2011/10/26

Revolution


10何年も前のことですが、ハワイで最初に取ったカレッジの授業が「マクロ経済101」でした。
講師はたしかカイバラ先生という日系の人で、余談が面白かったのですが、その余談の中で、アメリカの貧富の差はほかの先進諸国と比べてもきわめて大きく、年々急速に拡大しているけれども、「アメリカで革命が起きないのは人々が自分の生活レベルにおおむね満足しているからだ」と言っていたのが、とても印象的でした。

「Occupy Wall Street」に始まったデモはシアトルにも飛び火していて、ダウンタウンの数カ所に陣取った集会は恒久的な構えになりつつあるようです。数日前にウェストレイクの広場前を通ったときは、ぱらぱらとプラカードを持った人がいて、地面に円座を作ってるグループがあって、マラソンの救護所みたいな感じのテントがあって、所在なさそうに警官が3名くらい遠くから見てるだけでした。燃えてる感はなしでした。

先進国に生まれたという既得権益を守るためのデモ」という言い方をしている方もいて、なるほどーと思ったのですが、国境の外と比べてどうかと考えている余裕は、今のアメリカ人にはありません。

カイバラ先生が言ってたように、20世紀後半のアメリカ社会はどの階層にもそれなりに豊かさがいきわたり、先はもっと良くなるということを誰もが信じて疑わない国でした。アメリカ人が底抜けに楽観的な国民だったのは、国力のおかげでした。その時代はもうすでに過去になりつつある気がします。
これから大学に入る世代の子たちは、親の世代ほど楽観的な国民ではなくなるでしょう。

80年代までは、工場で働いていても、スーパーのマネージャーでも、バスの運転手でも、まじめに一生懸命働いていれば郊外に(場所にもよるけど)広い家が買えて、ガレージに車を2台持ち、新しい電化製品をそろえて、年に1度家族で遠くに旅行に行くような生活が手に入ったとのこと。でもそんな中流階級のライフスタイルを手に入れるのが、実際問題、難しくなってきた。

90年代後半から、あれよあれよという間にグローバリゼーションが進み、精緻をこらした金融装置が寡黙に働き続けている結果、国内の貧富の差がますます加速度的にひらき、真ん中の層が、波に浸食されるワイマナロの砂浜のようにすごい勢いで狭くなりつつある。その速度を、ここへ来て多くの人びとがひしひしと危機感を持つくらいに肌で感じられるようになって来たのだと思います。 



オバマ大統領が当選したときにも、これって一種の革命と言えるのかも、と、ほんのり思ったのですが、あれから3年、期待したほどの「チェンジ」は期待したほどのスピードで実現せず、景気は回復せず、大統領は孤立し、中東も不安定なまま戦争も完全に終わらせることが出来ず、健康保険改革だっていまだに進まない上に、失業率と学費だけがどんどん上昇している今。デモ参加者の多くは2008年の選挙のときに熱狂的にオバマを支持した層だと思いますが、今は怒りをウォール街と、富の偏在を加速させている金融システムに向けている、向けるしかない、のでしょう。

次の大統領が誰であっても、国内景気が停滞したまま格差拡大が加速し続けるなら、今回のデモどころではない過激な運動が起こり始めるのじゃないかという気がします。カイバラ先生の言った「革命」が熟成する材料が、徐々にそろいつつあるのかもしれません。既得権をひっくり返すのは相手が金持ちであればあるだけ、相当のことがなければ無理。ロベスピエールみたいな人が出て来ても東電の幹部や金融機関のボスの首をちょん切ってしまえる時代ではないけれど、世間の怒りがある沸点を超えて溜まって来たら、何か象徴的な事件が起こり始めるかもしれません。いったいどんな混乱が始まり、どんな血が流れるのか、何かほんとうに、この電子化された世界経済に対して有効な変更を加えることの出来る可能性はあるのか、固唾をのんで見守るしかありません。


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6 件のコメント:

  1. テレビのニュースも見ず、新聞もろくに読んでないわたしには、ウォール街い関するデモってなんなのかちっともよくわかってなかったけど、わかりやすく解説してもらったのでちょっとわかった気になりました。ありがとう。(でも、「浸食されるワイマナロ」はちょっと普通はわからないかもよ)
    11年前にここに住みはじめたときは、TomoZoちゃんがおっしゃるとおり「この国はバスの運転手でも大衆食堂のウエイトレスでもみんな自分を卑下せず堂々としてるし、まじめに働いていれば大きな家が買えて家族で旅行にも行ける。すばらしい」と思ったものだけど、今はたしかにそんな「どーんとした頼れる国アメリカ」ってイメージが薄れてきた。わたしも固唾をのんで見守り中。

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  2. 私がアメリカに初めて来たのは99年だったので、アメリカという国が、世界から浮いているような、凄く不思議な国に見えたのを憶えています。反面、当時もかなりの貧富の差が身近にあって、凄く矛盾した国だなぁ・・・と。
    小さな社会でも既得権をひっくり返すのは本当に大変なので、この大きな国でどうなっていくのか、自分が明らかに貧側なので、興味深くもあります。
    ところで、Tomozoさんもちきりんさんのブログ読んでるんだーというところに、反応してしまいました!私も愛読者です(笑)

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  3. 「Occupy Wall Street」の件は、自分が何故その場にいるのか良くわからない人や、政府が自分の学費を払うべきだという人とか、小さな赤ちゃんを家に置いてまでそこにいないといけない…様な気がする!という母親とか、それをする目的がしっかりわかっている人がいないってことがわかっただけで、結局わけわかりません!(文章めちゃくちゃですね…(恥)。)
    オバマさんが当選した時も「あ~あ・・・。」って思ったし、現シアトル市長が当選した時も「あ~あ・・・。」と思いました。
    夢ばっかリみて、現実に1セントまで勘定して予算を立てたことの無い人がリーダーになるとこういうことになるのかな~と。
    この先、どうなるんでしょうね?

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  4. Eriちゃん、わたしもぜんぜんテレビ見てないし(ここに来て今週からNHKのニュース見るようになったけど)、新聞もとるのをやめてしまいました…ので、あんまりあたらしい情報を漏らさず集めてはいないです。ついったーだけが頼りみたいな感じ。でも、意外とそれくらいのほうが暮らしやすいような気がするわ。
    ほんとに、この10年で何か目に見えて変わった気がするよね。
    あ、ワイマナロはわかりにくかったでしょうか。すごく切実な問題よね、ワイマナロの砂も……。

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  5. ZIZIさんも、ちきりんさんのブログ、読んでらっしゃるんですね!

    アメリカってほんとに、浮いてる国ですよね。少し話がずれるかもしれないけれど、本土に来てみて、アメリカ人が国境の外に興味を持たないわけが肌でわかった気がしました。これだけ広くて国力のある国って歴史上、そうそうなかったわけですもんね。狭い国境を並べてる欧州やアジアの国の人と視点が違うわけだ、と思います。ひと昔前は、世界中どこにでも自国と同じ快適さを持ち出そうとするアメリカ人は本当にスポイルされてるなあ、と思わされることが多かったですが、今のアメリカには元気がなくて、2世代あとのアメリカ人はもしかしたらフランス人かイタリア人のようになるのでは(よくわかりませんがw)という気もします。

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  6. オレンジ猫さん、わたしは生まれた時から運命的にリベラルなので(笑)、オバマが当選した時にも「やった!」て思いましたし、あと1年の間になんとか景気が回復して、来年のこの時期、追い風が吹いててほしいと思います。オバマの公約の多くはもう10年以上前にアメリカがやっていなければならなかったことばかりだし。でもとにかくあまりにも景気が世界的に悪すぎて、もう誰にも先が見えなくなってますね。
    Occupy Wall Street の主張は、銀行も、投資でもうけてる人も、真っ当なルールに乗っ取ってやれ、ということに尽きるのだと思います。色々な思惑と色んな怒りが合流して来て、よくわからなくなってしまっているけど。

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