2016/05/10

テオティワカンで死ぬかと思った


メキシコシティで泊まったホテルの窓からのながめ、朝7時ころ。
目の前のビル屋上にも、ピラミッド型の意匠がありました。(手前の左側に2つ並んでます)。

タクシー運転手エドガー君の最初のオファーは、
「8時半にホテルに迎えにいって、フリーダ・カーロ記念館を見に行って、それからテオティワカンに行って、そのまま空港へ」
というものでしたが、ピラミッドには暑くなる前に行きたかったので、朝7時半に迎えに来てもらうことに。いつもは9時から仕事を始めるというエドガー君、7時半というと一瞬考えていたものの快諾してくれ、7時20分にはきちんと髪の毛を整髪料でツンツンにしてやって来てくれました。

この半日の観光は、フリーダ・カーロの住居を記念館にした「青い家」とピラミッドの間で激しく悩んだのですが、やはりメキシコシティにはもう来ないのかもしれないのだから、世界遺産のピラミッドを実際に見てみるチャンスを素直に活かすことにしました。

メキシコシティ市街に向かう渋滞を反対車線に見ながら小一時間で着いた、テオティワカン(Teotihuacan)。

とても広い遺跡なので駐車場がいくつかあります。エドガー君に2時間後くらいに真ん中へんの駐車場で拾ってもらうことにして、一番奥の入り口で降ろしてもらいました。

開門は午前8時。
着いたのは朝8時半頃で、まだ日が高くなく、メキシコシティの街中よりも空気がひんやりしていて、Tシャツの上にカーディガンをはおってちょうど良かった。
まだ観光客の姿はなし。


ていうか、ほんとに誰もいなかった。

奥に見えるのが「月のピラミッド」と呼ばれる、この遺跡の中で2番めに大きなピラミッドです。

入場ゲートでキップ(入場料は65ペソ)をチェックするおじさんと、トイレを掃除しているおばさんのほか、人の姿がない。遺跡の隣の荒れ地でたくさんの犬が吠える声がわんわんわんわん響いてくるのも不気味。

少し離れたところにある最大の「太陽のピラミッド」の頂上近くにはちらほらと人の姿が見えるものの、「月」の方は完全に無人。

とんでもなく間違った場所にいるのではないか。という疑念がうっすら忍び寄る。

乱入した野犬の群れに噛み殺される図がちらりと頭をよぎり、かなりビビりながら「月のピラミッド」へ向かいました。
そしてこのピラミッドが、なんだかほんとに恐かった。



観光客であふれた真っ昼間なら別なのでしょうが、朝の薄ら寒い空気の中で見るこの建物は、なんだか冷たい不機嫌さをおもいっきり発散しているように見えました。

月のピラミッドの正面に、真四角の舞台のようなものがあります。おそらくは何かの儀式に使われたと考えられているらしい。あんまり平和な儀式ではなかったような気がする。



帰ってからナショナル・ジオグラフィックのドキュメンタリー(↑)を見たら、このピラミッドの内部からは生け贄と思われる多数の青年の骨が発見されたそうです。ひー。


その舞台から見た月のピラミッド。太陽のピラミッドのほうは眩しい朝日を浴びているのに、ここだけが暗い。だからなのか、ひどく陰気に見える。

テオティワカンという場所は人口20万人を擁した都市だったのに、アステカ帝国の興隆よりもずっと以前にこの巨大遺跡だけ残して滅びてしまい、文字の記録が残っていないので、どんな人びとであったのかはほとんど分かっていないのだそうです。

「テオティワカン」というのもアステカの人がそう呼んでいた名前で、ここにいた人びとが実際に自分たちを何と呼んでいたのかは謎のまま。

この遺跡の建物は紀元前100年頃から3世紀頃にかけて作られたもので、7世紀か8世紀まで栄えたといわれてます。 

700年以上ここにあって、急に滅びてしまったらしい都市システム。アメリカが建国200年足らずだから、700年ていうのは長い時間だなあ。


ここから南側を見ると、「死者の大通り」という、本当にだだっ広い通りが始まっています。20世紀に誰かが作ったテーマパークの廃墟だと聞いても納得してしまいそうな感じのスケール。ちょうどディズニーランドの門をくぐったところにある大通りみたい。正面にシンデレラ城がありそう。

あまりにも綺麗に保存されていてスケールが大きいので、1500年か2000年近く前の人びとが手で作ったものだというのが、どうにもピンと来ない。

この大通りは水を貯めておく巨大プールで、地震や火山の噴火の予測に使われていたのではないかという説もあるそうです。

その死者の大通りの北端にあるのが、月のピラミッド。さて。


月のピラミッドを真下から見たところ。一見して「これは、無理。」と思いました。

階段というより、「かべ」にしか見えない。

登れる気がしない。

でもここで登らなかったらこのあと一生「月のピラミッドの前まで行って登らなかった女」として自分を記憶する羽目になる。それも癪なので、のぼりましたよ。

このかべの怖さに頭が煮えたぎっていたため、なぜか中央にある手すりに目が入らず、ほぼ四つん這い状態で尺取り虫のように、一段ずつはじっこを登っていきました。

ピラミッドに来る予定はなかったのでもちろんリュックなどは持ってなくて、「トレーダージョーズ」のエコバッグを肩にかけ。しかも中に入っていたはずの水はエドガー君の車に置いてきてしまい、トレジョーバッグにほとんど意味なし。

もちろんすぐに息が切れ、ぜえぜえハアハアしながら、ちらと下を見ると、おしりがひゅうと寒くなる。
日本人観光客転落死。という新聞記事が脳裏をかすめました。
とくに自分は高所恐怖症ではないと思ってたんだけど、意味もなくこんなに高い場所にへばりつくのは向いていないようです。むちゃくちゃ怖かったです。

泣きそうになりながらようやく階段のてっぺん近くまで来た頃、後からオシャレ青年2名が颯爽とやってきて、手すりにちょっと掴まってあっという間に登頂。わたしがまだ尺取り虫状態で途中にへばりついているというのに。

あっ、手すりってあったんだ…と、その時気づきました。



本当に死ぬかと思った約30メートルの階段の上から、死者の通りと太陽のピラミッド。


階段の上。かなり広い踊り場のようになっています。ここも何か儀式の場所だったのかもしれません。右側にオシャレ青年たち。

 
この踊り場の上には、さらに陰気な階段が2セット。でもこの先は立ち入り禁止のロープが張られていました。もともと頂上には神殿があったと考えられているそうです。

降りる時は手すり(スチールのロープにビニールがかけてあるとても頑丈なもの)につかまって割合にさくさくと降りることができました。さようなら、月のピラミッド。生きて降りられて本当によかった。


「月」のすぐとなりにある、四段のミニピラミッド。
踏み段に、朝日を浴びてくつろいでいらっしゃる地元の方が。世界遺産というより、体育館の裏口にでも座っているような、そういう雰囲気でした。

このピラミッドに使われた石は、ここからかなり離れた火山の溶岩を人力で集めてきたのだという話です。大きめの石のまわりに小石を並べて水玉模様のようにしているデザインはどのピラミッドにも共通してました。


造った人びとが石の色に意味を込めたのかどうかはわかりませんが、テクスチャーも色の取り合わせも本当に綺麗。目の粗い紙にグワッシュ絵の具で描いたみたいな感じです。
特に朝日を受けた色が素晴らしい。この時間に行ってよかった。

大きなカメラを持っていかなかったのは幸いかも。写真を撮り始めたら欲が出て2時間じゃとても足りなかっただろうし、きっと月のピラミッドにカメラを下げて這いつくばっては登れなかったと思う。


月のピラミッドを後に、まだひと気のない「死者の大通り」をとおって太陽のピラミッドへ向かいます。
念入りに作られたシュールな冗談の中で何か自分でも納得できない役割を果たしているような、そういう夢に出てきそうな風景です。


死者の大通りの真ん中で、メキシコおじさんが携帯電話で誰かと議論をしていました。
隣にある丸い石は、ここから出土した水の女神の像だそうです。

 水の女神。

おじさんと月のピラミッドを振り返る。


遠ざかる月のピラミッド。この風景は、なんだかロールプレイングゲームみたいでもある。

そしてこの死者の大通りの真ん中に、メキシコおばさんが一人ぽつんと座ってお店を広げていました。英語がけっこう達者で「あなたは私の今日の第一のお客であるから、よい値段で売ってさしあげる」と、布の上に並べた変な形の土笛とかプラスチック製のピラミッドの模型とかを売りつけようとするのです。

ピラミッドに登ってきた勇者としては、ここで何か強くなるアイテムをゲットしていかねばならない気がして、でも特に欲しいものがなかったので、音楽家のM太郎にあげるため、アグリーな色に塗られたフクロウの土笛を買いました。
デザインはとんでもなくアグリーだけれど音色は素朴で、 おばさんが吹くと本当にフクロウみたいな声がするのですが、帰ってきてどれだけ練習してもなかなかフクロウらしい声になりません。

死者の大通りを歩いていると、真っ赤な小鳥が(名前をエドガー君に聞いたのだけど忘れてしまった)先導してくれました。


太陽のピラミッドには、てっぺんまで登ることができます。右に見えるのは月のピラミッド。
こちらは手すりの存在に最初から気づいていたこともあり、4セットくらいの階段を比較的ラクに登ることができました。少なくとも死ぬほど恐いところは一つもありませんでした。


太陽のピラミッド頂上からメキシコシティ方面を見ると、街の上空にスモッグがぺったりとはりついているのがわかります。

地元のティーンエージャーたちがグループで来ていて、楽しそうにケラケラ笑っていました。ピラミッド頂上に座った6人くらいの子どもたちの中の塗らなければいいのに厚化粧した綺麗な女の子が、歌謡曲みたいな歌を歌いはじめて、なかなか上手にコブシをまわしているのでした。ピラミッドにも朝にもふさわしそうな曲ではなかったけれど。


ほんとうに色々な溶岩のコレクション。途中から靴をぬいで裸足で階段を降りてみると、足の裏にこの溶岩たちのテクスチャーがとても気持ち良かった。


降りてゆくティーンエイジャーたち。「今日は金曜だからピラミッドにでも行こうよ」と誘い合わせて来たのだろうか。謎ですが、街の子たちみたいだった。


下から見た太陽のピラミッド。
10時をすぎると人もだんだん増えてきて、土産物を売るおばさんやおじさんも次々に店を広げはじめます。フクロウの笛のほかにもジャガーの唸り声になる土笛も人気アイテムらしくあ、ピラミッドの下でおじさんがずっとジャガーの笛を吹いているので、とてもやかましい。

メキシコの人たちは基本的に賑やかなのが好きらしく、そのぶん周りの騒音もあんまり気にしないのではないかという気がします。

石でできたカメや笛やペンダントを売りつけようとするおじさんやおばさんをかわしながら出口へ。


「太陽のピラミッド」を振り返る。
ピラミッドから駐車場へ真っ直ぐ続くこの道には、善光寺参道みたいな具合に土産物店がずらりと並び、ピラミッド栓抜きだのアステカのカレンダーだの帽子だのアクセサリーだのを売ってました。

ピラミッド登頂の翌日はびっくりするほどの筋肉痛に見舞われ、2日間は階段を降りるのも一苦労でした。こんなにも筋肉を使っていないのか!と改めてびっくり。いかーん!


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