2016/06/19

IJET-27(1)東北ハムレット


日本翻訳者協会(JAT)主催の第27回英日・日英翻訳国際会議(IJET-27)に行ってきました。
会場の仙台国際センターは、泊まったお家から徒歩10分。公園を右手に見て、広瀬川をわたってすぐでした。青葉城が目の前。いいところだー。


1日め、土曜日の基調講演は、東北学院大学の下館和巳教授。

下館教授が主宰・演出する「ザ・シェイクスピア・カンパニー」は、シェイクスピアを東北弁に翻訳した「東北人による東北人のための」シェイクスピア劇を公演してます。

妖精をワカメや牡蠣やタコに変えて松島を舞台に公演した『真夏の夜の夢』を皮切りに、東北弁で東北の人びとのためにシェイクスピアをやることの意義を見出したという下館教授の話、ほんとうに面白かったです。

ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに行って「ザ」シェイクスピア・カンパニーという名前にお墨付きをもらった話。

松島での公演で、お客の入りの悪さに気をもんで無料ビールまでつけたけれど、最終的にたくさんの島の人や外からの人が見に来てくれた話。

見に来てくれる島のおばあさんたちが役者に声をかけるので、上演時間がどんどん長くなる話。

下館教授は、シェイクスピアの時代にも舞台の観客と役者との距離はこのように近く、劇場は猥雑なエネルギーでいっぱいだったのではないかといい、そして、シェイクスピアの作品をこのように変形させてしまうことで作品が傷つくのではないかと聞かれたら、「英国人は傷つくかもしれないがシェイクスピアは平気だ」と答えるといいます。

もちろん単に面白いから東北弁にしてみた、というだけではなく。

東北の役者たちが東北の人の前で公演するために、必然的ですらある東北弁シェイクスピア。演劇と言葉の深い精緻な理解に基づいて、東北の土地に移植されています。

ユダヤ人とイタリア人の差別の話である『ベニスの商人』は、東北で商いをする近江商人の話に。『ハムレット』は戊辰戦争後の東北に。
『オセロ』は虐げられたアイヌに。『リア王』は寿司屋の主人に。『マクベス』の魔女は恐山のイタコに。

有名なハムレットの科白、
To be or not to be. That is a question.
は、言葉の音がとても女性的な余韻を残し、観客に苦悩を投げかけ、その悩みに巻き込んでいるのだというのです。だからto DO ではなく弱々しい BE が使われていると。

この東北弁訳は、

「すっか、すねがた。なじょすっぺ」


下館教授の講演のあと、カンパニーの役者さんたちが『ベニスの商人』『ハムレット』『オセロ』『リア王』『マクベス』のさわりを見せてくれました。
東北弁、16世紀のクイーンズイングリッシュなみに、難しい。

震災のあと、活動休止状態だったカンパニーは被災者の方々のために公演を再開して、被災した各地を回ったそうです。

アメリカだったらこういう活動にはどこかからどどーんと資金援助が出ると思うのだけど、日本ではなかなかそういうわけにいかないのでしょうか。
 

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