2019/11/21
ハーバード大学であたった
10月のボストン日記。
息子とハーバード大学に行きました。
……見物にな。
アメリカで一番古い、一番有名な大学だけに、ボストンの一大観光地でもある。
よく晴れた週末、 地下鉄の駅を出ると、ハーバード・スクエアという名前の駅前広場は観光客であふれかえってました。
ウォーキングツアーのお客さんが集まってて、ハーバードのロゴ入りグッズをたくさん売ってるCOOPの店があって、テーマパークみたいだった。
広場の向かい側がキャンパスです。↑このロートアイアンのゲートはさすがに素敵な意匠。
内側が工事中でへんな色のタープがかかってて、ちょっとざんねん。
ドラマチックな階段と円柱の図書館。
でも入り口にセキュリティチェックがあって、ハーバードのID持ってないと入れてくれないの。ちぇっ。敷居が高いわね。
まあ世界中からありとあらゆる人が見物に来るんだから、全方面ウェルカムにしてたら大変なことになるのかもしれませんが。
趣きのある、小さめで可愛らしい教会がありました。
…で、あとで(ついさっき)調べてみたらこれはスウェーデンボルグの教えを受け継ぐ「新教会」の教会なのだった。
へえええええ!
これがハーバード大キャンパスの中(…だと思うけど「すぐ隣り」なのかも。正直どこからどこまでが大学の敷地なのかよくわからない)にあるとは。
教会堂は1901年に建てられたもので、設計はハーバード大の教授を務め、建築学部(現在は修士のデザインスクール)の基礎をつくったというラングフォード・ウォーレンさん。
スウェーデンボルグの説はわたくし、どこかでちょびっと聞きかじっただけで、なにも知りません。キリスト教主流からは異端とされている新教会ですが、19世紀末〜の米国知識人の中にがしっと根を下ろしてたんですね。
ヘレン・ケラーもこの教会の信仰を支えとしていたそうで、スウェーデンボルグに関する著書があります。この教会にも「ヘレン・ケラー・スピリチュアルライフセンター」という部門がある。へええ。読んでみたいな。
バイキングの館のようなとっても不思議な建物(サンダース劇場という劇場も入っている、メモリアルホールという多目的建物)から、不思議なガーゴイルが突き出してました。
南北戦争で亡くなったハーバードの卒業生を記念するために、戦争後まもなく企画されて、1870年代に建設された建物でした。中の劇場はすごく豪華みたいです。
ボストンコモンにも、南北戦争のメモリアルがあった。いずれも巨大。歴史のかなたになってしまっているけど、この戦争がどれだけ大きく、どれだけ大変な出来事だったかを物語っています。
いまの政局が分裂してるどころの話じゃなかったんですよね。両軍合わせて国内で50万人が戦死している。
ビルにペリカンがついている! 生物学研究室のビルでした。
さらにその先には、
サイがいた!
有機進化生物学部のビルでした。
ほかにもビルのまわりに動物のレリーフがぐるりとあって、扉には…
昆虫とか節足動物とか…
海の生物が…。
友人に蝶がダメな人やカエルがダメな人がいて、今はどうか知らないけど20代の頃はニーマン・マーカスの吹き抜けのところに吊るされている作りものの蝶の大群を見てウキャーウキャーいってましたが、この動物ドアもダメ系の人けっこういそう。
こういうのがダメな人は生物学を学ぼうとは思わないよねw
でも中には、『動物のお医者さん』のネズミがダメな二階堂くんみたいに、どうしても節足動物だけはダメだ!という学生がいて、このドアを通るたびに目をそむけているかもしれない。
カエルがだめな人、CTちゃんにあとで聞いたら、この狛犬のようなサイはけっこう有名なのだそうです。
「なんで有名なの?」と聞いたら
「…サイだから」
という答えがかえってきました。わからないよ。
何も調べないで散歩に行くと、ときには犀にあたることもある。
この近くの自然史博物館&ピーボディ博物館に行きたかったんだけど、あまり時間がなかったのでまた別の日に…と思っていて、結局行けませんでした。
でも比較的短い散歩でスウェーデンボルグと犀にあたった。あとから考えたらずいぶんな収穫だったのだった。
2019/11/20
ひざをかかえる人たち
ここしばらく雨つづきで、連日、シアトルらしい灰色の空でした。
最近激変しているサウスレイクユニオン。マーサー・ストリートの信号待ちで、クルマの中から撮った写真。
左側の向かい合っている白い人たちは、ポール・アレンさんの脳科学研究所 Allen Institute の前にある、ジャウメ・プレンサさんの「Meeting of Minds: Mirall」。
Mirall は「鏡」という意味だそうで、「自分との対話」をテーマにした作品です。
意識というのは何層にもなっていて、ちょっと静かに内側を眺めてみると、実はいろんな人がいるのに気づく。
見ためもテーマも、このビルにほんとにぴったりの作品だと思う。
大統領弾劾の公聴会がつづいてますが。
今朝きいたNPRのニュースでは、今現在、トランプを弾劾すべきと考える人が45%で、そして今でも、すべきでないと考える人が44%もいるんだそうです。
こういうふうに右か左か白か黒かと分けると、人はそれほどまでに違う世界を生きているのかよと驚いてしまうけど、でも冷静に考えてみたら、有史以来いつだってそうだった。
ただ、当たり前だと思っていた対話の枠組みがこんなにまでめちゃくちゃに、しかも国のトップに立つ人間に壊されてしまうとは。
だけど、ここまでこの国の分裂が見える化されたのは、新しい世代にとってはかえってよいことだったのだ。と、50年くらいたってだれかが言うといいと思う。
あの大統領がひざをかかえて自分の内面を見つめることはたぶんないのだろうけど、今の子どもたちは親の世代よりも自分たちをよく知っているという気がする。
朝から空は暗いしで、今日のヘビロテミュージックは(なつかしい)The Shinsの「Port of Morrow」。
名曲。
これはシアトルでのライブだけど、演奏はアルバムのほうが数段いいですにゃwww
2019/11/18
きっと福を呼ぶ、混迷のお飾り
先日メトロポリタンマーケットでみつけたクリスマスオーナメント。…だよね?
いったいこれは、誰なんだ。
蓮華座のようなものに座り、青いベレー帽に赤いヘッドフォンをしていらっしゃる。
しかもクリスマスカラーですっごいデザインの寝間着みたいなものをはおり、はだけた胸にはピースマーク。
何をモデルにしたのかまったく謎だけど、アメリカ人はほていさんも菩薩如来もみんないっしょくたに「ブッダ」と呼ぶので、きっとこれも「ブッダのオーナメント」のつもりなんだろうな。
後ろに控えていらっしゃる金ピカの人も、なんでヘッドフォンしてるんだよ。
こっちもすごいでしょ。この髭、赤いリップ、そしてピンクの頬、ブルーアイズ、そして輝く肌。肩にはタトゥーもはいっていますYO♡♡ 褌はもちろん、ラメ入り♡
毎年クリスマスツリーを飾っているおうちでは、毎年ひとつずつオーナメントを増やしている方も多いと思います。
2019年の思い出は、謎の「ブッダ」または、輝く力士とともに。
混迷を極めた1年には、混迷のオーナメントを。
いろいろ文化的に問題ありありだけど、とにかくおめでたい!きっと招福になるよ!
と思ってCTちゃんに速攻写メを送ったら、「ぜったいに買ってこないように」と即返信がありました。ざんねーん。
2019/11/17
男でも女でもない、第3のジェンダー
ちょっと前、お天気よかった日ののBallard Coffeeworks。
外のテーブルはものすごくホコリっぽかった。
これから暗くなる季節ですので、日が出てるうちに日にあたっておきませんと。
ゆうべは武闘家じゃない舞踏家薫さん宅のホームパーティーでした。
次々にあらわれるおいしいもの、ケーキやスイーツもてんこ盛りの大宴会。初めてお会いする方やとっても久しぶりに再会した方もあって、いろんなお話が聞けて楽しかった。気づいたら深夜!
自分もシアトルに来てもう10年たつんだなあ、とまたあらためて実感。
ここに来てから知り合った方々も、その後お仕事が変わったり、家族構成が変わったり。街も変わったし、不動産マーケットも変わったし、社会も変わったし。ぼんやり生きてる私にもそれなりにいろいろございましたし。
話題のひとつはジェンダー。大都市で離れて暮らしている20代のお嬢さんがある日突然電話してきて「わたし、これからはノンバイナリーとして生きます」と宣言したという話につづき、最近、ノンバイナリーの人って増えてるね、という話に。
性別を男女に限定しないノンバイナリーの人は、自分をhe/himやshe/herではなくthey/themという代名詞で呼んでほしいと求める。
そういえば半年くらい前に、このあいだまで「she」だった知り合いのボーカリストの子が、最近「they」になったって聞いたんだった。最初に聞いたときはちょっと意味がわからなかったんだけど。
代名詞に性別がある言語ならではの問題。しかしこのtheyはいったい日本語でどう訳したらいいんだろうか。
カレッジでも、あなたは自分に対してどの代名詞を使われたいか(she かheかはたまたtheyか)って、クラスの最初に聞かれるようになったそうです。トランスジェンダーの人もいるしノンバイナリーの人もいるしで。
カリフォルニア州では今年から、運転免許などの公的書類でも自分の性別を男女のほかにノンバイナリーを選べるようになっていたんですね。
ところでこのあいだものすごく久々に、長いこと塩漬けにしてしまっていたぽんず単語帖を更新しました。
トピックは「gender reveal」。赤ちゃんの性別おひろめパーティーが暴走している件について。
これまた今のジェンダー関連の流れに真っ向から逆走するようなトレンド。まあこっちはそのうち沈静化するんだろうけど。
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2019/11/15
短すぎる。そしてモノレールとパラサイト
今週末は雨がちのシアトルです。
葉っぱもすっかり散って地面が豪華だけどお掃除たいへん(<他人事)。
ちょっと晴れた夕方にはあっちこっちで落ち葉かきのホウキの音が。ホームオーナーの皆様お疲れ様です。綺麗な葉っぱを堪能させてくださってありがとう。
さいきん日が短くなったので(そして冬時間に戻ったためもあり)、あっという間に夜になってしまう。4時半には日が沈んでしまうんだもの。
うっかり昼近くまで寝ていると、昼間が4時間で終わっちゃってびっくりだ。
…とCTちゃんに話したら、とも蔵、頑張ってもうちょっと早く起きなよ、といわれた。わたしもそう思う。
ところで、シアトル生活10年にしてはじめて、モノレールに乗りました。
ワシントン大学からシアトルセンターの近くへの路線を検索したら、Siriちゃんが電車とモノレールでゆけというので。
ワシントン大から電車でウェストレイクへ、そして地上へ出てモノレール駅へ…。
て、駅はどこ?
モノレールの線路が終わってるところ(↑)は知ってたけど、乗り場はいったいどこにあるのか知らなかった。ダイソーがはいってるビルの3階が乗り場だったんですね。
前からこんなだったっけか?
ライトレールができてから、モノレールが交通システムの一部に積極的に統合されるようになったのではないかしらと思う。推測だけど。ビルの中のこの案内板、ピカピカだし。
モノレールって1962年の万博のときにできて以来(スペースニードルもその時できたやつ)、路線を伸ばす話が何度かあったみたいだけどいまだにウェストレイクとシアトルセンターの間の一駅だけで、乗る人いるのだろうか?ってつねづね不思議だった。
この日(火曜日の午後5時ころ)は会社帰りらしい人、ヨガマット持った人など、日常につかってるっぽい人が10人くらい乗ってました。
まわりの街はこの10年ほどでものすごく変わったけど、線路も車両も(たぶん、少なくとも見た目は)1962年のまま。レトロフューチャーでかわいいです。
乗車料金は3ドル。乗車時間たったの2分で3ドルってずいぶんお高いわね、と思ったけど、あとでORCAカードの明細を見たら、電車からの乗り換えなので50セントしか取られてなかった。ワシントン大からシアトルセンターまでの片道合計が3ドル25セントでした。
モノレールに乗って何しにいったかというと、SIFF UPTOWNでやってるこの映画↑をみにいったのでした。
邦題は『パラサイト 半地下の家族』。日本では1月公開。
面白かったです。怖いですよ。ホラー映画の新しいジャンルかもしれません。今年のカンヌ映画祭でパルムドールをとっている。
貧乏家族の映画というと去年のパルムドール受賞作、是枝監督の『万引き家族』とつい比較してしまうけど、これはまたぜんぜん違うテイスト。
コレエダ作品がおでんだとしたら、これは…キムチ山盛り、にんにくたっぷり、唐辛子たっぷりのチゲ鍋といったところではないでしょうか。
「微妙なニュアンス」はほぼなくて、ぐいぐい押しまくってくるので、うわーもうお腹いっぱいです!となる。でも、俳優陣がとてもよくて、映像もディテールもよくて、終わり方もよかったな。
これは名画座で『JOKER』と二本立て上映してほしい。タイトルは「持たざる者たちの反乱」でいかがでしょう。
イザベラさんの館と盗難事件
とほうもないお金が転がりこんできたら、何に使います?
世界を旅して、大好きな美術品を買い集めて、それを展示する美術館兼住居を建て、それがコミュニティの文化の中心として育っていくのを見届ける、という、もう羨ましいとかそういうレベルじゃない人生を歩んだのが、イザベラ・スチュワート・ガードナーさん。
スーパーリッチ階級の令嬢として1840年にニューヨークシティで生まれ、パリで教育を受けたイザベラさんは、ボストン出身のガードナーさんと知り合って結婚したあと、幼い息子をなくし、しかも流産して子どもが望めなくなるという悲劇にみまわれます。
で、うつ状態になった彼女の健康を取り戻そうと旦那さんがヨーロッパ旅行に連れ出し、なんと1年間も旅行しているうちにすっかり元気になって、社交界の華にかえり咲いたそうです。
51歳のときに父の莫大な遺産を相続したあと、ヨーロッパの美術品をどっさり買い集めて、徐々に美術館建設を構想。
夫が急死したあともそのプロジェクトに取り組み、ちょうど19世紀の終わりに4階建ての壮麗なベネツィアふうの館を建てて、20世紀になったばかりの1903年に美術館としてオープン。
いまもその館がボストンの重要な美術館でありつづけてます。
4階は生前、イザベラさんの居室であったそうです。
「PALACE」と呼ばれるこの旧館は、オープン当時とおなじく1階から3階までが美術館になっていて、それぞれテーマの違う部屋が各階4〜6室くらいあり、ルネッサンス時代の貴族の居室のようなかっこうで、家具やタペストリや絵画やその他いろいろなものが飾られてます。
悪魔を踏みつける大天使ミカエルさん。
天秤に乗っているこの白い人はなんだろう。泣いている。
心惹かれたタペストリ。巨大昆虫が飛ぶ庭を、かたつむり的なドラゴンにのって散歩する人。なんだろうこの人。
わりあいに暗めで、ほんとうにいろんなものがいっしょくたに飾られているので、思いがけない大家の作品がさりげなさすぎる隅のほうにひょいっとあったりしてびっくりする。
ルーベンスだよ。
また例によって何も下調べをせずに行ったので、この「オランダの間」にあったこのからっぽの額縁を見て…
…ん?貸出中なのかな?と思ってしまったのですが、これはなんと、盗難にあった絵画だったのでした。
1990年3月18日の深夜、警官をよそおった男2名が押し入り、警備員を縛って、レンブラント3点、フェルメール1点、そのほかドガやマネの作品含む全部で13点を奪って逃げた。という、超有名な事件だそうです。
そういえば、うっすらどこかで聞いたこともあったような。
13点の美術品のゆくえはいまだに不明で、13点ぜんぶの無傷のリカバリーにつながる情報には、1,000万ドルの報奨金が提供されてます!
あっ!ボッティチェリだ!
この聖母もかわいいですねぇ。ウフィツィ美術館にあった、師匠フィリッポ・リッピの聖母像ととっても似た感じ。
なにも知らずに出かけるというのは、「えっそうなの!」「あっこんな作品が!」という出会いの驚きがあって楽しいんですが、メジャーななにかを見逃すという危険もあります。
ここに収蔵されてる中でいちばんの有名作品はティツィアーノの「エウロペの誘拐」だそうですが、すーっと見てスルーしちゃってて、記憶に残ってません。
こちらは1階の小さな書斎のようなおもむきの部屋「黄色の間」。いろんなものがところせましと飾られているなかで存在感を放っていた、マティスの絵。
こちらは半屋外の「スペイン回廊」にある、ジョン・シンガー・サージェントの作品『エル・ハレオ』。ドラマチックです。
湿気とか大丈夫なの、とちょっと心配になるようなセッティング。もちろん厳重に管理されてるのでしょうが。
この回廊に貼ってあったスペインかポルトガル製のタイルも素敵だった。
サージェントはイザベラさんと親交が深く、イザベラさんの肖像画も描いてるし、招かれてこの美術館内で制作をしてこともある。
サージェントによるイザベラさんの肖像、1888年制作。
サージェントはアメリカ人だけど、生まれ育ちはフィレンツェ!
イタリアとパリで教育を受けて、パリとロンドンを活躍の場として、生涯のほとんどをヨーロッパで過ごした、いわば「米系2世」のヨーロッパ人です。
ボストンに縁が深く、アメリカ初の個展はボストンで開催し、図書館とボストン美術館で壁画を制作してる。最初にボストンとニューヨークに渡ったのは、このイザベラさんの肖像を含む20ほどの肖像画制作のためだったそうです。
画家にむかって絵がうまいっていうのもなんだけど、この人ってほんとに絵がうまいなあ、と思う。
肖像画で有名な人だけど、この人の描く肖像画はほんとうにいきいきしていて躍動感があって、品格があって、しかも嘘くさくなくて、美しい。当時ひっぱりだこの人気作家だったのもうなずけます。
サージェントの水彩画もいくつか展示されていました。風景画も超うまい〜!
この一番上のは、ヴェネツィアの風景をさらさらっと描いた水彩画。いいなあ。
晩年は肖像画制作の看板をおろして、風景画に没頭していたようです。
この人は、印象派の画家たちやピカソとかマティスとかのように芸術の新潮流を切りひらいていったアーティストではなくて、むしろ職人的にもくもくと仕事をして自分の知っている美の世界を深く追求していった人で、だから当然、先端のアーティストにや評論家には時代おくれとしてバカにされたりもしたのだけど、それはそれとして、私はとても好きです。
旧館の外には小さな庭もあり。
そして2012年にオープンしたばかりの新館は、なんとレンゾ・ピアノさんの設計だった。
(たった今知りました…。)
最近よく遭遇するピアノの建物。去年たまたま行ったらすごかった、ヒューストンのザ・メニル・コレクションの本館もピアノ設計だった。
こちらも素敵な建物でした。モダンだけど明るくて空気が軽くて、優雅な旧館との違和感を感じさせないのがすごい。
(美術館のウェブサイトより)
新館ではコンテンポラリーアートの展示がありました。
定期的にコンサートもひらかれているようです。こんなん近所にあったらいいな。
ちょうど閉まる直前にカフェにすべりこみ、コーヒーを頼んだら、こんなかわいいポットにはいってきた。
小さな温室も併設されています。フワフワなサボテンもありました。
あの世のように綺麗な庭といろんな時代の綺麗なものを眺めつつ、この世の幸せをつくづく感じられる美術館でした。ああ幸せ。イザベラさんありがとう。
レンブラントとフェルメールが見つかるといいですね。
2019/11/09
イザベラさんの庭で
ときどき、自分がもう死んでいるんではないかと思うことがある。
ボストンで絶対行きたかった場所のひとつ、イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館。ここでもそんな思いをしました。
イタリアン・ルネッサンス様式(19世紀末〜20世紀の建築なのでリバイバルというべきなのだろうけど)の緑ゆたかな中庭。
とぽとぽと小さな噴水の水音もして、大輪の菊の花と熱帯の花が咲く中に、とつぜん美しいソプラノが流れてくる。
はい?ここはあの世ですか?と思うほどの、尋常ではない美しさ。
ありがたやありがたや。なんだこれ。
中庭で突如はじまり、突如終わった歌の一幕。うちの息子と「いったいこれは何だろう」 と言いあっていると、黒と金が鮮やかなキモノをアレンジした衣装に身をつつんだ歌い手がしずしずと息子にむかってやってきて、
「あなたに音楽の贈りものをさしあげたいのですが、受け取っていただけますか」と言う。
台湾のアーティスト、リー・ミンウェイさんの『Sonic Blossom』というインスタレーション作品なのでした。
ふたりの歌手がかわるがわる、中庭をぶらぶらしている観客を選んで唐突に「音楽のおくりもの」を申し出て、観客がOKすれば(たいていする)、中庭の真ん中に特別にしつらえられた椅子に案内され、 シューベルトの歌曲をプレゼントするという、そういう作品。
特別席に案内される青年。なんか渋谷にいる兄ちゃんみたいだな。
この小柄な歌手の方、ヘアスタイルは刈り上げで90年代ロックバンドのボーカルのようなんだけど、ほんとにこの世のものとは思えないほど素敵な声で、最初は録音なのだと思った。(伴奏のピアノは録音でした)
この世のものとは思えない庭で、とくべつな椅子に案内されて、この世のものならぬ歌を贈られたうちの息子は、この世ならぬ経験をしたようです。
ミンウェイさんの、この作品についてのアーティスト・ステートメントには、お母さんが手術を受けて入院していたときに、唐突にどこかから聴こえてきたシューベルトの歌曲に言い尽くせないほどの癒やしを感じた、とあった。
「老い」や「死」が、抽象的なものではなくて現実として突然目の前にあらわれるという体験を経て、この作品をつくったという。
ああー。このうちの息子がこのおくりものをもらったのは偶然じゃないのね。
この青年も、本人はまあ言わないけど、去年の暮れから今年にかけてわたしが入院したりしていたときに、ずっとそんな経験をしてて、今もし続けてるんですよ。
「シューベルトの歌曲のように、私たちの生涯もごく短い。でもだからこそ、さらに美しいのです」とミンウェイさんのステートメント。
曲は、「Du bist die Ruh(あなたはわが憩い)」、D776。
熱帯植物やコーニスや大きな菊の花が配されていて、真ん中にはイタリアの遺跡から運ばれてきたというメデューサのモザイクがあり、イタリアふうの噴水がある。
ほんとうの折衷主義だけどとても落ち着いている、不思議な庭。
このあとこの青年は、しばらくの間、頭があの世に行ってしまったらしく、何を見ても何も頭に入らなかったそうです。
このインスタレーション作品はNYCのMETとか、あちこちの美術館などで行われてきたけれど、ここの美術館では今ずっと継続的に進行中。これほど作品に合った場所、場所に合った作品はめったにないのではないかと思います。
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