2012/09/13

ラシュモア山


ラピッド・シティの、というより、サウスダコタ州の観光の目玉といえば、Mt. Rushmore、 ラシュモア山。

サウスダコタ州観光局のサイトも当然、この図柄です。

1920年代にサウスダコタ州知事が「ぜひわが州に観光名所を」と、あちこちに働きかけまくり、ついに連邦議会から資金を勝ち取って作らせた像なのだそうです。狙いは見事に当たって、今では国際敵な観光名所になりました。

この超有名な大統領たちの頭像は、ラピッド・シティから坂道を20分くらい登っていったところにあります。

この道の両側には「爬虫類館」とか「クマ牧場」とか、しょ〜もない(失礼)ような観光アトラクションがてんこもり。

よくいう「tourist trap 」とはまさにこのこと、という見本市みたいな道でした。

そしてラシュモア山のすぐ麓には宿が何軒か立ち並び、まるで「門前町」のよう。ひさびさに純粋な「観光地」を見たって気がしました。





ラシュモア山入口では、1台につき「駐車料金」11ドルを徴収されます。ここは「ナショナル・メモリアル」で、国立公園局の運営だけど、国立公園の年間パスは使えません。ちぇっ。



立派な屋根付きパーキングや、こんな ↑ 広々とした展望台、カフェテリア、屋外シアターなどの施設がピカピカで巨大すぎて、肝心の彫刻が、ちっちゃく見える。




サイズや印象からいったらピンで立ってる「高崎観音」のほうが、でかいし遠くからも目立つ。

ていうか、なぜ、たったこれだけのものを見に、全米から、さらには全世界から、人が集まるのでしょうか。

サイズが大きめの白人のおじちゃんおばちゃんが多かったけれど、インド人家族や日本人家族もちらほら見かけました。

ダイナマイトで砕かれて斜面に崩れたままの砂利が痛々しい。

こんな綺麗な岩山にこんなモノを作ってしまって、というのが素直な感想で、むしろ究極の キッチュアートに見えてしまいました。

たぶん今までこの図柄をあちこちで見過ぎているからで、まったく何の前知識もなしに見たら感動したかな、とも考えてみたけれど、やっぱり「………え、なんだこりゃ?」と思うような気がする。なんか、岩山に寄生した奇妙なキノコのように見える。






 建国の父ワシントン(左)、独立宣言を起草したジェファーソン(そのとなり)、奴隷解放を宣言して北軍を勝利させたリンカーン(一番右)に囲まれて、「ちょっとここ、失礼しますよ」とまるでカーテンの陰からこっそり出て来て奥のほうで勝手に仲間に入っているかのように見えてしまう、テディ・ルーズベルト(右から二番目)。

「なぜテディがこの3人と一緒に?」と疑問を持つ人はアメリカ人の中にも多いようです。

テディさんはまったくの東部出身ではあったけれどモンタナに牧場を持ってカウボーイ&狩猟家で売り出していた、西部に縁の深い、愛されキャラの大統領だったし、それに実はこの像を彫った(実際の作業には多くの人夫を使っていたので「監督した」というべきですね)彫刻家の長年のパトロン&友人だったので、この殿堂に仲間入りしたようです。

偉大な3人に囲まれたテディさんが遠慮がちに、少し居心地悪そうに見えるのはわたしだけでしょうか。

 でも20世紀の初めに、アメリカのフロンティア精神と帝国主義を結合して米国の西進を押し進めた政治家だったから、この輪の中に入るのはある意味、的を得ているのかもしれません。

建国&自由平等の精神>南北統一・産業の勝利>そして大西洋と太平洋にまたがる大国への道、という流れで。テディ・ルーズベルトのキャラクターをもって、東部のエスタブリッシュメントの白人たちは、はじめて西部を心情的に「所有」することができた、つながりを持てたと言ってよいのではないでしょうか。

この御影石の山に大統領の顔を彫るという行為は、この土地に入植して町を作った白人コミュニティと合衆国政府とが宣言する「所有」のしるしにほかならないです。牛に押す焼き印のような。

ラシュモア山があるBlack Hills (ブラックヒルズ)一帯は多くのインディアン部族にとって特別な土地で、特にラコタ・スー族は、いったん19世紀にこの土地を居留地として与えると政府から約束されておきながら、金鉱が発見された後でその約束を反古にされているため、なんと100年以上たった現在でも土地の返還を求めて法廷で係争中です。

1980年に最高裁判所が、合衆国政府がブラックヒルズの土地をラコタ族から不法に取り上げたとして1億ドル以上の賠償金を支払うよう判決を出したのですが、「この土地は売り物ではない」として、ラコタ・スー族は受け取らず、今でも土地の返還を求めているというのです。

彼らにとっては、祖先の土地に勝手に彫られた白人の首長たちの顔は、それが「自由、平等」という旗で飾られていたとしても、いまいましいものに違いありません。



 

独立記念日には花火ショーがあるそうです。それを見に来る人たちのほとんどは、この土地を返してほしいと言っている人がいることなど聞いたこともないでしょう。

奴隷制の負債がまだ社会の中に根強く残り、全然解消されていないのと同じく、インディアン戦争も、百年以上たっても、まだ決着などしていないのです。

彫刻家本人はこの像は「アメリカに限らず、すべての共和制の民主国家のためのモニュメントだと語っています。

それを受けて、1936年にフランクリン・D・ルーズベルト大統領がこの像の前で語ったスピーチがあります。


I think that we can perhaps meditate a little on those Americans ten thousand years from now, when the weathering on the faces of Washington and Jefferson and Lincoln shall have proceeded to perhaps the depth of a tenth of an inch, and wonder what our descendants—and I think they will still be here will think about us.
Let us hope that at least they will give us the benefit of the doubt, that they will believe we have honestly striven every day and generation to preserve for our descendants a decent land to live in and a decent form of government to operate under.

(少し時間をとって、いまから1万年後のアメリカ人のことを考えてみましょう。その頃には恐らく、ワシントンやジェファーソンやリンカーンの顔も10分の1インチほどは風雪にすり減っていることでしょう。そのとき、我々の子孫たちは…まだきっとこの土地に住んでいることだと思いますが…我々のことをどのように考えていることでしょうか。

我々が日々、何世代にもわたって誠実に努力し、子孫のために、住むに値する土地と、きちんとした政府を守り、残したのだと、彼らがそう考えてくれることを願おうではありませんか。)

親戚のテディ伯父さんは、気の毒なほど完全スルーされています(笑)。

FDR大統領、このあとを「だから、これからは自然と戦うのではなく自然と協力しよう」とスピーチを結んでいて、さすがに良いこと言う!と思いますが、大恐慌後の国民に対してのスピーチで「1万年後のアメリカ人」とはまた思い切った風呂敷を広げたものです。ビジョンが壮大。

1万年後にこの場所にアメリカという国、どころか人類がこの大陸に生き残っているのかどうか。

1万年後、ラシュモア山がまだこの場所にあって、知性のあるものがそこに立つことがあったとしたら、きっと現代人がスフィンクスを見るように不思議に思い、古代の人は変なものを岩に彫ったものだなあ、と感じるのではないでしょうか。



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6 件のコメント:

  1. この観光名所ほどいかにもアメリカらしい名所はないなあと思ってました。
    岩山に大統領の巨大な顔って・・・申し訳ないけどそのセンス、ちょっと変ですよね(笑)
    もし日本でやるとしたら西郷隆盛とか伊藤博文なんかの顔が来るんででしょうか。絶対ありえないですよね(笑)

    左右に残る岩がかっこいいですね。
    何も顔を掘らなくても、巨大な奇岩として、見応え十分だったのではないかと思えますが、なるほど、所有を宣言したかったわけなんですね。
    あの岩は御影石なんですか。
    ワシントン州は真似してLiberty Bell山の御影石を彫ろうとか思いつかないでいてくれてほんとに良かった(笑)

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    1. prunusさん、最初のプランでは大統領の顔にしようと主張したのは、この彫刻家らしいです。
      本当に、自然のままの岩は綺麗でとても見応えありました。でも岩じゃ観光名所になりませんものね。
      日本だったら、うーん、岩に彫られるような人って、西郷さんでしょうかねえ…。

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  2. お~マウントラシュモア!
    ここはいつか行ってみたい、と思ってました。
    ”National Treasure”の映画でも観ました。
    (あの岩のしたには秘密の宝が眠っているんですよねぇ~!うふふっ。)
    「あら、こんな風に岩を掘ってしまうなんて!!」と、単純にすごいと思ってましたが、じっと見ると、何故掘ったんだろう・・・と言う気にもなってきますね^^。

    「所有」のハナシをうちの旦那に言ったら「まあね・・・でもインディアンはいつもそんなこと言うんだ。」と、白人らしい発言をしていました^^。
    おろかものー!

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    1. National Treasure にも出て来たんですね〜。そうなのか、秘宝が眠っている目印だと思えば納得できる(笑)。
      90パーセントはダイナマイトで吹っ飛ばしたんだそうです。今そんなことをしようとしたらシエラクラブとかが黙っていないですよね。イエローストーンなどの国立公園の制定に貢献して、ナショナルモニュメントをいっぱい作ったルーズベルトが岩山におさまっているのも皮肉です。

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  3. 歴史、よく勉強してますねー。私も、歴代大統領の経歴とか主な仕事とか、読んでおこうと思いつつ、先延ばしにしています。(おすすめの本とか、ありますか?)

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    1. アケミさん、こんにちはー。
      いえいえ、、全くお恥ずかしいのですが、先学期、アメリカ史をコミカレで受講したばっかりなんですよ〜! おかげで南北戦争後から現代までの流れが、一通り駆け足で見通せて、すごく面白かったです。私も前から読みたいと思っていたのですが、やっぱり学校のテキストが一番手っ取り早いですねw 
      ルーズベルトとハワイや日本の関係では『Imperial Cruise』が面白かったです。
      http://www.goodreads.com/book/show/6452811-the-imperial-cruise
      こちらにシノプシスを載せてありますので、よろしかったらご参考まで!
      http://www.yuzuwords.com/%E7%BF%BB%E8%A8%B3/238-2/

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