2014/07/13
技術的特異点と翻訳者のサバイバル <IJET その2>
IJETで参加したセミナーのメモ、つづきです。
<世界で生き残るために翻訳者がとるべきコラボレーション戦略> 齋藤 ウィリアム 浩幸さん
1日目3コマ目は、日本人の両親を持ってアメリカで生まれ育ち、ごく若い頃からエンジニアとして大成功した斎藤ウイリアム浩幸さんのセミナー。日本語での講演でした。
指紋認証システムを開発して成功し、その会社をマイクロソフトに売却した後は後進のための環境作りを目指して日本に拠点を移し、日本国のIT戦略コンサルタントとして活躍中という華々しい経歴のハイパーエンジニア。講演の後でいただいた名刺は内閣府本府参与、科学技術・IT戦略担当というものでした。
直接翻訳とは関係ない部分で、大変にエキサイティングな内容のセミナーでした。
話の中核は技術革新がいかに急速に進んでいるかということ。たとえば、現在では市場に行き渡っているスマートフォン1台のほうが、10年前のホワイトハウスのコンピュータの処理速度よりも速いとか。
めくるめく技術の世界を吉本の芸人さんさながらのテンポで次々に紹介してくれるので、まるでジェットコースターに乗っているような気分にさせられるプレゼンテーションでした。
トランジスタ、通信、ストレージ、センサーはいずれ「タダ」になる技術であること、ホットなトピックはやはり、ビッグデータ、ソーシャルネットワーク、モバイル(ウェアブル)技術、センサー応用、サイバーセキュリテイ、3Dプリンター、「モノのインターネット」であること、そして技術的特異点(シンギュラリティ)についての予測など。
人工知能が人間の脳の能力と同等になる時期というのは、早い予測では2030年、あとわずか15年。さらに、1台のコンピュータが地球上の全人類の脳を合わせた以上の能力を持つようになるのが2045年だという予測もあるそうです。この20年間のコンピュータの普及、インターネットの出現と普及、技術上の「ドッグイヤー」の加速を考えれば、充分に可能性があることと納得できます。
それは「もしかしたら」ではなく、遅かれ早かれ確実に、21世紀中に実現するだろう技術。
その時いったいどんな社会が出現するのか、誰にも見当がつかない、と齋藤さんはいいます。これほど最先端を知りつくしている人が、わからないと。
ヒトよりも賢くなったその時、コンピュータは人を幸せにするのか不幸にするのか。富の偏在を加速させるのか、是正するのか。現在ある仕事のほとんどが不要になるとしたら経済はどうなってしまうのか。社会の変化はスムースに起きるのか、あるいは世界戦争のような災厄的なイベントの引き金になるのか。
生きている間にとてつもない変化を見ることになりそうだという予感が、このセミナーを聞いていてますます強くなりました。
先日のマイクロソフトの「スカイプ翻訳」の発表の際にも感じたのですが、翻訳業界では意外なほど技術に対する危機感が少ないようです。技術的特異点を待つまでもなく、言語サービスが職業として成り立つのはあと10年か15年くらいじゃないかと、私はごく漠然と感じます。
たしかに現行の機械翻訳はまだ実用レベルではなくて編集に余計な手間がかかるくらいですが、精度が上がっていくスピードは現在想像できる以上に早くなる気がするし、自動通訳機械みたいなものは恐らく10年くらいでかなり普及レベルになるんではないかという感じがします。
だから正直なところ、通訳翻訳業はこれからの若い人に薦められる職業ではないと感じています。
村岡花子さんが活躍した20世紀は翻訳の時代だったけれど、21世紀は人工知能の時代。情報のやりとりももっと速く、データはもっと膨大になっていく。
21世紀後半には人間という存在の捉え方そのものが変わるだろうなと思います。
そこへの移行がどのくらいゆるやかに、または急激に進むのか、固唾をのんで見守るしかありません。
で、そんな世界で「生き残るために翻訳者がとるべき戦略」はというと、結局はテクノロジーの動向から目を離さずに取り入れながら、(今のところ)ヒトの力でしかできない事に能力を特化していくこと、でしかない、というのが結論のようです。
ルーティン・ワークやマニュアルでこなせる単純な仕事は加速度的に消滅していく世の中で、最後までヒトでなければできない仕事は何か。市場に何が提供できるか。
それを常に点検していかねばならない。市場のルールと需要は年ごと、いや日ごとに変わっていくでしょう。
これはどの業界でも同様なのだと思いますが、きわめて深刻で難しい課題です。
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