ロードトリップ、第8日目のつづきです。
ラスベガスを通過したあと、いったん州間高速道路「I-15」号に乗ってから「USルート93号」に乗り換えるのですが、その出口を通り過ぎてしまい、Uターンして戻ってくるという小さなハプニングがありました。そのためのロスは20分かそのくらい。
ここからのルート93号は、上の写真のとおり、片側一車線対面通行の、荒野の道です。
ほんとに照明もないし、TMobileのネットワーク外で、携帯もつながらない。
道の両側は、ベージュ色の砂漠。
ブッシュセージの間に、ジョシュアツリーもちらほら生えていました。
斜めになった地層がくっきりしている横縞もようの丘陵が印象的。
どこもかしこも、ダイナミックというしかない景色ばかりです。
ラスベガスからほんの30分かそこらで、こんな砂漠のまんなかに来てしまうのね。
ルート93に入ってすぐのあたりで、イーロン・マスクの「ハイパーループ」のテスト施設が左手に見えました。なんか変な建物があると思って見ていたら、運転していた青年が目ざとくハイパーループのロゴを見つけた。
「時速約800マイル(約1287キロ)で走行する超高速真空チューブ交通システム」です。実現するかどうかは不明だけれど、イーロンさん、一人でほんとにいろいろやるよねぇ。
これはこれで、本当に美しい景色だと思う。こういう景色を連日眺めていると、ジョージア・オキーフさんが描きたかったものがよくわかる気がします。
さてちょっと変な話をします。
わたしは自分の機嫌をよくしておくために、いつもかなり時間をかけて気分のメンテナンスをしています。気分が急に上がったり下がったりしたときには、ぴっと目を向けて、メーターを振り切る前に何事か見に行くようにしています。
それでも時々原因不明の不安感などに襲われることはあるのですが、それほど多くはありません。
前回いちばん大きかった謎のアタックは、コロナ禍でロックダウンする直前のニューヨーク旅行中でした。
(ジョージ・フロイド殺害事件のときも数週間落ち込んだけれど、それは原因がわかっていたし、たくさんの人とショックを共有しているのがわかっていたので、自分ひとりの感情の振れ幅を管理するのとはまったく違う、得難い体験でした。)
コロナで出かけなくなってからは特に、ほとんど人と会わないのでメンテナンスが簡単になっています。
で、このルート93号に入ってしばらくして、なんだかめっぽうイライラしている自分に気づいたのです。まるで思春期のコドモのように、イライラが止まらない。
何年ぶりかと思うくらいに、理不尽なまでに腹が立って落ち着かないのです。
道を間違えて戻ってきたくらいでこんなにイライラすることはないはずだし、まったく原因がわからない。自分の中に、なんの筋書きも理由も見つからない。
困ったなあと思っていると、急に、渋滞にぶつかりました。砂漠のまんなかで。
片側一車線の道路がずっと先まで駐車場状態になっていて、まったく動く気配がありません。
前のほうに停まっている車の人もみんな車をおりてわいわい言っている。双眼鏡で見ると、1マイルくらい先に警察の車がいるのがわかりましたが、なんだかわからない。
きっと先のほうで事故でもあったんだね、待つしかないね、困ったねえ、と言いつつ、近くをブラブラしたりしていると、10分ほどして対向車線に車が何台かやってきました。おお、開通したかと思ったら、前のほうに停まっていた車がUターンして戻ってきただけで、ドライバーに聞いてみると
「通行止めで最低7時間はかかるらしいよ」
とみんな口々にいうのです。
7時間て!
この渋滞が起きたのは、この地図のコヨーテ・スプリングスというところのちょっと北側。
この日の目的地、ウェルズまではまっすぐにこの道を進んで5時間。まだ空が明るいうちになんとか到着できそう、と思っていたのでしたが。
十字路になっているとこの手前で事故があって通行止めになってしまったので、ここを避けてウェルズまで行くには、州間高速道路15号に戻って、ソルトレイクシティ経由で行くしか方法がありません。
こっちだとプラス3時間半。本当に事故処理に7時間もかかるのか!と信じられませんでしたが、それを確かめるために待つ時間もないので、8時間半ルートをとることにしました。
もっと気の利いた人だったらここで宿をもっと近い場所に変更したりするのでしょうけど、なぜか「きょうはウェルズに行く、絶対」と心に決めてしまっていたのでした。
それでね、州間高速道路I-15号に向かって引き返しはじめたら、急に不思議なほど気持ちが軽くなってきたのですよ。
あのイライラのアタックはいったい何だったのか。砂漠の中の93号線を走ることへの不安だったのかもしれませんが、それにしてはちょっと度が強すぎたし、いきなりすぎた。
なんだかわからないけれど、そのへんに漂っていたものを「ひろって」しまったのかもしれない、いう気がしました。
ついでに、ちょうどこの事故があったあたりのすぐ左(西側)、30キロか40キロくらいの地点に、有名な「エリア51」があるのですよー。
だから、うちの青年と「この事故はエイリアンがなにか仕掛けたね」と笑ってたのですが。
イライラのアタックはエイリアンとは関係ないと思いますけど、なにかずーんとする、妙な圧のある空気があった、ような気がしました。
ラスベガスから93号線を利用する方は(たぶんそんなにいないと思うけど)気をつけてくださいね。
この道路は、もちろんあとから知ったのだけど、2年前には全米で最も危険な道路に認定されたほど事故が多いそうです。
この日の事故も、対抗車線に飛び出したピックアップトラックとセミトレーラーの正面衝突で、ピックアップの運転手が亡くなったと報道されていました。飛び出しの理由はニュースには説明されていませんでしたが、無理な追い越しだったのか、居眠りだったのか。
そしてやはり、事故処理のための通行止めは真夜中までかかったと交通情報で知りました。
あのへんに住んでる人は、夜中まで帰れなかったんですね。いやはや。
州間高速(インターステート)15号に出た途端に、本当にほっとした。胸のつかえがおりたような、頭の上からなにかが取り去られたような。不思議な感覚だったのですけど、青年も同じようにほっとした、と言っていた。
なんだか知らないけど、この日は93号線を走ってはいけないということだったのでしょうね。
そして、ウェルズに着くまでにまたもう一つ、アドベンチャーが待っていたのでした。
US93号線のこの日通るはずだった区間のドライブ動画をみつけました↑。
(逆方向からだけど)
こんなところです。