先日、土産物屋化が進んでいる部屋の話で、4年ほど前に行った大平原の土産物屋さんを思い出しました。
サウスダコタ州のバッドランズ国立公園のあたりに行ったとき、ハイウェイを走っているとこの看板が何十マイルもの間、何度も何度も出てくるのです。 外は摂氏41度。アイスクリームの看板につられて行ってみました。
WALL DRUG STORE。
Wallという小さな町(人口766名)にあるからウォール・ドラッグストア。
「ドラッグストア」といっても、マツキヨみたいな店ではありません。
だだっ広いおみやげ屋さんと、パイやドーナツがたくさん並んでいる昔風のレストランコーナーがくっついた、日本の高速道路の入り口付近に昔たくさんあった、大型の「ドライブイン」みたいな感じの施設でした。(今の「道の駅」とはちょっと違うかも)
パーキングには、馬をつなぐ用の杭が立っています。
ディテールもとにかく素朴なウェスタン調。
中には昔の西部の町並みを模した小さな専門店街もあります。
けっこう本気な革の専門店とか、昔風の手作りキャンディの店とか。
ディズニーランドのオミヤゲショップ街みたいですが、ミッキーマウスの代わりにこんなばあちゃんギャンブラーの像があったりして、わりあいにハードコアです。
なんだかよくわからない人の像が多かった。もしかして地元の有名なヒーローなのかもしれません。
さらに売っているものもなんだかよくわからない。
プレーリードッグはいいとして(でも本当に全然可愛くない)、なぜ、うさぎに角が生えているのだ?と思ったら、これは「jackalope(ジャッカロープ)」という幻の動物なんだそうだ。アンテロープ風の角が生えたうさぎ。
雪男とか「サスクワッチ」とかネッシーみたいな、ものらしい。でもサスクワッチと違い、ネイティブの伝説にはまったく出てこない、20世紀になってからたぶんハンターの冗談から生まれた幻の動物。アメリカン・ジョーク…。
ほかにもありとあらゆるイヤげものが、これでもかこれでもかと並んでいます。
今思えばジャッカロープの貯金箱か、このラシュモア山のスノーボールでも買ってきてCTちゃんにあげればよかった。うふふ。
「コーヒー5セント。ウォールドラッグまであと◯◯マイル」
「冷たいお水無料。ウォールドラッグまであと◯◯マイル」
という巨大看板がハイウェイ沿いの大平原にいくつもいくつも立っていて、この近くを通れば嫌でも行かねばならないような気にさせられるのですが、ほんとにコーヒーは5セントでした。
このクラシックなマグが可愛い。そしてかりっとしたドーナツがかなり美味しかった!
観光客から小銭を絞りとることを目的に作られた施設をさす「Tourist trap(ツーリストトラップ)」という言葉がありますが、この言葉はまさにこのウォールドラッグストアのために作られたのではないかと思うほどぴったりな名称です。
ほかにはまるでなにもない平原の真ん中にあって、ハイウェイの巨大看板だけで続々とツーリストを集めているところもすごい。きわめて優秀なトラップです。
実際行ったときには毒気にあてられて、ドーナツ食べてすぐ出てきてしまったけど、こうしてしばらくたってから見てみると、意外に味わい深い。
礼拝堂まであって、その隣りにはこんな像が。バッファローの頭蓋骨を捧げ持って祈りを捧げるインディアン像です。
これはまさに、先日行ったタコマ美術館の西部美術展でもフィーチャーされていた、一つのステレオタイプ。
白人が来て、それまで海の魚のようにたくさんいたバッファローたちを絶滅寸前にまで追い込んでしまい、人びとは見たことのない病気でバタバタ死に、先祖代々から住んでいた土地を白人たちに追われ、という、草原に住んでいた人びとにとっての世界の終わりに、バッファローを蘇らせ、白人を駆逐し、もとの世界を取り戻すためのカルト宗教がいっとき流行ったという。
たぶんその祈祷師の姿なのだと思う。
この像はたぶん白人のアーティストが作ったものだと思う。真っ赤な身体に角をつけた、悪魔その人のような姿に描かれています。チャペルの入り口に置かれているのも皮肉というか、悪意なのか一種のセンチメンタルなのか。
このキッチュなテーマパークのようなギフトショップの素朴な面白さは、西部のこんな意外にいろいろな層のある歴史がいやでもにじみ出ているところ。
4年前の西部日記でアップしていない記事があったのを思い出したので、いくつか続きます。