2014/11/26

ファーガソン




To be a Negro in this country and to be relatively conscious is to be in a rage almost all the time." -James Baldwin

(この国にいて、ニグロであって、そうしてどちらかというと目があいているほうだ、ということは、ほとんどいつも怒りでいっぱいだ、ということである。ージェイムズ・ボールドウィン)

きのう、ツイッターで流れていた文章。ボールドウィンのどの文章なのか、裏は調べてないけれど、ぐぐったらほかでも3万件以上引用されていた。

ボールドウィンは1924年生まれの黒人作家だけれど、この言葉は21世紀の若者たちにも、まだこれほどに共感されている。半世紀以上前にボールドウィンが感じたのとあまり変わらない感想を自分の国に抱いて暮らしている人が、それだけいるということ。

火曜日のミズーリ州ファーガソンの大陪審の評決で、18歳の黒人少年マイケル・ブラウン君を射殺した白人警官が有罪にされなかったことにとても多くの人ががっくりして、怒っている。ファーガソンで車が燃やされたり、まったく関係ない店が燃やされたりの映像が流れていました。シアトルでもダウンタウンでデモがありました。

ネットでたまたま見たテレビ東京のニュースのアナウンサーが「この評決を受けて波紋がひろがっています」と紋切り文句を言っていたけれど、いや波紋はもう200年前から広がりっぱなしなんですって。

アメリカは奴隷制度というとんでもない矛盾をかかえて出発した国。

南北戦争を経て公民権運動を経て、それでもまだまだ傷はナマのままぱっくり口をあけている。社会のシステムや代々受け継がれる生活感覚に組み込まれている憎しみや格差は、100年やそこらじゃぜんぜん解消しない。

ボールドウィンが文章で表現したこの怒りは、ずっとメタンガスのように社会のそこのほうにたまっていて、こういう事件を得て急激に爆発する。

アメリカに生まれたアフリカ系の男の子は、成人するまでに「戒律」を教えこまれる。警官に車を止められたり職務質問されたりしたらおとなしく従うこと。腹が立っても、逆上して危険な人に見えるような言動や行為を警官の前で絶対にしないこと。

黒人は警官に撃たれる可能性や逮捕される可能性が白人よりもずっと高い。

たとえばおんなじように酔って道で騒いでいたとしても、白人の男の子グループと黒人の男の子グループでは警官の対応がまったく違うことは、だれでもが知っている。

黒人が逮捕されて収監される確率は、白人の6倍。いま現在、アメリカの刑務所人口は230万人で、そのうち100万人近くが黒人。


射殺されたマイケル君は、うちの息子とほぼ同じ年。まったく他人ごとではありません。

うちの息子は半分アフリカ系だから、中身はハワイでのほほんと育ったアジア系であっても、キケンな人物に見えて射殺される可能性は、たぶん同世代の白人の男の子よりもずっと高い。


ファーガソンの事件は、特殊だったからこれだけ注目されているのではなくて、あまりにも典型的で、よくありすぎるからこそ、注目を浴びている。

問題になっているのは、人種による偏見で有色人種が撃たれやすいということだけじゃなくて、警官があまりに簡単に発砲してるんじゃないの、ということもあります。

いったい年間に何人が警官によって射殺されているのかというと、ワシントンポストの記事によると、アメリカにはきちんとしたデータがまったくないのだそうです。

なにしろアメリカの警察は市とか郡とかの自治体が運営していて、17,000も警察組織がある。そして、警官が民間人に発砲しても別に届け出とかの義務はない。

ニュースをしらみ潰しに調べた人の研究では、2011年だけで607人が警官に射殺されている。
ちゃんと報告させたら1000人にはなるはず、と言われてるそうです。

シアトルでも数年前、小さな彫刻刀を片手に持っていたネイティブ・アメリカンの彫刻家がパイオニア・スクエアで警官に撃たれて亡くなったし、ほかにも警官による過度な暴力で死んでる人は毎年のように出ているけど、どの件でも警官はもれなく無罪放免されてます。

ちなみに、FBIは撃たれて殉職した全国の警察官の数は把握している。その数は、2012年で44人。

そして警察の武装は、全国で年々、ますます重装備になっています。

息子が間違っておまわりさんに撃たれませんように、と祈らなきゃいけないなんてほんとに冗談じゃないと思うけど、アメリカっていまも割合にそんな国。




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2 件のコメント:

  1. マイケル・ブラウン君はBLOODSというストリートギャングだったんですよ。
    親は離婚してますが、実母と継父もBLOODSで、継母と実父はCRIPSという別の(元?)ストリートギャング。
    実母は先月、BLOODSメンバー20人ほどを引き連れて暴行傷害事件を起こしてます。
    この2つのギャングはBLOODSが赤の、CRIPSが青の服や小物を身につけています。
    マイケル君の葬儀で実母継父は赤の、継母実父は青の服着てます。
    ファーガソンはもともと犯罪率全米3位の治安の悪い場所ですよね。
    そんな街でBLOODSの巨漢マイケル君が赤いキャップとパンツ姿でコンビニで盗みを働いてたんです。
    アメリカは黒人差別問題があるけど、今回のはちょっと違うと思います。
    オバマ大統領はそういう背景を知っているはずですが、なんか差別問題に持って行こうとしているようですね。
    息子さんには、服装に気を付けるように、そして治安の悪い場所に行かないように注意してあげてください。

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    1. 匿名さん、こんにちは。コメントありがとうございます。

      ファーガソンの事件がこれだけ多くの人の関心をひいているのは、上にも書いたように、それが特殊な事件だからではなくて、あまりにもよくありすぎる事件だからです。

      米国でも、コンビニで盗みを働いたギャングの格好をした怖くみえるティーンエイジャーは速攻射殺して良いという法律はさすがにありませんが、警察官がまるでそういう法律があるかのように振る舞ってしまうことが、残念ながら珍しくない、ということです。(映画とかテレビ番組もこれを助長してると私は思います)

      そしてまたそれと別問題として、大統領とかデモの人たちが「なんか差別問題にもっていこうとしている」んではなくて、「実際に明らかに有色人種であることで撃たれやすいという事実がある」ので、多くの人が怒ってるんです。
      白人と同じ服装をして、同じ街角で同じ態度で同じ行動をしていても、黒人やヒスパニックやネイティブ・アメリカンだと警察に同じように扱われない場合がある、地域によってはものすごくたくさんある、ということです。

      ファーガソンのマイケル君の事件は、たしかに白黒はっきりしない部分もあり、警察コミュニティが反発する気持ちもわかりますが、警官による射殺事件が年間に何百件もあるというのはやはり異常なことです。
      先週エアガンを振り回していて公園で射殺された12歳の男の子、シアトルで射殺されたホームレスの彫刻家、ベルビューで酒酔い運転のあと逃げて背中から5発撃たれて死んだドライバーなど、みなそれぞれに過失があったとはいえ、射殺されるほどの過失ではなかったはず。
      警官の銃の使い方はもっとしっかりしたシステムで監視されたほうが良い、ということは冷静に議論されるべきだと思います。

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