2011/05/25

ノーマン・ロックウェルの絵


タコマ美術館で、ノーマン・ロックウェル展を見てきました。

20世紀初頭から70年代までの、アメリカの一番幸せな風景。

感謝祭の家族や、夏休みの家族旅行、血色の良いサンタクロース、雑誌の女優さんを見ながらこっそり口紅をつけて鏡に向かってポーズをつくる少女、悪戯がばれて全速力で逃げる悪ボウズたち。

今の少年少女はご存じないと思いますが、ずっと昔、ミスタードーナッツのパッケージをペーター佐藤さんが描いていたころ、「アメリカが青春だった頃のアメリカがある」というコピーがつけられていました。

きっと1950年代頃をイメージしたコピーとイラストだったのだと思う。見ながらそれを思い出しました。


ノーマン・ロックウェルは、「キッチュで俗っぽいコマーシャル画家」というレッテルを貼られて、生前は批評家にはほとんど顧みられなかったそうだけど、その作品は一般のアメリカ人に長く広く愛されて来た、国民的画家。

 ケネディの肖像やピースコープのイメージ画など、衒いがなさすぎて見ていて気恥ずかしくなるような一直線の絵もあるけど、ユーモアと懐の広さ、観察の鋭さ、イキイキした人物描写、そして超絶的なうまさ、やっぱり巨匠です。
 
冷笑的ではないけれども、一歩引いたところから人間を見る少し皮肉なユーモラスなまなざしは、マーク・トウェインのユーモアに良く似ている気もする。同時代の偉大な作家として、若いロックウェル氏はきっと愛読していたのじゃないかと思います。

ロックウェル氏は『サタデー・イブニング・ポスト』誌の表紙を半世紀にわたって描いたのですが、当時はサービス業以外の立場で黒人を描いてはいけないという約束ごとがあったそうです。

黒人は、ポーターとかコックさんとか、そういった立場でしか絵に登場させることが出来なかった。

それが当時の「良識」だった。

「アメリカが青春だった頃のアメリカ」は、カラードピープルの公民権を抑圧していたアメリカでもありました。

やがて激動の60年代が来て、ロックウェルは『LOOK』誌に舞台を換え、後の時代に世界中の教科書に載ることになる絵を発表します。



真っ白なワンピースを着てノートと物差しと鉛筆を持った小さな黒人の女の子が、4人の白人の男性に守られ、毅然として歩いていく光景。


ルイジアナ州で、白人専用だった小学校に黒人受け入れの裁判所命令が下り、初めて登校する生徒を描いた絵です。
壁には「ニガー」というラクガキと、投げつけられたトマトが潰れたあとが描かれています。

The problem we all live with』と題されたこの絵は、21世紀になった今見ても、喉が詰まります。

決然として動じない女の子の表情と、踊るような軽い足取りの、顔の見えない連邦政府の大人たち。アメリカの良心はかならず正義を守る、と宣言しているような絵です。
やっぱりシニカルにも絶望にも決して行かないストレートな明るさで。この明るさが同時代の人にはイラっとくるところだったのかもしれませんね。

「イラストレーター」として紹介されるし、軽いタッチなので、ロックウェルの絵は水彩なんだと思いこんでいたら、全部油絵だったので驚きました。この絵なんかはかなりの大判で、実物を見ると潰れたトマトがなまなましい。

展覧会の真ん中の大きなスペースをとっていたのは、公民権運動を描いたもう一つの大判作品『Murder in Mississippi』でした。

KKKに銃殺された活動家を描いたもので、撃たれて倒れようとする黒人の同胞の肩を抱えて、自分に向けられた銃口を冷たい目で見ている白人の活動家のヒロイックな姿が描かれています。

ロックウェルの作品には珍しくセピア1色で描かれた作品で、当時は衝撃的な問題作だったようです。

やっぱりここでもヒーローは白人なんですか、と思わずにいられないけれど、それが画家の、というよりも、この時代の「良識」の限界だったのでしょう。

たかだか半世紀で、国も人も劇的に変わるもの。トム・ソーヤーのような少年たちの絵を眺めながらしみじみ思うことでした。

会期はメモリアルデーまでですよ!


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2 件のコメント:

  1. ノーマン・ロックウェル、いいよね〜。最近発見したスウェーデンの画家のカール・ラーション(Carl Larsson)が、ノーマンさんの絵のスタイルに似てるの。あ、でもカールさんの方が年上だから、ノーマンさんがカールさんに似てるのか。
    彼は油も水彩もやったんだけど、水彩のが多かったみたい。水彩のわりには絵がヘビーな感じ。
    実は今わたし、カールさんに影響された絵を描いてる所です。うふふ。

    この2人の絵を私は似てると思うんだけど、どっちが描いたか言われないで絵を見せられたら、確実に答えられる気がする。それぞれアメリカとヨーロッパの匂いがプンプンしてる。

    ミスドの「アメリカが青春だった頃のアメリカがある」、覚えてるよ〜。お持ち帰りボックスの絵も好きだった。懐かしいね。

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  2. Carl Larsson、ぐぐってみますた。
    ヨーロッパのかほり!
    ロックウェルさんよりはちょっと前の世代なのね。交流あったのかな。
    影響受けたのだろうね。

    ミスドのペーターさんのイラストは、ロックウェルをイメージしてたんだろうなあ、と今回思ったです。
    あの後だったかのオサムグッズが大好きで、つい最近までうちにお弁当箱あったw なつかしいw

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