2018/11/11

濃すぎて仰天のザ・メニル・コレクション


今週は、思いのほかバタバタでした。もう1週間たっちゃったけど、ヒューストン日記のつづきです。

ロスコ・チャペルを検索で発見し、そのチャペルがこのThe Menil Collectionの一部であることを知ったのは、ヒューストンに行く数日前のこと。

アメリカは地方都市にも奇特なお金持ちがいて、モダンアートの美術館なんかも作ったりしてるんだなー、ふーん、ちょっと見に行ってみよう。…くらいの気持ちでいたのですが、サイトを見ればみるほど、もしかしてここってすごいかも?という期待感が高まり。

そして行ってみたらもう本当にびっくり、脳髄を吹き飛ばされるような美術館でした。
アメリカ人がよくいう「ブロウ・マイ・マインド」ってこういうことをいうんだなと思った。
 
超ツボ!  きっとわたしのために作ってくれたんだ、と思うようなミュージアム。

そしてなんと入場は無料なのです。

デ・メニルさん、本当にありがとうございます。

オープンはロスコ・チャペルよりもずっと後で1987年。これは奇しくも、前日に行ったあのポストモダンなコンベンションセンターの完成と同じ年。

でもまあなんと、方向性がまったく違うことよ。

クリーンでミニマルなこのメインビルディングの設計は、イタリアのレンゾ・ピアノ。

1970年代に美術館建設の計画はあったものの、デ・メニルさんが亡くなったために計画はしばらく頓挫し、80年代になって夫人のドミニクさんがすべてを仕切ってオープンさせたとのこと。


デ・メニル夫妻はそれぞれフランスの名家の出身で、ナチスがフランスを占領した際にアメリカに逃れ、60年代に帰化しています。

デ・メニルさんはフランスでは銀行業にたずさわり、アメリカに来てからは油田調査の国際企業シュルンベルジェの社長に就任(夫人のお父さんが創業者)、そのためにヒューストンにきょを構えたそうです。

フランス時代からアートを収集していて、まだほとんど無名だったマックス・エルンストに肖像画を描いてもらったこともある。(でもあんまり気に入らなかったらしい)

アメリカに来てからはニューヨークシティにもよく行き来して、ラウシェンバーグ、ジャスパー・ジョーンズ、イヴ・クライン、ルネ・マグリット、アンディ・ウォホールといったアーティストと親しくつきあっていたそうです。

はーなるほどー。
モダンアートは、こういうコレクターに支えられていたんですね。

ニューヨーク・タイムズに「 モダンアート界のメディチ家」というタイトルの1986年の記事がありました。
メディチだったんか!


そしてYouTubeに、デ・メニルさんのお家とこの美術館についての短いビデオがありました。

デ・メニル夫妻はヒューストンに移り住んで、「ガラスの家」で有名なモダニズムの建築家フィリップ・ジョンソンに自宅の設計を依頼。ヒューストンの豪邸が立ち並ぶ中に、まわりとはまるっきり違うガラス張りで四角いモダニズムの、ヒューストンの感覚からいうと比較的地味めな邸宅を建てて、テキサスの社交界に衝撃をあたえたという話です。

(ちなみにフィリップ・ジョンソンは最初、ロスコ・チャペルの設計も頼まれたのだけど、ロスコと意見が衝突して降りたという話…)。

上のビデオでちょこっとでてくる、この邸宅が素敵すぎる。かっこええー。

ほんとうにこんな生活を送っている人が世の中には実在するんですねぇ。


 これはロスコ・チャペルと本館のあいだにある(約徒歩3分くらいの距離)マーク・ディ・スヴェロの彫刻。

表にもたくさん立体作品があって、緑が豊かで、なんなのここは?天国?と困惑してしまうような一画でした。

さっきウィキで読んだばかりですけど、「ヒューストンは文化の砂漠だ」と言った友人に対してデ・メニルさんは「砂漠でこそ奇跡は起きるんだ」と答えたとか。

アブラハムが神に出会ったのも砂漠だったり、聖書では、神が出現するのはたいてい砂漠/荒野なんですね。

もーいちいちカッコよすぎる。デ・メニルさん。




そしてですね、このメインビルディングに収められているコレクションがまた素晴らしく、わたしのツボをピンポイントで押してくるのです。

館内は撮影禁止なので、えんぴつでメモりました。

まずはマックス・エルンスト。

わたくし、なぜか10代のころにマックス・エルンストの絵葉書をずっと部屋に飾っていたことがあるのですが、そのわりにエルンストの作品って実は数点しか見たことなかったかもしれない。

この美術館で、小さな部屋なんですが、1940年代ころのエルンストの彫刻や版画をぎゅっと集めたギャラリーを見て、あらためてやっぱこの人めっちゃ好きだわー!と思いました。かわいい!すっとぼけたテイストと、行く場所のないような切実さ。

そして、ルネ・マグリット。

この人の作品は、あちこちの美術館でチラチラと見たことはあったし印刷物でももちろんよく知っていたものの、なんかあんまりピンと来たことがなかったんですが、10点ほどの作品を集めたここのマグリットの部屋を見て、はじめて、ああそうなのか!そういう作品なのか!と、その世界観が納得できた気がしました。

アートでもなんでも、そのものが「語り始める」瞬間ってありますよね。

まあ妄想といえば妄想ともいえるのだろうけど、作品とのあいだに個人的な、いいようのないつながりを感じることがなければ、コレクターもアートを収集しようとは思わないと思う。

ずっとマグリットについてはなんかちょっととりつきにくいな、わかったような気はするけど別に面白くないな、と思っていたんだけど、それが、この部屋に行って、なにかがカチッとはまったように「はあああ、面白い!」と思ったのでした。

きっとそれはコレクターのパワーなのだと思います。

たぶん、並んでいる作品同士のケミストリーがすごいんだと思う。

あと、そのまんなか辺にあった「シュール部屋」。


こぢんまりした10畳位の部屋に、シュールレアリストの悪夢をかきたてそうな、ありとあらゆるヘンなものが並べられている。
『ヘルレイザー』みたいな人形とか、イヤな感じのお面とか標本とか 。
ここはあんまり長い間いると徐々に気が狂いそうな気がしたけど、ほんとに面白かった。

そのほか、ロスコ、レジェ、ミロ、カルダー、ジョセフ・コーネルなど、それぞれ点数は多くないんだけど、中身がすごーく濃いと感じました。

キュレーターが集めてきたコレクションとは違う、作家と直接交流を持っていたコレクターのコレクションの、なんというか<ナマのパワー>が充満している、そういう美術館です。

そして、アフリカや太平洋地域のアートにも怖いものがたくさんあった。
ノースウェストの部族のものもいくつか。

そして、この本館のほかに、まだ周辺にいろいろ別館があるのです。



この殺風景な倉庫のような建物は、ダン・フレイヴィンさんというミニマリズムアーティストのインスタレーション作品だけが展示されている専用棟。

 中はこのようになっております(ザ・メニル・コレクションのサイトより)。

ここへは本館から徒歩4分ほど。

もちろんこちらも無料です。
もとはスーパーマーケットで、その後クラブなどに使われていたという建物。入り口がわからなくてウロウロした。

入り口にはものすごーく暇そうなお兄ちゃんが座っていて、写真はダメよ、傘はそっちにおいてね、と案内してくれました。ここに一日座ってるのは暇だろうなあ。

この奥の部屋にもうひとつインスタレーションがあって、そこは白い蛍光灯でできた彫刻がいくつかおいてある。
ずっと見てると目が痛くなる。

ここはものすごく綺麗なんだけど、この体育館のような空間にぽつんと立っていると、一体ここでわたしは何をすればいいの?という気分にさせられて落ち着きませんでした。写真でみたほうがむしろ綺麗かも。

でもそれにしても、なんとも贅沢な空間です。アーティストのフレイヴィンさんはこのインスタレーションをデザインし終えてすぐ亡くなったそうな。幸せだったでしょうね。

また、サイ・トゥオンブリーさんの作品だけを集めた別館もあります。



さらに、ビザンチンのフレスコ画を再現したチャペルというのもあるそうだけど、そちらは時間がなくて行けませんでした。


この美術館群がある一角にも例のオークの巨木が並木になっていて、素敵な住宅街なのです。
メニルさんがこのへん一帯を買い上げて、家々をぜんぶ落ち着いたグレーに塗りなおし、アーティストたちを住まわせていたこともあるそうです。住宅街まで作っちゃうところがすごい。

ザ・メニル・コレクションにはビストロもあって、なかなかよさげです。行ってみたい。

文化の砂漠に小規模な奇跡をおこした夫妻。すごいですね、本当の「地の塩」。

ヒューストンに行けて本当によかった。ぜひぜひまた行きたいです。


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