2020/02/28

疫病の街


まだボストンにおります。

りす、いました。

今週前半はあったかくて、月曜なんかいっとき17度Cまで気温が上がって春のようだったので、みんなのこのこ出てきたのか、月曜日の公園はりすだらけ。

どんぐり食べ放題の秋とはちがって、ちょっとしっぽもそそけだっててしょぼくれた感じの子が多くなってました。

でも今日はまた寒くなって氷点下。寒暖差激しすぎる。

日本はすっかり非常事態で、毎日どんどん状況が加速していくのに驚きの連続です。
一斉学校閉鎖要請には驚愕。ほんとうに早く収束しますように。

ところで先日、カミュの『ペスト』を読みました。

1月に、もう忘れてしまった何かの理由で『異邦人』を読みたくなったのだけどKindle日本語版に『異邦人』がなかったので、かわりに『ペスト』を読んでみた。

読みはじめたその2日後に武漢の街が封鎖されたというニュースを聞いてびっくり。世界一いらないシンクロだった。

でもコロナウイルスが拡大していくのと同時にちびちび読んでいたので、いやおうなしに臨場感のようなものを感じてしまいました。

あんまりちびちび読んでいたので途中ですっかり登場人物を忘れてしまい、半分くらい読んだところからまた最初に戻って読み直したりしたのだけど、後半のパヌルー神父が死ぬあたりから(もう半世紀以上まえの古典なのでいきなりネタバレ許してね)の展開に圧倒された。

登場人物の運命というか、背負っているものがそれぞれ最後に集約されていくところが本当にすごいです。

パニック小説みたいなものだと思って軽い気持ちで読み始めたのだけど(なにげにスティーブン・キングを連想してたww)、 こんなにすごい小説だったのか!と驚いた。解説を読んだらカミュはこれでノーベル文学賞を取ったのねー。

小説でもノンフィクションでも、すいすいと頭にはいってきて受け取りやすいときと、あんまり頭にはいらないときがありますよね。この本は、わたしにとっていますごくタイムリーだった。
うちの守護天使がいま読めといってくれたに違いない。


あまり感動したのでうちの青年にも読ませようと思って、ケンブリッジの書店を3軒も回ったのだけど、なぜか見つかりませんでした。ハーバード・ブックストアにもなかったよ。『異邦人』はあるのに。『異邦人』はきっとなんかの教養課程のクラスの課題図書なのね。

ノーベル賞作家も半世紀以上たつと書棚から消えてしまうんですね。
忘れられてしまうにはあまりにももったいない小説なのに。

 初版は1947年。第二次世界大戦の終戦直後。日本はまだ焼け跡だったころですね。

疫病をあつかってはいるけど、書かれている災厄には世界戦争の暴力が色濃く感じられる。
戦争直後、終わったばかりの戦がもたらした暴力のあまりのひどさと圧倒的な規模に、人々がきっとまだ呆然としていたころの小説。
 
主人公のリウー医師とボランティア部隊のタルーの、それぞれの誠実さに打たれます。

戦後70年たって、人類はもしかしたら退化してしまったのかもしれない、という気がしてきました。

「子どもたちが責めさいなまれるようにつくられたこんな世界を愛することなどは、死んでも肯じ得ません」と、神父にむかってリウー医師は言う。

苦しんで死んでいった子どもを目の当たりにした神父は信仰をぐらつかされながらも「すべてを信じるか、すべてを否定するかです」といい、神への愛を理解するのは困難だけれども、信仰を全うしなければならない、と説教壇で説き、そのあと、まるで自らペストを召喚したかのような「疑わしき症例」で、十字架を握りしめて死ぬ。

リウー医師とパヌルー神父のこの会話。
パヌルー神父の、まったく救いが感じられない信仰。

教会とヒューマニズムとの対話が、まだこの時代には真剣にかわされていたのだなあ、と思う。

20世紀の後半には、信仰と「知識人」は対話をすることさえやめて、ぜんぜん違う場所でお互いの悪口を言いあうようになってしまったのですね。

そこ、もうちょっとなんとかならないのか。と日々思います。
お互い自分が絶対に正しいと思うのをいったん止められたらいいのにね。


 それから、先月末、ヴィスコンティの『ベニスに死す』を観ました。
 これもなぜだか忘れてしまった理由で急に観たくなり。

こちらは遠い昔に名画座で観たはずだけれどすっかり忘れてて、原作も読んだはずだけれど最後のシーンくらいしか覚えてなかった。

これも舞台は疫病が流行中の街でした。(観るまですっかり忘れていた)

しかしヴェネツィアでロケをして、この街をこれほど魅力的に描かなかった映画もほかにないのではないだろうか。

この映画にでてくるヴェネツィアは、じめじめして蒸し暑く、病に冒されてあちこちに死のかげがちらちらする辛気臭い街。

その中で美少年ビョルン・アンドレセンが北国の氷の王子様のように輝いていました。

気づくと自分も主人公のアッシェンバッハ教授と同じようなカテゴリの年齢になっています。まあ、中身はそんなにアップグレードされてはいない。だいぶ図々しくはなりましたが! 


にほんブログ村 海外生活ブログ シアトル・ポートランド情報へ

2 件のコメント:

  1. つい最近、「ベニスに死す」の美少年タジオ役の方が、おじいさんとして再び映画に~という話題がありましたね。https://twitter.com/mtmtSF/status/1230815958551293958

    返信削除
    返信
    1. うわーーーーーーーーー!
      仙人になっている!
      ビョルンくん、あれからどんな人生送ったのかなーと思ってました。
      たしかに面影はある。指輪物語に出てきそうですね!!

      削除