2019/06/25

無限の水玉


5月の東京ですよ。
草間彌生ミュージアムにも行きました。この日は息子と二人で遠足。


 開催中の展示は「幾兆億年の果てより今日も夜はまた訪れてくるのだ―永遠の無限」。

彌生ちゃんはいつも頭からつま先まで大真面目でとてもストレートフォワード。
いつも直球です。


東西線の早稲田駅から10分くらい歩いたところにある細長いたてもので、オープンは2017年。
建物は久米設計だそうです。ケレン味はないけど実直に品よく、そつなくおしゃれ。


たまたま建物の壁にできていたこんな影が綺麗でした。

ミュージアムは完全予約制で、時間入れ替え制(滞在可能時間は90分)。
オンラインでもチケットが買えるので、飛行機のチケット取るのとほぼ同時に入手しました。
1名1000円なり。
半分くらい外国人のお客さんだった。彌生ちゃんは海外でも大人気。

とっても小さい美術館で、各フロアの面積は、こぢんまりしたリビングルームといった感じ。
美術館というより、ちっちゃいギャラリーを4段重ねにしました、といったおもむきでした。

「ちっちゃすぎだろ」というレビューもあったけど、いやいや、かなり楽しめましたよ。
1000円はリーズナブルプライスだと思う。これ以上高かったらやだけど。


1階が入り口とショップ、2階にから4階がギャラリー、その上は小さなライブラリと屋上のオープンエア展示。

ギャラリーは自然光をたくさん採り入れてとても明るい。ぐるぐる階段を登って上の階へあがっていくシステムは、ニューヨークのNew Museumのような感触(あちらはずっと規模が大きいですが)。

階段が使えない人のためにはエレベーターがあります。


フロアの一つに展示されていたインスタレーション、無限のはしご。

こことショップと屋上だけは撮影OKでした。

床に置かれた丸い鏡の上に、ネオンのはしごが設置されている。
覗き込むと、光の梯子が上にも下にも永遠に続いています。
とほうもない「永遠」をかいまみてしまう作品。

彌生さんは小さなころから幻聴や幻視に悩まされ、すみれの花や犬がとつぜん話しかけてきたり、おかしな影法師のような存在におびき出されて池で溺れそうになったりしていたそうです。


「ある日、机の上の赤い花模様のテーブル・クロスを見た後、目を天井に移すと、一面に、窓ガラスにも柱にも同じ赤い花の形が張りついている。部屋じゅう、身体じゅう、全宇宙が赤い花の形で埋めつくされて、ついに私は消滅してしまう。そして、永遠の時の無限と、空間の絶対の中に、私は回帰し、還元されてしまう。これは幻でなく現実なのだ。私は心底から驚愕した。そして、怖いインフィニティ・ネッツに体を束縛される。
…のちに私の芸術の基本的な概念となる、解体と集積。増殖と分離。粒子的消滅感と見えざる宇宙からの音響。それらはもう、あの時から始まっていた。」
(『無限の網 草間彌生自伝』作品社、61 ページ)

…という、幼少期からえんえんと続いている、「脅迫」のようなビジョンと、それを乗り越えて作品にしていく旺盛な表現力、生命力。

<筋金入り>というのはこういう人のことをいうのですね。

「無限に続く全体のなかに溶け込んでしまう」という感覚は、少しわかる気がします。
鏡の部屋や永遠のはしごだけでなく、一連の水玉作品にも、その圧倒的な感覚が背後にあると思うと、見方が変わるはず。


屋上階は美しいかぼちゃのための空間。
完璧な青空でした。


近づくと、自分もカボチャの中で水玉世界の変な模様になっているのです。


彌生ちゃんのカボチャたちには特に心惹かれるわけではないのだけど、この磨き抜かれたシルバーパンプキンはいままで見たカボチャの中で一番好き。この場所がパーフェクト。

展示は年に2回、変わるそうです。次回は10月頃から新展示。




エレベーターの中も、無限の水玉。


ショップでハンカチ買った。たしか1,200円 2,000円でした。


『宴のあと[SOXTE]』(2005年)というドローイングをハンカチにしたもの。
やはりここにも増殖していくものたちが色々と好き勝手な方角へ。


細胞たちと顔たちと妄想たちが繰り広げる宴。

そのなかをわたくしたちは生きているということを思い出せてくれるハンカチです。

(ここでも)ああやっぱり図録買ってくればよかったー!ご飯一食抜いても!

とても楽しかった。また行きたい。


にほんブログ村 海外生活ブログ シアトル・ポートランド情報へ

2019/06/23

通りすがりの関係


緯度が高くて夏の日は長いシアトル。

夏至を過ぎて、夜10時まで明るいので、うっかり夜更かしをしてしまうこのごろ。
(…と書いてから、季節にはあまり関係なくうっかり夜更かししているのに気づいたが)



近所を歩いていると飛び切りの別嬪さんが。

にゅいーん、よっこいしょ、仕方ないわねぇ、と出てきて、


めっちゃ接待してくれた。

思う存分、猫成分を充電。


つかの間のしあわせよ、さようなら。


にほんブログ村 海外生活ブログ シアトル・ポートランド情報へ

2019/06/22

甘酒と霊獣、積まれていくもの


5月の東京の話です。

クライアントさんと神田で打ち合わせがあり、帰りに神田明神へ。

いつも華やかな感じのする境内ですが、元号が変わって「奉祝」ののぼりが立っていて、華やかさもひとしお。

社殿にむかって左手に新しいたてものができていて、その名も「EDOCCO」だって。
さいきんはやりの、和の単語をローマ字表記にするやつね。キッテとかソラマチとかの。明神様にはぴったりでかわいい。エドッコ。


(写真は公式サイトより)別名「神田明神文化交流館」。
去年12月にオープンしたのだそうです。1Fはショップとカフェ、地下はシアター、上階には多目的ホールやラウンジがあり、春にはジブリの展覧会をやっていたそうです。
最近アニメと縁が深いらしい神田明神。
いろんな層の人が来て賑わうのはいいことですね。
ワカモノや外国人にも受けがよろしいのではないでしょうか。

ショップがけっこう楽しい。神棚やお米やお塩も売っている。
オリジナルグッズも多く、ロゴのデザインも気が利いてます。
ミュージアムショップもだけど、オミヤゲ業界全般がこの10年くらいでものすごく洗練されてきた気がする。日本のおみやげショッピング文化は不滅ですね。

だけど同じ日本人女子でもたまに、お買い物一切が大嫌いという人もいるので面白い。
通訳のM嬢は、買い物には一秒でも余計に費やしたくない派だそうです。かっこいい。そうそう、この人は以前うちに泊まったときにも出したバスタオルを使わず、持参の手ぬぐい一枚で身を拭って出てきたので仰天したのだった。


 こんなの買った。柚子塩。なかみは高知のゆずと九州の塩だって。


「天皇陛下御即位記念」の祭てぬぐい。
この色の取り合わせと字体、いかにも江戸らしくて威勢が良い。

生前退位>即位っておめでたい一方でいいですね。
平成のはじまりはお葬式で、暗かったものねー。


東京総鎮守であり武将を祀る神社にふさわしい、すごく凛々しくて強そうな狛犬さん(獅子さん?)。
筋肉ムッキムキですね。敵に回したくない。

そしてこちらは…。



門前の老舗の看板息子。

ここの地下深くに、明治時代からの糀室があるのだそうです。


柱時計がたくさんある、寺山修司の映画にでてきそうな店内。


暑い日だったので冷やし甘酒。おいしゅうございました。


こちらは、お向かいの湯島聖堂の「大成殿」の屋根を守るものたち。

銅屋根の専門家集団「日本金属屋根協会」のサイトによると、てっぺんにいるのは「「鴟尾(しび)」の一種で、龍頭魚尾で頭から水を噴き上げている、鬼犾頭(きぎんとう)という「水の神として屋根の頂上にあって火を防ぐ」霊獣だそうです。

この孫の手がかさなったようなものは、水だったんですね。

睨みをきかせてる猫っぽい人たちは「鬼龍子」(きりゅうし)。
「想像上の霊獣で、孔子のような聖人の徳に感じて現れるという」。

この建物は関東大震災で焼失後、昭和10年に再建されたもの。戦災はまぬがれたのですね。火を防ぐ願いは切実。


いろいろなものに出くわす神田界隈。


植木ももりもり。

神保町界隈を歩くと必然的に古書をしこたま買うことになるのであらかじめ丈夫なカバンを持って出かける。

1階に看板がでていた、とある古書店をめざして、とても小さなエレベーター(定員4名くらいか、冷蔵庫のようなサイズ)に乗って4階に上がると、エレベーターを降りたところが…


…このようになっていました。

ええとこれは降りていいところ?と、しばらく躊躇したけれど人の気配がするのできっとこれはお店なのだろうと判断して先へ進む。

両脇に本がうず高く積まれているので荷物を持ったままでは通れない。入り口付近に荷物を置いて中を見ると、奥のほうに山に埋もれるようにしてレジがあり、お兄さんが一人ちんまりと座っていました。

「地震のときは大変ですね」って思わず聞いてしまうと「ええ、だいぶ崩れました」と静かに苦笑していらした。ひー。


ファンの多い有名喫茶「さぼうる」の入り口にある赤電話。現役かどうかは知りません。


そしてまた持って帰れないほど買い込んでしまう。
いったいいつ読了できるというのでしょうか。

にほんブログ村 海外生活ブログ シアトル・ポートランド情報へ

あのイケメンと再会!


奉祝・令和の上野、5月末。
5月なのに真夏のようなうだる陽気でした。
にゃを美先生と国立博物館へ。


なにがなんでも行きたかった「東寺展」!

平日なのに長蛇の列だったー。70分待ちと言われてひるむ。
しかしイケメンと会うために耐え忍ぶ。

並んでるのはおばちゃんとおばあちゃんばっかり >(お前もなー)。
中にチラホラ熟年男性。

なにしろこの日はたしか30度超えの炎天下だったので、日射病おばちゃん続出予防のため、博物館は並ぶひとびとに日傘を貸し出していました。


じゃじゃーん。
ああこの方とまたお会いできるなんて。

去年の夏、東寺で。お目にかかった帝釈天さまであらせられます。

東寺の「講堂」はとてもとても空いていた、というかほぼ独占状態だった。
なんと贅沢なことであったか。

でもお寺のお堂はなにしろ昔の建築だけにスペースが限られてて、仏様たちも天部衆もみんなけっこうギュウギュウ詰めなレイアウト。

今回の国立博物館の展示室はそれはそれは広々していて、講堂のゆうに3倍くらいある部屋で立体曼荼羅の仏像を360度眺められるというまたとない機会でした。
バーゲン会場のような人群れをかきわけながら、ではあるものの。

空海さんもにんまりしていることだと思う。



展示室内は撮影禁止だけど、このポスターボーイ、帝釈天さんだけは撮影OK。

おばさま方に取り囲まれるスーパースター。

なにしろ仏像界でも指折りの世紀のイケメンなので、告知でも一番大きく扱われてるし、海洋堂製作の7200円もするフィギュアも売り出されてるし(一瞬考えたけど買いませんでした)、とにかく特別扱い。



告知でもセンターとってます。

にゃを美先生は「きっとさー、天部の間でお前ばっか目立ちやがってって裏で言われてるよ」といたく気にされていた。
でも実は帝釈天さんって四天王のボス的な存在なんですってよ。
だからきっと特別余計に働いて、衆生のために撮影モデルまでつとめてくださってるんですよ。

さすがに立体曼荼羅の全員がきているわけではなく、中心の仏様と、梵天さん、不動明王さんなどはお留守番。
 
こういう博物館での展示の前には仏像は「魂抜き」をしてから運んでこられるそうですが、会場ではやはり如来像に手を合わせている人がちらほらいました。だよねー。



いやーーほんとに何度見てもかっこええです。
帝釈天って、ヒンドゥー教ではインドラ様なのでしたね。
手に持ってるのは金剛杵。
空海さんの像も右手にもっている密教法具ですが、もとはインドラさんの武器だったんだそうです。(< 今知ったばかりバイウィキペディア)。

会場ではその隣にいた持国天さんも、何度見てもほんとに迫力。


図録は重すぎるし、東寺で買った写真集があるからいいやと思って持国天さん栞とクリアファイルのみ買って帰ったのだけど、しかし!去年東寺で買ったはずの仏像カタログはいったいどこに行ったのかなと思って記憶をたどると、去年船便で送って紛失されてしまった中にたぶん入ってたのに違いない!!(大号泣)やっぱり図録買っとくんだったなあ。

グッズもいろいろあって目移り。
最近の日本の特別展グッズすごいです。細かいツボを突いてくる。
日本の人はほんとにミュージアムとお買い物が好きだよね。わたしもです。戦利品ツイートをあつめたページもあった。

クリアファイルは金剛杵を組み合わせた「羯磨」(かつま)の柄です。
笑えるほどかっこよすぎ。

羯磨って初めて見たのですがこれは、法会で、投げて‼使用するのだそうです。

そして今回、念願の曼荼羅図にはじめてお目にかかることができました。

(これは国宝の金剛界曼荼羅、国博サイトより)

平安時代に作られたというこの国内最古の曼荼羅(国宝)は会期最初のほうにだけ展示されたそうで残念。
行った日に展示されていたのは、江戸期にコピー製造された(もちろん手描きで)「元禄本」の金剛界曼荼羅。でもこちらも素晴らしかった。

まずそのサイズに仰天! 壁一面。でかっ。

これは国内最大級の大きさだそうで、一辺が4メートルくらいある巨大曼荼羅。
毎年の法会で現役で使われているものだそうです。
絹の上に手描き。


2014年公開時の産経新聞サイトより)
細部は菩薩のお顔がぎっしり並んでいたりしてとにかくすごい密度。
宇宙は混雑しているのですねー。

東寺展予習資料として、にゃを美先生がおかざき真里さんのコミック『阿・吽』全9巻(出てるのぜんぶ)を貸してくださった。
今までまったく知らなかったのですが、すごく面白かった。

東寺展でおかざきさんのトークイベントもあったんだそうです。


左が最澄さん、右が空海さんですよ!!

登場人物ほぼ全員イケメンでほぼ全員エモくて色っぽくて傑作です。

9巻では、空海さんが押しかけ遣唐使で行った長安から日本に帰ってきて、さてこれから作りますよ高野山!というところ。
ああつづきが早く読みたい。

最澄さんはエモくてど繊細な天才、空海さんは強烈なドライブを持つ野獣のような天才として描かれてて、この二人の、共に生きるべきはずなのに運命が歴史に翻弄されつづける韓流ドラマのようなドラマチックなすれ違いとか、長安での空海と恵果師匠の怒涛の出会いのくだりなどほんとうにすごい。

特にぐいぐい掴まれたのは丹生都比売。高野山開山の際に空海さんが挨拶にいったと伝えられている地元の神がど派手なセクシー美女神として登場して、暴力的なヒトの世界のなかで心優しく強い(でも万能ではない)存在として描かれてる。

自然に囲まれた隠国に無数の霊と神が人と共に住む日本という国に、唐では弾圧が間近に迫る密教を託そう、という話のはこびに涙しました。

高野山行ったとき、神社も行っておくのだったなー。スルーしてしまったごめんなさい。次回機会に恵まれればぜひ行きたい。

空海さんの話はやっぱりちゃんと読まなくちゃ。ていうかここに来てまだ何も知らなさすぎる自分にびっくりだ。


にほんブログ村 海外生活ブログ シアトル・ポートランド情報へ

2019/06/20

胡桃堂喫茶店


東京・国分寺の胡桃堂喫茶店


小平霊園というところに母方祖父母のお墓参りに行った帰り、ふと国分寺に寄ってみると、なんだか昭和初期っぽい風情のあるお店が。

入り口外に本棚が置いてあるところがダメ押しで引き寄せられ、近寄ってみると珈琲店でした。


ディテールが素敵でなごむ。色がきれい。


うつわもスプーンもいちいち素敵。

店内に古本と新刊の書棚があって、購入もできるようになっている。

日本にはこういうほんとうによく神経が行き届いて繊細なお店が津津浦浦にすごくたくさんあるよなあ、と、つくづく思いました。

土曜の夕方、ほぼ満席。
娘と母らしい女性二人連れ、おばさん女子会、文化系おひとりさま女子。
98パーセント女子ばかりの店内に、ひとりでコーヒーを飲みながら文庫本を読んでいる白いシャツの青年がいました。
私がその年の男子だったらアウェーな環境で自意識バリバリになり挙動不審になって死に至りそうだけど、その子はごく自然で涼しげな顔で一人の読書時間を楽しんでて、なぜか勝手に好もしく思いました。



美しい窓ガラス。

帰りにレジできいてみたら、驚いたことにこの建物、昭和初期ふうに建てた新築なんだそうです。
この窓ガラスはビンテージのものを使っているのだと。


へええそうなんだ!特に豪華にお金をかけてたり凝った建物ではないですが、やっぱり細部に目が行き届いていて、しゅっとしてる。


帰りに駅までの道で発見、名曲喫茶でんえん。こっちは本物の昭和ビンテージ。
次回訪ねてみたいです…。

にほんブログ村 海外生活ブログ シアトル・ポートランド情報へ