アールデコ建築シリーズの第3回は、「Old Federal Building(オールド・フェデラル・ビル)」。
住所は909 First Avenue。
完成は1933年という、アールデコとしては遅れてきたビル。
1932年、まさに大恐慌の最中に建設されたビルです。
大恐慌後、フランクリン・ルーズベルト大統領のニューディール政策のプログラムの一環で、全国で連邦政府のお金でインフラを整備して雇用を生み出そうというWorks Progress Administration(WPA)の設置が議会を通って正式決定したのは1935年。
このビルはそれに先立った連邦政府のプロジェクトでした。
ニューディールの時代は、ほんとうに国を挙げての「Make America Great Again」の時代だったんでした。
今とは時代も違うけど、800万人以上もの雇用を実際に生み出し、ソーシャルセキュリティー制度も作り、という、ものすごいプロジェクト。
(そのときに国民健康保険もできてたらよかったんですけどね)。
その約80年後に馬鹿げた大言壮語で国を分裂させる大統領が生まれるとは、いやはやなんともはや。
話がそれました。
なぜ「オールド」かというと、連邦政府のいろんな局が増えて手狭になり、1970年代になって向かい側にニューな連邦政府ビルが建ったから、こちらが「オールド」になったのでした。
アールデコを中心に、いろんな様式がミックスされているビルです。
垂直ラインを強調した階段式のビルの形はアールデコそのものですが、たとえばこの正面入口の上についている装飾はアールデコ登場以前に一世を風靡していたボザール様式の気分が残っています。
このアーチのとこに並んでる動物たちとかは、どうみてもアールデコとは縁遠い、クラシックな様式。
牡羊に獅子、バッファロー、ピューマ?
なぜこのラインナップなのか謎ですが、どの顔もかなり凶悪そうです。
「フェデラル・オフィス・ビルディング」という字体も、アールデコの気分をちょっとだけ反映しつつ、クラシックにも足を入れてますよという感じがします。
ビルの大きさに対して玄関が狭いですね。
正面玄関の両側にあるこのブロンズ製の飾り壺は、アールデコらしい、カクカクした直線を強調するデザイン。
ちょっと古代文明を彷彿とさせるデザインでもあり、1925年のパリ博に出ててもおかしくないような正統派アールデコ。
パノラマで撮ってみた。まるいビルにみえますね。
ビルのてっぺんだけ白いテラコッタを使っているのは、シアトルから見えるノースウェストの雪山を表現しているのだそうです。よく見ると「雪」の部分の一番下にも山羊みたいなのがいる。
建築をその土地の自然物になぞらえるのもアールデコの特徴のひとつなのだそうです。
ギリシャ・ローマから受け継いだ古典様式の建築が自然とは対局にあるものだったからなんでしょうか。
窓の上下にある飾り板は「スパンドレル」といい、このビルでは模様を打ち出したアルミが使われてます。
アルミは1930年代には最新の素材で、このシルバーはとても斬新だったのに違いない。
ビルの裏側はこんなになってました。このローディングドックはオリジナルなのかどうか。1930年代にトラックでの積み下ろしはしてなかっただろうから、後の時代につけたものなのかも。
このビルも外壁はテラコッタ、つまり焼きもので覆われてます。
素焼きレンガとは違い、釉薬をかけていろいろな色にでき、型に嵌め込んで大量に装飾タイルが作れるので、この時代にはビルといえばテラコッタというくらいテラコッタがよく使われていたらしい。
シアトルのビルでは、スミスタワーもせいうちビル(写真上)のせいうちも、もちろんエクスチェンジ・ビルも、全部テラコッタ。
1920年代にはシアトルにもテラコッタの製造会社がたくさんあったのですが、今では全米で建築素材用のテラコッタを作っているのは全米で2社だけで、そのうちの1社がこのフェデラル・ビルのテラコッタを作ったワシントン州オーバーンにあった会社を買収したんだそうです。それがサンフランシスコにある、このグレーディング・マクビーンという会社。
上の動画はその会社を紹介する地元番組の動画で、テラコッタ制作の概要がわかって面白い。番組のレポーターがものすごくテンション高いゲイの人なのもサンフランシスコらしい…。
温めるまでに3日間かかるというテラコッタ材を焼く巨大窯や、テラコッタの精みたいな専属アーティストのおじいさんも出てきます。
この会社では今でも古いビルの修復のためにテラコッタ材を焼いているのだそうです。
INAXのサイトによると、明治時代に建てられた赤坂璃宮ではドイツ製のテラコッタが使われ、その後日本全国で国産のテラコッタが建築素材としてたくさん作られたんだとか。
建材の移り変わりも面白いです。
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