2020/03/14
SUICIDE FOREST
ひな祭りの日、ニューヨークで、シアトル在住の歌人で文筆家でパフォーマーのあふひさんが出演する舞台をみてきました。
娘さんのHARUNA LEEさんが脚本・主演の母娘共演。
SUICIDE FOREST (自殺の森)というタイトルは、自殺の名所といわれる富士山の樹海のことです。
昨年ブルックリンの劇場での初演が好評で、ことしマンハッタンのオフブロードウェイの劇場での再演となりましたが、なんと昨年末にはニューヨーク・タイムズの劇評で「[The Best Theater of 2019(2019年のベスト舞台10)」に選ばれるという快挙もなしとげました。すごい。
舞台のあと初めてお会いしたHarunaちゃんは、お母様とおなじく華奢で繊細でイノセントな印象だけれど、意思がものすごく強くてまっすぐな感じの人(これもお母様と同じ)。
日本語の文化で生きる母と、アメリカ文化の中で育った娘のコミュニケーションギャップ。
従順な性的オブジェクトとしての役割をおしつけてくる社会。
その日本社会の何重にもかさなった、砂糖をまぶしたようなゆるやかでやんわりとした、でも強烈な圧力。
性的なはけぐちとして若い女の子を求めるサラリーマンも、会社のなかで強烈な抑圧の下にいるし、家族ともつながりをもてないでいる。
社会的なコンテクストと役割、アイデンティティ、セクシャリティ。
ぐちゃぐちゃしている社会の中で自分の居場所と生き方を模索する娘と、すぐそばにいるのに謎でありつづける母。
前半は日本的世界がコミカルでテンポのよい展開で描かれ、後半は急に暗い樹海の(ヤギたちがさまよう)世界から急に劇場の「いまここ」へ(観客席にも眩しいライトがあたり、観客はそわそわと自分の足元を見つめずにいられなくなる)、そして語り手Harunaちゃんの心の中へ、謎めいた母との対話へ、と、くるくると時空を超えながら、まじめな葛藤を明るくシャキシャキと描いた舞台でした。
要は女の子の成長の物語、なのだけれど、肉声で語られる100パーセント真摯な物語に引き込まれます。
そしてなんといっても実の母親が実の母親役で、しかもちょっとこの世のものならぬ空気をまとって登場する迫力。
実際はとてもキュートで蚊も殺さない感じのあふひさんなのだけど、舞台では優しい母から凄みのある怖い存在に急変してほんとうに怖い。暗闇で出会ったらトラウマになるレベル。
舞台のあとで本人は、あの怖さは監督(舞台監督も日系の若い女性)のキャラクターなのよ、と言ってましたが、母なるもののわけのわからない恐ろしさが、地の底から引き出されてる感じでした。
娘が母に感じるもの、求めるもの、共有するものは、息子と母との関係にあるのとはまたぜんぜん違うのだろうな。
うちも日本語文化のなかで生きる母がワンオペで運営してきた片親家庭で、子どもが二重のアイデンティティを持っていて、という面では立場が同じだけれど、娘と母って、息子よりもずっと難しそうです。
男の子はもっとずっと単純で、女の子の取り扱い説明書があるとしたらたぶん300ページくらいあるところ、男の子は3行くらいで済みそうな気がする。
ひな祭りの日は初日。観客は白人が圧倒的に多かった。オール日本人のキャストで、脚本も監督も日系の女性による舞台がニューヨークの観客に深く理解されてるのにもちょっと感動しました。
公演は3月21日までの予定だったのだけれど、COVIDの影響でブロードウェイの大きな劇場が閉鎖されたのを受けて、木曜日の夜で終演にしたそうです(´;ω;`)
10日前にはそんなことになるとは思わずのんきに観劇していたのですが。
最終日も満席で、とてもよい舞台になったとのことですが、本当に残念。
また再演のチャンスがありますように。Harunaちゃんはこれを機にテレビの仕事が入っているそうですが、今後の活躍も楽しみです。
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