2016/03/06

Kehinde Wiley: A New Republic  


またもや先月の話になってしまいましたが、2月にシアトル美術館で始まったKehinde Wiley: New Republic を初日に見てきました。オープニングナイトで、本人の姿もありました。

まだ弱冠38歳のKehinde画伯。西海岸での大規模な展覧会はこのシアトルだけだそうですよ。お見逃しなく。


彼の作品は、むかしの巨匠たちの絵を下敷きに、通りで声をかけてつかまえた無名のアフリカン・アメリカンの人びとを主人公として描いたもの。最近ではアフリカやアジア、中南米など世界各地の人びとをフィーチャーしたシリーズを展開してます。

この代表作は、19世紀の新古典主義の巨匠、ダヴィッドが描いた有名なナポレオンの肖像を下敷きにしたもの。

これですね。
近づいてよくみると、壁紙みたいな背景にうようよと精子らしきものが泳いでいるのも面白い。元にした絵はマチズモ丸出しの19世紀絵画ですが、英雄をブラックアメリカンの男性に演じさせ、単にヒーローを置き換えているだけじゃなく、マチズモな構図そのものをちょっと笑える仕掛けをいれて客観的に描いている。
でも描かれた対象から離れすぎてもいないので、やっぱりかっこ良さは熱いのです。


無名な人ばかりでなくて、こんな有名人もモデルになってます。
マイケル本人から肖像画の依頼があったようですが、生きている間には完成しなかったらしい。
これは『Equestrian Portrait of King Philip II』(騎乗のフェリペ二世)というタイトル。元絵はルーベンスのこれです。


世界を制服した西洋の白い人たちが何世紀かをかけて作り上げた美術世界を、ただパロディとして扱うのではなく、そのきめ細かく華麗な美の世界を理解し嘆賞しながら、そこに21世紀のいまを生きる肌の黒い人びと、数世紀をかけて搾取されてきた人びとの子孫であり、いまもその負の遺産をいろいろな形で受け継いでいるリアルな人びとをあてはめてみる、というのが彼の作品です。

Kehinde画伯はインタビューで、10代の時に美術館でみたヨーロッパ絵画の美しさに心酔したと語っていました。彼の作品には、ヨーロッパの巨匠たちの美の世界への心からの賛辞と、その背景にあった社会と文化へのストレートな問いかけが共存しています。単なるパロディでもなく、単なるプロパガンダでもなく、単なる追従でもない。


いずれも元の作品の写真を展示してほしかった気もするけど、でも作品そのものの迫力を感じるには、余計な情報は無いほうが良いのかもしれません。元絵の情報がそばにあると、どうしてもパロディに見えてしまうのかもしれない。


これは、東方正教会のイコンに感銘を受けて作ったシリーズ。イコンの聖人が、ストリートの若者たちに置き換えられています。


ステンドグラスのシリーズ。
彼の作品をキッチュだとかキャンプだとかと批判する人もあるようで、そしてこのような宗教画の置き換えには特に我慢のならないという人びとも一定数間違いなくいるのだろうと思います。

たしかに、既存の美術の枠組みからは逸脱しているのかもしれない。でもとても真摯な作品であることは間違いないと感じました。美術に対しても、描かれる対象に対しても。

これは世界各地の人びとを主人公に制作している近作「ワールド・シリーズ」のひとつ。このディテールがわたくしはツボでした。魚がー。


素敵なマダムがフレームに入ってくださったのでそのままパチリ。
ほかの特別展と違い「Please take pictures」と、入り口に記されています。どんどん写真を撮って、どんどん拡散してくださいという姿勢。


エリカ・バドゥ的な女性胸像は、巨大な髪でつながっています。
女性たちの肖像は、とても強く、ミステリアス。


人物が装飾的な植物のパターンに溶け込んでいるところがすごく好き。


ミュージアムのブックストア。
奥の壁に再現されているブラックパンサーのジャケットを着た若者の絵は、シアトル美術館の誇る収蔵品です。

会期は5月8日まで。

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