2021/01/08

トランプの幻想と単純なラベルはり

 



暴徒が鎮圧されてまる一日たった今日の夕方になって、トランプはようやく、昨日の暴動を「mayham (騒乱)」として非難し(自分の関与にはまったく触れませんでしたが)、「新政権は1月20日に就任する」「今はスムースで秩序ある政権移行に注力する」という2分間のビデオメッセージを発表しました。



ホワイトハウスの広報官もほぼ同様の、昨日の暴徒は厳しく非難するという記者発表をして、質問はいっさい受けずに退場。


きのうの午後に公開し、Twitterから暴力を促進する可能性があり危険とみなされて削除された動画メッセージ(議事堂に乱入した暴徒に「気持ちはわかる。君たちはスペシャルだ。愛してるよ。しかし今は家に帰りなさい」と呼びかけるもの)とはずいぶんとトーンが違い、選挙後初めて、バイデン新政権への移行を、つまり自分の敗北を、認めたことになりますね。

きのうの暴動を明らかに焚き付けたトランプを憲法25条により罷免しろという要求が、民主党はもちろんのこと産業界や共和党の一部からも出ていたので、これはさすがにまずいと1日かけて説得されたのでしょう。

前日の、ホワイトハウスの前の、ラリーの支持者を前にしたスピーチでトランプは、

「バイデンの票はコンピュータで捏造されたものだ。第三世界の選挙だってこんなにひどくない。君たちの声を沈黙させはしないぞ」
…など、もうすでにトランプ支持者以外には単なる陰謀論として理解されている「不正」についてえんえんと語り、「民主党の極左」と「フェイクニュースのメディア」への嫌悪を煽り、この国をかれらの手から守らねばならない!と煽り。

「俺は絶対負けを認めない。ドロボウに負けを認めたりしないんだ!」
「地獄のように戦わなくてはならない!」
「民主党員は問題外だ。弱い共和党員に、やつらに必要なプライドと大胆さを見せてやるんだ」
「みんなで議事堂に行進していこう!」
と支持者たちに元気よく焚き付けました。(全文はこちら


本当にこの時点までは、トランプも、まだこの/選挙人投票集計確認の段階で、自分が大統領に選ばれると信じていたっぽいですね。


このときの意気揚々とした表情に比べて、今日の「スムーズな政権移譲に注力する」と語った動画の表情は石のように固かった。終始、「渋柿を噛んだ」というのはこういう顔か!とおもうような顔でした。

さてさて、日本にも、「わたしたちは真実を知っている。アメリカに住む人はマスコミのウソを信じているので、わたしたちの知っている真実を知らない」と本気で考えているトランプ支持者がけっこう多いのに驚きます。

このブログにもそういったかたの一人からコメントをいただきました。
「情報をマスメディアに依存して得ている方たちは、不正選挙の詳細も知らないから驚きます」とおどろかれています。

「不正選挙」を立件しようと、トランプさんたちは2か月かけて60件もの裁判を起こそうとしたものの、そのすべてが「baseless」(根拠なし)だとして裁判所に却下されていて、トランプが指名した裁判官にさえ立件に値しないと判断されているのですが……。トランプ派が「証拠」として示しているものは、「いや、それ普通のルーティンだから」「それ、票が入ってた箱じゃなくて機材の箱だから」などと、ことごとく検証によって退けられています。(トランプさんは昨日の集会のスピーチの中で、判事たちのことを「あの裁判官たちは、自分たちが俺の人形だって記事を書かれて、それが恥ずかしくて、反トランプ的行動をしてるんだ」と説明してましたが…。みなが自分と同じ原理に従って行動すると思っているのか)

人の考え方はそれぞれなので、真実がひとつでないのは、この世の摂理でもありますけれどね。

ほんとにけっこう多いのですよね。トランプは中国から「自由社会」を守ってくれる救世主だと信じている日本の人が。

トランプのスピーチは、name calling (悪口、ある一定のグループに過激なラベルをつけること)と恐怖を煽ることで成り立っています。それが支持者に響いている。こういう過激なののしり言葉は、自分の権利がエリートに蹂躙されている、移民やマイノリティが自分たちより優遇されている、既得権を脅かされている、といったルサンチマンに響くのだとしか思われない。とにかくトランプ支持者は怒っている。

でも日本のトランプ支持者、陰謀論支持者はどうなんでしょう。
やっぱり何かを奪われていると感じる、不安や恐れが強いのか。

「マスコミはウソばかり」「政府は信用できない」と、なにかこう、すべてをシンプルな文脈で理解しようとしている人が多いのではないかと思うのですが。

トランプは、そういう簡単で過激なラベル貼りがとてもうまい、というか、そこにだけ皆の注意を集中させるのがとてもうまい。
「極左が国を乗っ取ろうとしている」
「沼(官僚のせいで腐敗したシステムのこと)を干せ!」など。

世の中を複雑なものだと捉えるのはしんどいものですが、単純なラベルを貼ったとたんに、見える世界が限定されてしまいます。

「マスメディアに依存している人は知らない真実をわたしは知っている」と考えている人は、マスメディアではない独立系メディア=すなわち真実、という短絡におちいっているのではないだろうか。

そしてその根底には、やはり、根深い不信があるのですよね。

この不信こそ、トランプが4年間をかけてアメリカ社会に培ってきたものです。

もちろん、疑ってみることは大切です。メディアはどれもバイアスを持っているものだし、それは人も同じです。
情報の出どころをチェックするのは大切だし、オピニオン記事であればその人がどのような立ち位置でどのようなバイアスを持って書いているのか、理解しようとする態度は大切ですよね。

それは自分自身のバイアスをチェックすることにもつながります。

ジャーナリズムも、法律も、科学の世界も、それぞれに長い時間をかけて無数の人びとにより、一定のルールと基準を守って積み上げられてきたものです。

機能していない部分があるからといって、そのエコシステムのすべてを否定してしまっては、世界を極端に狭くすることになるんではないか。というより、結局自分を傷つけることになるのではないか。

どんなシステムも人が作っているもので、中にはひどい人もいるし優れた人もいる。究極、陰謀論に走ってしまう人は、人間の作った社会、社会のなかの人間を信頼することができなくなっているのではないかと思うのです。

うちの青年が働く企業のデザイン部にも、2、3年先輩にQアノン信者がいるそうです。

その青年は、今日のトランプの「政権移譲に注力する」という動画メッセージを、「戒厳令を実施し政権を奪取する」という暗号だと受け取っているそうな……。

彼はあまり友人もいなくて、孤立した生活を送っているらしい。うちの青年はなるべく彼とふつうにコミュニケーションを取ろうとしているのだけど、彼が「リサーチした」「これを読んだほうがいい」と送ってくるニュースメディアの出どころがすべてQアノン系なので、それには辟易していると言ってました。
彼とは1月21日に誰がホワイトハウスにいるか、バイデンかトランプか、という賭けをしていて、レアなスニーカーを一足、賭けてるそうです。

Qアノンで面白かったのは、昨日、議事堂に乱入したなかで目立ってた水牛の角をつけて毛皮を着、槍を持った半裸の男、この人長年Qアノンの先頭に立ってる人だそうですけど「おれはアンティファじゃない」と怒っているという話


陰謀論者や共和党右派は、「この議事堂の暴動はアンティファが仕掛けたものだ」と主張しはじめてますが、筋金入りトランプ支持者が自分でFBやツイッターにセルフィーをたくさん掲載してるのですけどね……。

 


にほんブログ村 海外生活ブログ シアトル・ポートランド情報へ

6 件のコメント:

  1. ニュースを追っかけるのが大変な数日だったー。
    ジョージアで勝った喜びに浸ったのなんて数分?笑
    ここまでくるとトランプ信者が可哀想に感じてくるの。もっと良いことにエネルギーを注げれば、どれだけ輝く人たちだろうかって。かと言って、今の状況になって突然ごもっともなことを言いだしたり、辞職する政治家はズルイ。
    昨日はまたコロナの新患者数が飛び上がってて、「トランプじゃなかったら、どれだけの人が助かっただろう」って思わずにはいられないんだよね。

    返信削除
    返信
    1. Motokoちゃん、わたしもこんなにニュースづけになったのは久しぶりだった!主にツイッターから見てたんだけど、極右の人のツイートも見ていると体に悪かったらしく、6日の夜はお腹を壊して寝込んでしまいました……。

      トランプの6日のスピーチも、全文ざっと目を通してしまって気分が悪くなった。ほんとうにこの人、人の悪口しか言わないんだなーと。(バー元司法長官やペンスの悪口まで言うんだからね)。
      そしてその罵詈雑言に喝采している群衆が気持ち悪くて。
      トランプ信者は、それを自分で選択しているのだから可哀相だとも思わないけれど、でもここまで「戦え!」って焚き付けた張本人が自らを反省する一言もなく「暴力はいかん」とか言うのは人としてどうなの?って思う。
      いままで追随・黙認していた政治家のメンタリティも本当に謎だよ。6日のミッチ・マコーネルの上院でのスピーチ(暴徒が乱入する前)にちょっと感動したのだけど、あなたそれをどうして8週間前に言えなかったの、と思わずにいられない。それがつまり「ポリティクス」っていうものなんでしょうね……。

      削除
  2. 私も大統領選のことでコメントをしたら、
    情弱とかトランプが勝ってるとかコメントされた事があります。
    メインメデイアではなく怪しげなYouTubeのことは鵜呑みにする人達。
    そして馬鹿にしたように自分は真実を知っていると言ってきます。
    そのYouTubeをみたけど、はっきりとわかるデマばかりでした。
    中には真実もあるかもしれませんが。
    自分の信じたいことしか信じない人が多いのかな、カルト的でちょっと怖いです。

    返信削除
    返信
    1. 匿名さん、コメントありがとうございます。
      ほんとにネットがここ数年、ますます荒んでいますよね。
      「自分は真実を知っている」病は、かかってしまうとなかなか抜け出せないようですね。

      カルトの定義のなかにも、「自分たちの信じる情報源からの情報を真実と信じ、他の情報源を認めない」というのがあるそうです。
      メディアは嘘ばかり!と頭から決めてかかっている人は、「フライパンから飛び出して火の中へ」飛び込んでいるのだと思うのですよ。
      まず「真実」とは何か?からじっくり考えてみてはどうなのだろう、と思うのですが、人の情報源をバカにするわりに、自分はずいぶん簡単に「真実」を手に入れちゃってるんですよね。とにかく不信と、膨大な情報への不安が根底にあるのだと思います。
      人を「情弱」とバカにする人は、本当は自分が情弱ではないのか、と恐れているのだと思います。

      削除
  3. 私も在米30年ですが、何百人人もの一般の人達や共和党の選挙管理人が、宣誓供述書にサインをしてまで不正を明言しているのは、やはり気になります。
    中には執拗に脅かされ、得をするためにやったわけではないですし。。。
    トランプ反対派の方たちは、このまま違法の外国人が増えることはどう思っているのか、イランや中国などのあまり力を持たせると危ない国に対し強い態度で交渉に望んだトランプの政策は良いと賛同できないのか。バイデンの薬物中毒の息子が中国や
    ウクライナから現職中に大金を受け取っていたことはご存知ない、もしくはおかしいとは思わないのか。トランプは、メインのマスメディアから色んな
    攻撃をされてきました。メインのマスメディアのトップには、中国の共産主義のお金がばらまかれています。。。アメリカ株も中国の共産党が保持しています。トランプも完璧な人間ではありませんが、
    マスメディアの情報も当てになりません。バイデンのニュースから調べて見てください。それと、以前、シアトルのchazについて、かかれていまsじたが、もしご自分の自宅の庭にスクワッターが来てchazのように占領してもそのまま、ほっておいたり、シアトル市長のようにサポートするのが正しいと思われますか。私は、アンテイファのようなレフトの人の方が恐ろしいです。

    返信削除
    返信
    1. コメントをありがとうございます。

      たくさんの不安をお持ちでいらっしゃるのですね。
      お気持ちはとてもよくわかります。
      世界は恐ろしい場所で、わけのわからない凶暴な人が右往左往し、不条理と混沌と暴力に満ちているようにみえます。

      でも、もっとも恐ろしいのは、それを簡単に解決できると考えてしまうことだと思います。どれほど優れた人であっても、誰か一人の人間が混沌とした世界にスパスパと解決をもたらすことは不可能ですし、ましてや、あの大統領ではあり得ないでしょう。一般に、複雑な問題に簡単な解決策はあり得ないと考えたほうがよいのではないでしょうか。

      混沌とした恐ろしい状況に明快な解答がほしい、説明がほしい、解決してくれる人がほしいという気持ちはわかりますが、世界は複雑な現象であるということをまずそのままに受け容れるべきではないかと思うのです。

      「宣誓供述書に署名をして不正があったと証言した」ということだけでは、不正があったという証明にはなりません。証言が証明になるなら、誰でも「あの人が不正を働いた」というだけで特定の人を罪に定めることができることになってしまいます。そのようなことが起きないように、司法のシステムが作られています。そして、その司法システムの中で、トランプはこれまで8週間、しつこくしつこく食い下がり立件しようとしたのに、どの裁判所でも「充分な証拠があるとはいえない」と判断され、相手にされなかったのです。そのすべてが仕組まれたことだと判断するなら、司法システムすべてを否定することになります。(トランプは実際にそのようなことを言っています)

      中国はたしかに危険な国ですが、それは「共産主義だから」ではなくて「寡頭政治の全体主義で、少人数の政治家が絶対的な権力を持っているから」です。(中国共産党は共産主義を実現できていません。看板だけです)

      そういう国家でなにが起こるか。民主主義国家とは違い、ルールが政権に都合のよいように少人数のリーダーによってどんどん勝手に上書きされます。

      トランプがやろうとしたのは、まさにそれと同じこと。つまり、憲法で認められていない権限を行使して共和党員や副大統領に選挙結果を変えさせようとしたのですね。

      そして「盗まれた選挙」を正すために「議事堂へ向かえ」と群衆を煽り、結果、その「正義」を行っているつもりの群衆が暴徒と化して、議員殺害まで企図して議事堂に乱入し、暴力を働きました。

      わたしが恐ろしいと思うのは、右派であると左派であるとにかかわらず、自分の正義を疑わず、それを理由に人を傷つけるこのような人たちです。歴史をみればそんな事例には事欠きません。

      真実や真理や正義が自分の側だけにあると固く思い込んでしまった人たちが、その真理や心情を共有しない他者に対して凶暴になれるのです。

      複雑なこの世の中で、他者の存在を受け入れ、互いの立場と感情をよりよく理解しようと努める覚悟を一人ひとりが持つことが、とても時間はかかるしまどろっこしいですが、唯一の解決方法だと思います。

      そのためには、自分が何に恐れを抱いているのかをまず良く考えることが大切だと思います。人に解決方法を委ねたり、なんでも解決してくれるスーパーヒーローを求めるのではなしに。

      恐怖と嫌悪が生む攻撃的な心が簡単に暴力につながることは、議事堂に乱入した人たちが数々のセルフ動画で充分に証明しています。

      削除