花盛りのシアトルです。シアトルは本当に桜の種類が多い。桜だけではなくてスモモやりんごも花盛り。春になると住宅街はどこもピンクや白の花でいっぱいです。
3月の話ですが、キャピトル・ヒルのHarvard Exitという、魅力的な名前の小さな映画館に行ってきました。
なんか一見普通の民家のような入口で、扉をあけると暇そうなお兄ちゃんが1人で座っていて、切符を売ってくれる。これでも2つスクリーンがあって、中はけっこう広いのです。
階段がまた普通の民家のようで、お婆ちゃんの家のようなにおいがする。
そして、上映10分前に行ったら、他にカップルが1組いるだけで、その男の人のほうが舞台の袖のほうを覗きこんでいた。「いま、ネズミがいたんだけど…」
カーペットの模様がまたすごい。そのまま、デビッド・リンチの映画に使えそう。
1920年代の建物で、幽霊が出るという話もあったそうです。
それはさておき、見に行った映画は『Particle Fever』という、この映画館とはまったくミスマッチな、スケールの大きなサイエンス事業の話でした。
スイスとフランスにまたがって設置されている、欧州原子核研究機構(CERN)の「大型ハドロン衝突型加速器」(Large Hadron Collider/LHC)についてのドキュメンタリー。
「ヒッグス粒子」を発見するための超大掛かりな 国際プロジェクト。
「ヒッグス粒子」についてウィキペディアで読んでみようとしましたが、1行どころか1語も理解できませんでした。
「ヒッグス粒子はスピン 0 のボース粒子である。 素粒子が質量を持つ仕組みを説明する機構のひとつであるヒッグス機構においては、ヒッグス場と呼ばれるスカラー場が導入され、自発的対称性の破れにともなって特徴的なスカラー粒子が出現するとされている。このスカラー粒子が、ヒッグス粒子である」
はぃ? (o´・ω・`)
ちなみにこのキッズ向け記事はもうちょっとわかりやすかったです(ヒッグス君がやる気なさそう)。
そんなんだから、映画も始まって3分で眠くなってしまうのでは、と不安だったのですが、物理といえば中学校の理科で習った慣性の法則くらいまでがせいぜい理解の限界な私でも楽しめる、エンターテイメントなドキュメンタリーでした。
地下100メートルに設置されている、山手線と同じくらいの規模のトンネルだという加速器/LHCの映像が見てみたかったのでした。
検出器だけで5階建てのビルの大きさだというこの装置の映像も迫力ではあるんだけど、ドラマとしてもおもしろかったです。
各国から何千人もの物理学者が集合しているプロジェクトを描くのに、数名の物理学者を中心にストーリーが構成されてます。
アメリカ映画なので中心人物はアメリカ人。
すごく良く喋る、プリンストン大学の若手理論物理学者(両親がイランから亡命して来たという、長髪のイラン系アメリカ人)。
訛りの強い英語で素朴に喋る、スタンフォード大学の60代の素粒子物理学教授。トルコ生まれのギリシャ系で、13歳のときに政情不安な母国からアメリカに移住したという話も語られる。
そして語り手として一番活躍するのは、現場のLHCで実際の作業に当たっている、若い研究者の女の子。
この子は、アメリカのどこの高校や大学にも一定の割合でいそうな、健康的で頭が良くて人懐こくて可愛らしい、そしてこれまたキャピキャピと良く喋る、アメリカ教育のよく出来た標本みたいな幸せそうな子。自転車で職場に通い、休日にはボート競技で過ごしたりする。
それから、プロジェクトの広報担当をつとめる、イタリア人女性素粒子物理学者。
この人選が、うまいなあ、と思う。国際プロジェクトの多彩さとバイタリティを網羅してて、特にこのモニカっていう若い女の子の視点で語られる部分が、観客にとって、敷居をとっても低くしてくれる。
ストーリーの中心は、プロジェクトの立ち上げから事故と1年間の中断を経て再開し、ヒッグス粒子にほぼ間違いない、と広報官が述べて、やんやの拍手を浴びるデータの発表がクライマックス。
NHKの『プロフェッショナル』みたいな結果を追う人間模様中心かというとそうでもなくて、各研究者の背景はさらりと背景に触れられるくらいで、映画の中心テーマとして描かれているのは、出てくる研究者全員が代弁する、「真理の追求」に対するひたむきな好奇心と情熱。
物質はどのように存在しているのか? 宇宙はどんなふうに出来てどうなっていくのか?という理論の鍵になるというその粒子を見つけるための、予算90億ドルに1万人近い物理学者を動員したプロジェクトの中核である、とくにすぐ目的があるわけではない純粋な真理の探求。
いまどき、純粋な真理の探求には予算90億ドルに1万人がかかるんですね。ニュートンの時代はリンゴ1個で済んだものを。
もはや宇宙の謎はあまりにも細かくなりすぎて、素粒子物理学者でなければ手に負えなくなってしまっているけれど、宇宙のほとんどが実は、謎のままなんですよねぇ。
世界の存在に関わる理論が目の前でひとつ証明されるというのは、それはもう興奮せずにいられない ことに違いない。この映画を見ているとだんだんその興奮が伝染してきます。
実際には国際プロジェクトの内部には政治的なこととか野心とかいろいろドロドロな部分もあるんだろうけど、研究者たちが目を輝かせて、この粒子の発見(の可能性)に立ち会える幸運を語っている姿は、とにかくうらやましくも感動的です。
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ダン・ブラウンの"Angels & Damons" を思い出しました。 この話の中にもHiggs Boson 登場しますよね。Matter とAntimatterが接触すると、Big Bangが起きるとか何とかカントカ・・・。 そしてこのHiggs Bosonが生まれるとか??? 全く間違って覚えてるかも知れません。
返信削除私も専門的なことはわっかりませーん!
でもそういうことを研究・追及している人たちは、素晴らしい・・・と思います。
自分でわからないことを、一からちまちまと勉強して知識を積み上げていって、誰も知らなかった事を解明していくのって想像を超える努力ですよね!
映画、楽しそうです。
この映画館も楽しそうですね・・・ねずみは見たくないかもしれないけど。
幽霊が知らずに隣に座ってたりもしますかね!?
猫さんこんにちは。
削除ダン・ブラウン、読んでみたいと思いつつ読んでないんですよねー。面白そうです。
この実験、粒子の衝突で「ブラックホールが出来る」「世界が消滅する」という噂が飛び交って、実験の開始前にヨーロッパでも大衆紙に「世界の終わり!」なんて見出しが並んで大変だったようです。
映画ではその女性広報官が電話で「いえいえ、世界が終わりになったりしませんから(汗」と対応している姿が描かれてました。
うちでも、息子と「急にブラックホールが出来て世界が終わったら、何にも分からないうちに消えちゃうんだから、まあしょうがないよねぇ」と納得してますww
キャピトル・ヒルの名物映画館が残念ながら1つ閉館してしまったので、ここは末永く残ってほしいものです。でも1人で行くのはやっぱりちょっと躊躇してしまう映画館です。ほんと、隣に何が座っているかわかりません~!
追伸、たまたま手元に『天使と悪魔』上巻(翻訳書)があったので読んでみました。
削除これってまさにCERNが舞台になってたんですねー! 2人だけで密かに研究を、っていうのはかなり無理がある設定な気がしますが、冒頭で殺されちゃうお父さんの物理学者はいい味だしてますねー。