今学期が始まる頃に購入した『資本主義が嫌いな人のための経済学』ようやく読み終えました。
面白かった。著者のジョセフ・ヒースは経済学者ではなくてカナダの若手哲学者で、右派(リバタリアン)の主張と左派(リベラル)の信仰(というべきでしょう)のおかしなところをスパスパと指摘する。
市場には口を挟まない「小さな政府」を信奉する右派に対しては、「資本主義は自主的秩序ではない」 ことを思い起こさせるために、実業家が実際には政府の手厚い保護を受けていることを挙げ、「見えざる手」ではなくて政府の「見える手」が資本主義には絶対に必要だ、と断言しています。
また、営利追求企業を悪の根源とみなす左派に対しては、企業は「特殊な協同組合」にすぎず、公営企業と比べて「道徳性」の点で特に劣った存在ではないことを指摘しています。
アナロジーが刺激的で、とぼけた語り口が面白い。
古典的に「見えざる手」と良く似ていると考えられてきたダーウィンの自然淘汰の「適者生存」メカニズムについて検証して、「進化は最適化ではない。むしろ生物界は次から次へと行なわれる巨大な底辺への競争の産物である」と言っています。
個として優位に立つことと、種としての優位性は必ずしも同じでないどころか矛盾することが多く、競争は生産的でないことが多い、という。これにはびっくりする人が多いのではないでしょうか。わたしはビックリしました。目からうろこ。
「自然淘汰がすなわち最適化だとしたら、地球上の生命はあまねく等しく細菌になるだろう。この地球上の生命の甚だしい多様性こそ、種の適応という観点から「最良」を選ぶという自然淘汰が失敗した結果なのである。」(第1章)
それから、以前、「ミクロ経済」の授業で「家賃統制」の失敗について、講師が「だから政府が市場に介入するのは間違いなんです」と、「需要曲線」を指して断言していたのが、本当にそんなに単純なことなのか?だから放っておくしかないのか?と、どうーーしても納得いかなかったのですが、この本ですっきりしました。
「フェアトレード」で良かれと思ってやったアフリカのシアバターの高値買いが招いた供給過多や、コーヒーの買い支えの無意味さ、トロント市の家賃統制によるアパートの供給難などを例にあげて、価格統制はやっぱり失敗する運命にあることを指摘。
その上で、価格を統制するのではなく、家賃補助などの形で貧しい家庭を援助するほうがずっと効率的だし目的にかなっているよね、と論じています(第7章)。
資本主義は「人類が考案した最も非集権的な協同システム」(第9章)として、しっかり見張って規制をしていかねばならないけれど、市場に勝る効率的なシステムはない、という結論です。
資本主義と経済学者の断言が怖くなくなる一冊でした。
Tomozoさん、初めてコメントさせていただいてます。
返信削除(3月の赤ちゃんお披露目のパーティーでお目にかかった者です。)
私も最近、いろいろと資本主義について考えたり、右派と左派の主張について考察するところが多かったので、Tomozoさんのご意見を面白く拝見させていただきました。
この本を読んでみようと思います!ありがとうございました。
Mumikoさん、こんにちは! コメントありがとうございます。
削除経済学者の主張を読んでもなんだか釈然としないことが多かったのですが、この本は面白かったです。フリードマンとかも斬り捨てご免にしてるしw
著者は基本的にエコでリベラルな人ですが、リベラルの人にありがちな頑固さを客観的に(むしろ茶化して)みている柔軟さが素敵です。右派も左派も、それぞれに急に思考停止してしまうある特定の地点があるようですよね。それを鮮やかに指摘していると思います。お勧めです!