2018/11/27

アライグマ劇場


ねこシッター業務を終えて、わがやに帰ってきました。

狭い我が家だけどウチがやっぱり落ち着く〜。郊外から久々に戻ると家のたて込みかげんに笑える。でも落ち着くー。散歩しててもこの近所は家とお庭のサイズがヒューマンなスケールで。

でもしかし、猫ロス。

美男美女にまとわりつかれるぜいたくよ。 動くものが身の回りにない物足りなさ。


ねこのおうちでは気づいたら5日間も猫以外と会話をしていなかったのでしたが、うちに帰ってきたら話し相手はベンちゃん(ベンジャミン、植物)、ゴムの木(植物)、豆蔵(はと時計)くらいしかなかった。
…出かけよう。


これはある日のアライグマ劇場。

ねこのお宅は郊外で、まわりは大きな庭のある邸宅ばかりだし近くには森もあるしで、ふつうにアライグマが週に何度かやってくる。子連れで。


興味津々でワイルドライフをみつめる箱入り娘と息子たち。
サファリパークかよ。
アライグマ母も逃げないのである。スキあらば、なにかいただこうと。何もあげやしないけど、勝手に庭からなにかほじったりして持っていっていると思う、たぶん。

野良のシングルママにはちょっと共感しちゃうのでした。むかしの自分をみているようだわ。おなかをすかせて、までではなかったものの、スキあらばと目を光らせていた野良ママであった、ホノルルのわたくし。

頑張れ母。でも入ってくるな。


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2018/11/26

巨大リュートとカウンターテナー




さいきんのお気に入り。

昼間は古楽(バッハかそれ以前の音楽)を聴いていることが多いですが、このあいだAppleMusicのバッハラジオでおすすめされたこの歌手がすごく気に入ってしまいました。

フィリップ・ジャルスキーさん。

こちらに詳しい記事が。

最初聴いたときは絶対女性歌手だと思ったんだけど、男性だった。

わたくし、「カウンターテナー」という声楽のパートがあることも知りませんでした。

クラシックは好きで長年聴いてるけど、教養はないのよ。

このYouTubeビデオはどこかの教会で開催された小さいコンサートで、すんごい巨大なリュート(きっと名前があるのだろうけどわからない)を弾くジュリエット・ビノシュ似の奏者も素敵です。

年末にかけて、クリスマスソングは聴きたくないってときにいかがでしょう。癒やされますよー。


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2018/11/23

サンクスギビングの混雑


Happy Thanksgivingでした!

今年も息子彼女Kちゃんファミリーにおよばれ。今年のコントリビューションはこれだけ。
ジャパニーズかぼちゃ、クランベリーソース、コーンブレッド。

朝から猫とダラダラしていると、昼頃息子がコーンブレッドを作るといってやってきた。
そうやってママに気をつかっているんでしょうね。
ママんとこに行ってあげなさいよ、てKちゃんに言われて来たのかも。



Kちゃんの焼いたバゲット。
職人わざである。
耳を近づけて、焼き上がったパンの音をきいていました。
パンがしゃべるなんて知らなかった。


Kちゃんパパ、ジムりんのビューティフルターキー。


Kちゃんのお姉さんBちゃんとカレシのCくんがレイク・タホから帰省しており、シェパードと黒ラブをつれてきてました。

おうちにいるシェパードとバーニーズ・マウンテン・ドッグとあわせて4頭が、ディナーのあいだ足元に。



でもこれがみんなとってもおとなしく、騒ぐこともケンカすることもなくテーブルの下で落ち着いているので感心。

さすがに昔から大型犬を飼い慣れていらっしゃる。むかしはシベリアンハスキーが4頭いたこともあるそうです。

でも以前、テリアがいたときにはもっと全体にハイパーだった気が。
テリアは身体はちっちゃいけどボス犬だった。今年亡くなってしまったんですって。


食後に、Bちゃんがターキーとポテトをめいめいのお皿に盛って、犬のみなさんにさしあげるおすそわけタイム。
待ちに待ったおすそわけにあずかるため、キッチンに詰めかけるみなさん。

大混雑です。

食後はジェニファーちゃんと、犬たちの散歩にお出かけしました。雨も上がって、月がキレイだった。
かわいいおうちが多い住宅街で、楽しいウォーキング。
散歩はちょっとたてこんだ町のほうが楽しいな。郊外は家がでかすぎて親しみが持てないし、あんまりジロジロと邸宅を観察してると不審者だと思われそう。

シェパードのミカちゃんのリードを持たせてもらった。後ろ足で立ったらわたしと背の高さが同じだった、ミカちゃん。


うちに帰ると、寝る場所も大混雑でした。

よいサンクスギビングでした。


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2018/11/20

生涯最大のモテ期再来とUber Poolチャット



葉っぱがだいぶ散ってきました。

文化の日だと思っていたらもうサンクスギビングか!はええー!

今月は仕事を控えめにしてまったりすごすつもりでいたのに、なぜか絶え間なくバタバタです。
お仕事をいただけるのは大変ありがたいことなのですが、だがしかし、もっと早く回転する頭脳がほしい。



今月はまた猫シッターに来ており、ふたたび生涯最大のモテ期を満喫中です。

ソファに座ってもベッドにいっても、美男美女4名がわたしの動向をうかがってはわらわらと集い、わたしの隣のポジションを奪い合う。キャバクラに来た成金おじさんのようだ。うれしい。


愛されるしあわせをかみしめつつふと気づくと、5日間くらい猫以外の誰とも口をきいていなかった。

たまーに電話やスカイプで連絡する以外は、クライアントさんやエージェントさんとは100%メールだけのやりとりだし、ここにいると買い物にもあまり出ないし、息子はソーシャルライフが忙しいし、数少ない友だちともLINEかメールでつながってるきりだし。

人として、少々いかがなものかと思う。

そこでようやく先週の土曜日、用事と買い物を兼ねて、湖をわたってシアトルの自分の部屋をチェックしにいきました。

あいかわらずカーレスなのでバスとUberでの移動です。

静かな郊外からシアトルのダウンタウンに行くと、あまりのキラキラさに目がくらむ。

とくにアマゾンのあるサウスレイクユニオンやベルタウンのあたり。
猫にモテるしあわせだけをかみしめて毎日を送っている隠居みたいなおばちゃんには1ミリも関係のない世界であることよ。


 こちらは9月にフェリーに乗ったときのシアトルダウンタウン。

帰りは自宅のあるバラードからチャイナタウンの日系スーパー、ウワジマヤまで、Uber Poolに乗りました。あの乗り合いでちょっと安いやつです。

なぜかよりによって土曜日の夕方にあちこちで工事をしていて車線の半分が閉鎖されていたりしたため、ダウンタウン一帯ものすごい渋滞で、 いつもなら20分くらいの距離に50分くらいかかった。

運転手さんはザンビア出身で米国在住25年、テキサスのダラスから数年前にひっこしてきたという人。
乗り合わせたお客さんは、Uber本社のエンジニアかなにかの人だった。
2人ともやたらにノリのよい人たちでした。

シアトルの交通管制システムはほかの都市に比べてダメダメだとUber君が講釈をたれたり、それにしても最近激混みだよねー、それでやたらアグレッシブな運転する人増えたよね、やっぱりカリフォルニアから引っ越して来る人が多いからだよね、とみんな意見が一致したり。ブルックリンから来たお客さんに、運転がスローすぎるとかもっと車間距離詰めろとか言われたんだよ、と運転手さんが言うので、まじで!ああーでもニューヨークのUber乗ったら死ぬほど怖かったからそのメンタリティわかるわー、というと、Uberエンジニア君がそうそう、わかるわかる、あの街の運転手って異常にアグレッシブだよね、と同意してくれたり。

渋滞に巻き込まれ他人と小一時間クルマに同乗という微妙な時間だったのになんだか楽しかった。

わたくし、よっぽどリアルな人との会話に飢えていたのか。
やっぱりもっと出かけるべきかしら。



Uberエンジニア君はセカンド・アベニューの会社の前で降りていきましたが、その手前の新しいマックスにキラキラしたコンドミニアムの最上階に友人が住んでるそうで、「一番大きいペントハウスのユニットは5,000平方フィートで32ミリオンなんだってよ。クレイジーだよね」
といってました。

コンドミニアムで32ミリオン?
36億円?
専属運転手つきなんですってよ。

同じ街に住んでいても、見えない世界がいっぱいあるねえ。


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2018/11/13

シアトルの文化の日




11月4日の日曜日、シアトルのインターナショナル・ディストリクトにあるジャパニーズ・カルチュラル・コミュニティ・センター・オブ・ワシントン(JCCCW)で開催された「文化の日イベント」に行ってきました。

わたくし、はずかしながらこの団体のことも建物のこともまったく知りませんでした。

ここは以前、日本町の日本語学校だった建物だそうです。
今でも日本語学校や各種の文化行事を精力的におこなっているそうです。

この日は、昔ながらの木造校舎の中で、日本風のカレーを売ってたり、「にほんへの旅」の発表があったり、生け花展があったり、第二次大戦中に強制収容所に送られた経験を中心に綴った二世の女性による自伝をもとにした展示がありました。

このあたりの日本町の住民が、戦争中根こそぎ内陸の収容所に送られたということはもちろん知ってたしいろいろ読んではいたものの、実際にかつての日本人コミュニティの中心だった日本語学校という建物のなかでその展示を見ると、なんともいえない実感をあじわうことができます。

ここの「武道館」という名の板張りの道場で、舞踏家、薫さん、あふひさん、ショウコさんとジョアンさんのパフォーマンスがありました。



しずしずと登場する舞踏家たち。

床に置かれたライトがこちらを直撃していたため、全体にちょっとおもしろい写真になりました。この日もiPhoneで撮影です。


ピンク色の紗で自らを覆う女たち。

この日の演目は「Sleeping Beauty」。川端康成の「眠れる美女」を下敷きにしているそうです。

「眠れる美女」読んだことないや。
あとで読んでみよう、と思ってまだ未読です。
なんでも、もう性的に不能となったじいちゃんたちが前後不覚に眠る全裸の少女を鑑賞するという筋だそうだ。



最前列で見ていた幼い姉妹。
「スリーピングビューティー」と聞いて、この子たちが「えっ♡」と嬉しそうに顔を見合わせていたのをわたしは見た。





そしてこの、すけすけのピンクのスリップに身を包んだ謎のスリーピングビューティーたちを見て、彼女らはなにを思ったことか。

引率してきた品のよいお祖母様らしい女性がたいへん困惑した笑顔で去っていったのが印象的でした。


ところで、チャイナタウン/IDがずいぶんとキレイになりましたね!
もちろん、まだホームレスの方々はいらっしゃるものの、このフジベーカリーの前の小公園にも新しいゲートとガーデンテーブルセットが置かれてました。

夜遅くまでやっているデザート屋さんも賑わっているし、全体に小綺麗になってきたなーと思います。
以前は何十年も廃屋同然になってたビルも小綺麗なアパートホテルになってたり。


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2018/11/11

濃すぎて仰天のザ・メニル・コレクション


今週は、思いのほかバタバタでした。もう1週間たっちゃったけど、ヒューストン日記のつづきです。

ロスコ・チャペルを検索で発見し、そのチャペルがこのThe Menil Collectionの一部であることを知ったのは、ヒューストンに行く数日前のこと。

アメリカは地方都市にも奇特なお金持ちがいて、モダンアートの美術館なんかも作ったりしてるんだなー、ふーん、ちょっと見に行ってみよう。…くらいの気持ちでいたのですが、サイトを見ればみるほど、もしかしてここってすごいかも?という期待感が高まり。

そして行ってみたらもう本当にびっくり、脳髄を吹き飛ばされるような美術館でした。
アメリカ人がよくいう「ブロウ・マイ・マインド」ってこういうことをいうんだなと思った。
 
超ツボ!  きっとわたしのために作ってくれたんだ、と思うようなミュージアム。

そしてなんと入場は無料なのです。

デ・メニルさん、本当にありがとうございます。

オープンはロスコ・チャペルよりもずっと後で1987年。これは奇しくも、前日に行ったあのポストモダンなコンベンションセンターの完成と同じ年。

でもまあなんと、方向性がまったく違うことよ。

クリーンでミニマルなこのメインビルディングの設計は、イタリアのレンゾ・ピアノ。

1970年代に美術館建設の計画はあったものの、デ・メニルさんが亡くなったために計画はしばらく頓挫し、80年代になって夫人のドミニクさんがすべてを仕切ってオープンさせたとのこと。


デ・メニル夫妻はそれぞれフランスの名家の出身で、ナチスがフランスを占領した際にアメリカに逃れ、60年代に帰化しています。

デ・メニルさんはフランスでは銀行業にたずさわり、アメリカに来てからは油田調査の国際企業シュルンベルジェの社長に就任(夫人のお父さんが創業者)、そのためにヒューストンにきょを構えたそうです。

フランス時代からアートを収集していて、まだほとんど無名だったマックス・エルンストに肖像画を描いてもらったこともある。(でもあんまり気に入らなかったらしい)

アメリカに来てからはニューヨークシティにもよく行き来して、ラウシェンバーグ、ジャスパー・ジョーンズ、イヴ・クライン、ルネ・マグリット、アンディ・ウォホールといったアーティストと親しくつきあっていたそうです。

はーなるほどー。
モダンアートは、こういうコレクターに支えられていたんですね。

ニューヨーク・タイムズに「 モダンアート界のメディチ家」というタイトルの1986年の記事がありました。
メディチだったんか!


そしてYouTubeに、デ・メニルさんのお家とこの美術館についての短いビデオがありました。

デ・メニル夫妻はヒューストンに移り住んで、「ガラスの家」で有名なモダニズムの建築家フィリップ・ジョンソンに自宅の設計を依頼。ヒューストンの豪邸が立ち並ぶ中に、まわりとはまるっきり違うガラス張りで四角いモダニズムの、ヒューストンの感覚からいうと比較的地味めな邸宅を建てて、テキサスの社交界に衝撃をあたえたという話です。

(ちなみにフィリップ・ジョンソンは最初、ロスコ・チャペルの設計も頼まれたのだけど、ロスコと意見が衝突して降りたという話…)。

上のビデオでちょこっとでてくる、この邸宅が素敵すぎる。かっこええー。

ほんとうにこんな生活を送っている人が世の中には実在するんですねぇ。


 これはロスコ・チャペルと本館のあいだにある(約徒歩3分くらいの距離)マーク・ディ・スヴェロの彫刻。

表にもたくさん立体作品があって、緑が豊かで、なんなのここは?天国?と困惑してしまうような一画でした。

さっきウィキで読んだばかりですけど、「ヒューストンは文化の砂漠だ」と言った友人に対してデ・メニルさんは「砂漠でこそ奇跡は起きるんだ」と答えたとか。

アブラハムが神に出会ったのも砂漠だったり、聖書では、神が出現するのはたいてい砂漠/荒野なんですね。

もーいちいちカッコよすぎる。デ・メニルさん。




そしてですね、このメインビルディングに収められているコレクションがまた素晴らしく、わたしのツボをピンポイントで押してくるのです。

館内は撮影禁止なので、えんぴつでメモりました。

まずはマックス・エルンスト。

わたくし、なぜか10代のころにマックス・エルンストの絵葉書をずっと部屋に飾っていたことがあるのですが、そのわりにエルンストの作品って実は数点しか見たことなかったかもしれない。

この美術館で、小さな部屋なんですが、1940年代ころのエルンストの彫刻や版画をぎゅっと集めたギャラリーを見て、あらためてやっぱこの人めっちゃ好きだわー!と思いました。かわいい!すっとぼけたテイストと、行く場所のないような切実さ。

そして、ルネ・マグリット。

この人の作品は、あちこちの美術館でチラチラと見たことはあったし印刷物でももちろんよく知っていたものの、なんかあんまりピンと来たことがなかったんですが、10点ほどの作品を集めたここのマグリットの部屋を見て、はじめて、ああそうなのか!そういう作品なのか!と、その世界観が納得できた気がしました。

アートでもなんでも、そのものが「語り始める」瞬間ってありますよね。

まあ妄想といえば妄想ともいえるのだろうけど、作品とのあいだに個人的な、いいようのないつながりを感じることがなければ、コレクターもアートを収集しようとは思わないと思う。

ずっとマグリットについてはなんかちょっととりつきにくいな、わかったような気はするけど別に面白くないな、と思っていたんだけど、それが、この部屋に行って、なにかがカチッとはまったように「はあああ、面白い!」と思ったのでした。

きっとそれはコレクターのパワーなのだと思います。

たぶん、並んでいる作品同士のケミストリーがすごいんだと思う。

あと、そのまんなか辺にあった「シュール部屋」。


こぢんまりした10畳位の部屋に、シュールレアリストの悪夢をかきたてそうな、ありとあらゆるヘンなものが並べられている。
『ヘルレイザー』みたいな人形とか、イヤな感じのお面とか標本とか 。
ここはあんまり長い間いると徐々に気が狂いそうな気がしたけど、ほんとに面白かった。

そのほか、ロスコ、レジェ、ミロ、カルダー、ジョセフ・コーネルなど、それぞれ点数は多くないんだけど、中身がすごーく濃いと感じました。

キュレーターが集めてきたコレクションとは違う、作家と直接交流を持っていたコレクターのコレクションの、なんというか<ナマのパワー>が充満している、そういう美術館です。

そして、アフリカや太平洋地域のアートにも怖いものがたくさんあった。
ノースウェストの部族のものもいくつか。

そして、この本館のほかに、まだ周辺にいろいろ別館があるのです。



この殺風景な倉庫のような建物は、ダン・フレイヴィンさんというミニマリズムアーティストのインスタレーション作品だけが展示されている専用棟。

 中はこのようになっております(ザ・メニル・コレクションのサイトより)。

ここへは本館から徒歩4分ほど。

もちろんこちらも無料です。
もとはスーパーマーケットで、その後クラブなどに使われていたという建物。入り口がわからなくてウロウロした。

入り口にはものすごーく暇そうなお兄ちゃんが座っていて、写真はダメよ、傘はそっちにおいてね、と案内してくれました。ここに一日座ってるのは暇だろうなあ。

この奥の部屋にもうひとつインスタレーションがあって、そこは白い蛍光灯でできた彫刻がいくつかおいてある。
ずっと見てると目が痛くなる。

ここはものすごく綺麗なんだけど、この体育館のような空間にぽつんと立っていると、一体ここでわたしは何をすればいいの?という気分にさせられて落ち着きませんでした。写真でみたほうがむしろ綺麗かも。

でもそれにしても、なんとも贅沢な空間です。アーティストのフレイヴィンさんはこのインスタレーションをデザインし終えてすぐ亡くなったそうな。幸せだったでしょうね。

また、サイ・トゥオンブリーさんの作品だけを集めた別館もあります。



さらに、ビザンチンのフレスコ画を再現したチャペルというのもあるそうだけど、そちらは時間がなくて行けませんでした。


この美術館群がある一角にも例のオークの巨木が並木になっていて、素敵な住宅街なのです。
メニルさんがこのへん一帯を買い上げて、家々をぜんぶ落ち着いたグレーに塗りなおし、アーティストたちを住まわせていたこともあるそうです。住宅街まで作っちゃうところがすごい。

ザ・メニル・コレクションにはビストロもあって、なかなかよさげです。行ってみたい。

文化の砂漠に小規模な奇跡をおこした夫妻。すごいですね、本当の「地の塩」。

ヒューストンに行けて本当によかった。ぜひぜひまた行きたいです。


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2018/11/06

ロスコ・チャペル



ヒューストンで半日の自由時間。どこに行こうか検索していてまず見つけたのがここ、ROTHKO CHAPEL (ロスコー・チャペル)でした。

美術史の授業か何かで、その存在を聞いた覚えがうっすらあった。そうかヒューストンにあったんだ、これはなにがなんでも絶対に行かなくちゃ!と、優先順位の第一位に置きました。

結局、飛行機の時間がすこし遅めになったので、ヒューストン美術館もはしごできたのでした。

ヒューストン美術館からUBERで7分。

閑静な住宅街にあります。入場は無料。


 なかは撮影禁止なので、NPRのサイトからお借りいたしました。

これはどのような施設かというと、ロシア生まれのユダヤ系アメリカ人画家、マーク・ロスコの絵を全面にはりめぐらせた「チャペル」。

チャペルとはいえ特定の宗教団体のものではなく、キリスト教から仏教までさまざまな宗教や団体がイベントに使ったりしています。(当初はローマ・カトリックの聖堂として計画されていたらしいです)

マーク・ロスコについてはこのサイトなどが詳しいです。

わたしは行ったことがありませんが、千葉の川村記念美術館にもロスコ・ルームがあるんですね。行ってみたーい。

ロスコさんは最初はシュールレアリズムなども追求していたそうですが、具象から抽象画に転じ、ポロックなどと同時代の1940年代〜50年代のニューヨークで頭角をあらわします。

そして表現を模索していくなかで、いっさいの具体的イメージをはぶいた、ほんわかした四角形の色彩だけで構成した大画面の作品というスタイルを確立していきます。

このチャペルを飾るのは、パリからヒューストンに移住した大金持ちのデ・メニル夫妻がロスコに依頼したオリジナル作品です。

というか、はじめからロスコの作品を中心に祈りの場としてつくった建物で、チャペルそのものもロスコが設計にかなり関与したそうです。

自分の絵は1枚だけ飾るのではなく、複数の絵でつくった空間で見てもらいたいと主張していたロスコさんにとっては、最高のオファーだったに違いありません。

ロスコは、大画面の色の世界を制作することで、見る人がその中に包み込まれるような体験をすることをめざしたといい、自分の絵が描いているもの、提供しているものを「崇高な体験」と呼んでいます。

シアトル美術館にも素敵なロスコ作品があります。


 (シアトル美術館サイトより、「#10」、1952年)

わたしはこのシアトル美術館収蔵の作品など、50年代のロスコ作品がとっても好きで、見ているとほんとに気分が上がるし癒やされるのだけど、このチャペルの作品はそれよりずっと暗かった。

なので、入った瞬間にちょっとびっくりしました。「うわっくら〜〜!」と思った。

 
こちらのサイトからお借りしてます。


60年代後半の、最晩年の作品。
このあと、ロスコさんはチャペルの完成を見ずに66歳で自殺してしまっているのです。健康を害し、結婚生活も破綻したとのこと。

正面の「絵」は、3枚からなっています。もともと、ローマ・カトリックのチャペルにする計画であったといい、ローマ・カトリックの伝統的な祭壇画(まんなかに十字架のキリストや聖母子をおいた三連の画)を踏襲している構成だそうです。


 たとえばこんなやつ(ロヒール・ファン・デル・ウェイデン画、1443年)






たまたま、行った日は雨が降ったりやんだりで、ヒューストンにしてはとても暗い日だったこともあって、スカイライトだけの室内はことのほか暗かった。

帰りに受付のお姉さんに聞いてみると、こんなに暗い日はめったにないとのことでした。

質素な木のベンチのほかに、床にクッションがいくつかおいてあって座れるようになっています。

三々五々、人が静かに入ってきて、ベンチや床でしばらく静かに座って出ていきます。
わたしもベンチと床に、かなりの時間座っていました。

ここで瞑想していると、壁からロスコさんが出てきました。
…というのは嘘ですが、ああ、暗いけどやっぱり癒やされる、と思いました。

50年代のロスコさんの絵とは違い、楽天的な要素はありません。
明るい救済の絵でもありません。

むしろ、最初は陰鬱ささえ感じる、固く塗り重ねられた、息苦しいほどの密度のある画面。

でもそこには、はっきりとした意思を感じました。

自分の人生をはるかに超える「崇高さ」との出会いを、リアルに提供しようという意思。
静かな空間に、ナレーションなしでその崇高さを再現しようという意思。

その強さに、そしてそれを信じようとする人たちの希望の切なさに、もう本当に泣けてくるのです。

デ・メニルさんは、ロスコさんが色彩だけの画面で表現しようとしてきたことを正確に理解して、その理想が最善の形をとれるように、このチャペルを提案したのだと思う。


それを何と呼んでもいいけれど、多くの人は「崇高なもの」とのつながりを必要としています。

さまざまな宗教を通して示されるその崇高な体験と価値は、言葉と物語にからめとられて、ときにはよその人を残忍に殺すための理由にもなります。

このチャペルは、その崇高さへの希求を否定することなく、それを歴史のなかのあらゆる物語から解放するための試みなのだと思います。

宗教を断罪するひとたちは、宗教が人にもたらす体験をあまりにも軽視しすぎていることがあまりにも多い。

もちろん宗教は、恐ろしくたくさんの血を流してきたし、人を抑圧するシステムとしてもものすごく有効に機能してきました。

でも、人はまだ祈りを手放す準備はできていないし、手放すべきでもないとわたしは強く思います。

祈りを通してしか実現しないものが世の中にはあると思うから。



ロスコさんも救われたらよかったのにと思うけれど。それはまた別の物語。

このチャペルの近くに住めるならヒューストンに移住してもいいやとまで思った。
(この周辺がまた、素敵な住宅街なのです)
また行きたいです。 できればもっと明るい日に。




チャペルの前にある池。

バーネット・ニューマンさんの作品「ブロークン・オベリスク」 。この人もロスコさんとほぼ同年代で、ほぼ同時期に亡くなってます。

この彫刻は!ものすごく見覚えがある!

ワシントン大学のシアトルキャンパスにあるのとおそろいですよ!

(これはワシントン大学のレッドスクウェアにあるやつ。画像はウィキペディアより)



近くに由来が書いてありました。1969年、ヒューストン市が現代彫刻を購入しようとしていたときに、デ・メニルさんがこの作品を選び、市庁舎の前に設置することと、当時暗殺されて間もなかったマーティン・ルーサー・キング・ジュニアにこの作品を捧げることを条件に資金を半分提供することを申し出たそうです。

しかしヒューストン市は、市役所前に設置することには同意したものの、キング牧師に捧げることを拒否。

そこでデ・メニルさんはオファーを取り下げて、自己資金のみで作品を買い取り、建設途中だったチャペルの前に設置することにしたのだそうです。

かっこよすぎる。しびれるー。

テキサスはバーベキューとカウボーイだけの土地ではありませんでした。
デ・メニル夫妻の美術館が、またもう本当にびっくりする内容でした。つづく。


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2018/11/04

ヒューストン美術館のミイラやトンネルや燃える池など


知らない街に行くと、まず行きたいのは食料品の市場(またはスーパー)と美術館。

美術館ってパワースポットだと思う。いろいろな意味で。

ヒューストンのお仕事はほんとうに申し訳ないほどあっという間に完了してしまい、翌日の飛行機は遅めの便だったので、丸一日、スーツケース持って美術館をはしごしました。

ひとつめはヒューストン美術館(The Museum of Fine Arts Houston)。
びっくりするほど規模の大きな美術館で、別館、美術学校、彫刻の庭園もあるそうだけど、3時間くらいしかなかったのでとても回れなかった。


コレクションもイスラム美術、エジプト美術、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、と年代も地域も幅広くて、それぞれとても面白かった。
シカゴやニューヨークの美術館ほど有名作品や膨大な数の収蔵品があるわけじゃないけど、とっても印象的な作品が多かった。

そして建物が広い!さすがテキサス。展示のしかたが広々してる。作品の間のスペースが広い気がする。


正面ロビーに、ラウシェンバーグとジャスパー・ジョーンズの作品が向かいあわせに展示されてました。ラウシェンバーグのは2000年の作品。
晩年といっていいのでしょうか。


ジャスパー・ジョーンズのは1984年の。
この人の作品は10代のときに軽井沢のセゾン美術館ではじめて見て、ひと目で恋に落ちました。
ネオダダとか抽象表現主義とか背景はなーんにも知らなかったけど、この人はスーパースターなんだな、と、画面から発散されているスーパーな自信と繊細さに、一瞬で説得されてしまった。圧倒的にかっこよかった。グレーの濃淡と、粗い手触りの情緒。



これはオランダのデザイナーの作品をあつめた小ギャラリーの企画展にあったStudio Driftという2人の作品。すてきーん。

このスタジオは灯りをつかった作品をたくさんつくってて、サイトで見たんだけどこのドローンを使った飛ぶ光の彫刻「Franchise Freedom」がすごい。


今年のバーニング・マンでもフィーチャーされたそうです。



美術館本館は2つの建物にわかれてて、地下のトンネルでつながってます。

このトンネルは、ジェームズ・タレルのインスタレーションになっています。
どこからどこまでが本当の空間なのかが曖昧で、謎の宇宙空間に踏み出すようなわくわくトンネル。たのしい。

ジェームズ・タレルの作品は、ワシントン大学のシアトルキャンパスの中にあるヘンリー・アート・ギャラリーにもありますよ!空に向かってひらいた聖堂のようなスペースです。


ローマ彫刻とエジプトの間。すごい広い吹き抜け。ほんとに無駄なほど広々してるでしょ。


エジプトの間もこぢんまりしてるけど、面白いのがいっぱいありました。

この鳥の顔をした棺のなかには、土と穀物をかためてミイラのかたちにしたものがおさめられてるそうです。
豊穣を願うオシリス神信仰に関係するものらしいとか。
そのうしろの壁際のは、子どものミイラ入りの棺。なかみ込みでそのまま飾ってある。
X線写真が展示されてました。


これは大切にされていた鳥の棺だそうです。


印象派の部屋にあったロダンちゃん。わたしはロダンは好きじゃありません。



印象派の作品も、有名画家の代表作とかはないんだけど、まんべんなくすこしずつあっておもしろい。

わたしが一番おもしろいなーと思ったのは、このモネの作品。目がもうよく見えなくなっていた最晩年の作品で、なんとこれが、あの睡蓮の池と日本風の橋を描いたものなんですよ!
とてもあの有名な、落ち着いた紫と青の画面で表現された池とは思えない、地獄の煮えたぎる池みたいなフツフツした画面。

ながらく無視されていたあとで、1950年代になってから若い抽象画家たちをインスパイアした、と書いてありました。ちょっといい話。



あと印象派の部屋で面白かったのは、ジョルジュ・ラコンブという人のこれ。
広重か!ひと目見て、これは浮世絵!と思う構図と色使い。

この画家はまったく知りませんでしたが、浮世絵ってほんとうに19世紀後半のヨーロッパの画家たちの想像力をかきたてたんだろうなあ、と思わされました。



それからポール・ランソンという人(この人も知りませんでした)の。この人はゴーギャンの流れをくむ「ナビ派」に属するそうで、もう印象派じゃなくて20世紀に入ってからの作品なんだけど、これも浮世絵ふう。




 すてきなマチス。かっこいい上着ですねえ。すべてがかっこいい。
 ピカソもあったし、20世紀の作品もいい感じにちょこちょことありました。


アメリカ絵画の部屋も小さいながら面白かった。
オキーフやホッパーなど有名どころが1点ずつ並ぶなかに、西部劇的な場面の絵で有名なフレデリック・レミントンのが3点あったのがテキサスらしくて印象的だった。3点とも同じ人からの寄贈品。



すてきなコロー。なんて綺麗な世界なのでしょうか。オルフェウスですね。川のむこうは黄泉の国。



ああ楽しかった。もう一回行ってみたいなあ。こんどは晴れた日に。

この美術館を大急ぎで回って、次に行った美術館がもうほんとうにすごかったのです。
ヒューストン恐るべしです。

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