいつ読了できるというのでしょうか。

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