ジェーン・スーさんの『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』。
波乗り翻訳者えりぴょんがずいぶん前に送ってきてくれた。
すごく面白かったです。一応念のためにいっておくとこの人は純粋日本人で、「音楽プロデューサー・作詞家・コラムニスト・ラジオパーソナリティ」。
短いエッセイを集めた短い文庫本。全部面白いけど、なかでも特に個人的にツボだったのが2編。
ひとつめは「東京生まれ東京育ちが地方出身者から授かる恩恵と浴びる毒」。
文京区で生まれ育ったスーさんが、地方から上京してきた女子たちが東京に挑みかかり、またたく間にシュッと綺麗になって東京をスクラップ&ビルドしていくさまを若干の恨み節を小出しにしつつ、さらっと綴る一篇。
「身近に東京があったからこそ、既存の流行を奪取し、塗り替え、牽引するようなパワーは持ち合わせていない。これがもっさい東京人の哀しみです」
わーかーるー!!
富山県富山市出身のCTちゃんは短大卒業後2年間都内の会社でOLをやってからアメリカに来て住み着いてしまった人ですが、なにかというと「ともぞうは東京の人だからわかんないと思うけどー」と、地方風を吹かせる。
いや、東京でいちばんもっさりしているのは東京の、しかもはじっこのほうで育った人だよ!
わたしはいちおう23区内ではあるけれど、私鉄沿線ののどかな郊外でのんべんだらりと育ったので、山手線内に実家があるような人よりもさらにさらに、東京というメガロポリスへの帰属意識が微妙にひねくれてるのよ。渋谷へも新宿へも電車で30分くらいで行ける距離で、都内の「盛り場」への行き方を知ってはいても、そこに自分がフィットしてない感はひしひしと感じ、そして何が何でも東京を自分のものにしてやるし!というエネルギーをわたしもわたしの友人たちも著しく欠いていたのでした。だってずっと目の前にあったし。東京を作っていくのは東京の外から来た人なんだよねー。
(これは去年5月末の銀座〜。昔もいまも完全アウェイな街。いつかまた木村屋であんぱんを食べたい。)
あともうひとつ、すごく感動したのが「パパ、アイラブユー。」という一篇。
未婚で子なし30代のスーさんが、友人たちのフェイスブック投稿を見ていて楽しそうな子どもたちの写真にモヤモヤする感情をいかに乗り越えたかという話です。
「友人知人が慈しむ子供の写真にネガティブな感情を抱くなんて、どう考えても問題があるのは私の心です。私は未婚で子供がいないから、子供のいる家庭を羨んでいるのでしょうか? しかし、毎日を比較的楽しく満ち足りて過ごしている自覚はあったので、そんな大雑把な理由でもないような気がしました。ではなぜ?
どうにも不愉快だったので、私はこの心のざわつきをつぶさに観察することにしました」
そして、ざわつかせる写真に一定のパターンがあることを発見する。それは、子供に対する父親の愛情があふれている写真ばかりだったというのです。
「これはちょっとしたホラーだった」とスーさんは書いてます。
「私の持っていない婚姻関係や親子関係をもつ同年代の友人知人に、嫉妬していたのではなかった。むしろ立ち位置は逆でした。私は、父親に世話をされている女児に嫉妬していました。なぜなら、子供時代にそんな風に可愛がられた覚えが、私にはなかったから」。
このざわつきの原因がわかったあとは、同じような写真を見てももう心が揺れることはなくなったそうです。
他人に対するとらえどころのないイヤな感情を、ここまで自力で内省できるってすごい。
これは認知行動療法そのものではないか。わたしは以前に書いたケイティのメソッドなどを使って、10年くらいかかって内省にだいぶ慣れてきたけど、揺れているさなかのときに自力で自分の感情と問題を冷静に切り分けるなんて、とてもできませんでした。
自分につっかえている問題をひとつひとつ解剖して日の当たるところにひっぱり出してみると、それ以上何もしなくても、嫌な気持ちがシューッと小さくなって消えてしまうんですよね。これは本当に化学式みたいに、どんな状況にでも適用できる法則。
でもたしかに、ホラーではある!石をひっくり返してみるととんでもない虫がでてくる感じ。
これはわたしが知る限り、他人に対するモヤモヤする嫌な感情を徹底的に始末するための、唯一の効果的な方法だと思います。
相手に消えてもらうのがまあ一番てっとり早いのだけど、たとえ一人消えたとしても、絶対に!また他に同じような人が続々と現れるんですよね。一匹みたら三十匹はいると思え、というあのアレみたいに。
そういうふうに私の前に現れる人たちは、修行というかプレゼントだと思うようになりました。
自分が絶対に正しいと思ってまわりのバカなひとたちにイライラしながら生活するのもそれが好きならいいけれど、相手よりも自分の反応をじーっと見ていくほうが絶対におもしろいと最近は思っています。だって他人は変えられないし、自分の感じ方が変わって行くのを見るのはおもしろいです。