7月あたま、IJETのあとで、吉野〜熊野〜伊勢に行ってきました。
京都から近鉄電車で大和和木へ行き、そこからレンタカー。
2年前に和歌山の古い神社と高野山への旅を突然立案してくれ、なんだか突然幽遠な旅にみちびいてくれた美人通訳であり巫女のM嬢が今回も名古屋でのお仕事の途中を抜けてきて、吉野での一日につきあってくれました。
吉野で巫女M嬢と待ち合わせまでに1時間半ほどあったので、橿原でどこか1箇所行けそうなところは…と観光案内所でチェック。
ここにも当然、ご当地キャラクターがいる。人がよくてうっかり騙されやすそうな「こだいちゃん」と「藤原京時代の元気な肉食系女子・さららちゃん」だそうである。
藤原京時代の肉食系女子……。肉、食ってたんか。鹿肉か。
地図を見て、まっさきに目についたのは万葉集の歌で有名な「天香久山」!
持統天皇の
春過ぎて 夏来たるらし 白妙の 衣ほしたり 天の香具山
の、あの天香久山が、ここにあったのだった。
気づけばここは、万葉の舞台のどまんなかなのである!
案内所の方に聞いたらパーキングに車を停めて頂上まで1時間あれば行って帰ってこられますよとのことだったので、レンタカーを借りてすぐGO。
カーナビをたよりに、藤原宮跡をさくっと通り過ぎて、ついた!…はず!
………。これ…か?
「わたしが天香久山ですよ」というオーラをすごく放っているのですけど、でも…、それにしても…、低っ!
葉山の森戸の裏の竹やぶ山の半分くらいしかない。
ほんとうにこれでいいのか?と何度もグーグルマップを確かめ、そして農家の間を縫っていくくねくねした道の先に進んでもよいものか、車がUターンできるだろうか…と無駄に悩むことしばし。昔、鎌倉の細道の奥に車で入り込んで転回できず大汗をかきながらバックで出てきた苦い記憶がよみがえりました。
青い田んぼに囲まれた道でした。すこし進むと急にくねくね曲がりくねりはじめ、側溝があってバックで戻るのはつらい道。
天香久山に、住んでいる人がたくさんいるのです!
国立公園のような場所を想像していたので、このあまりにも世俗的な風景にもびっくり。
L字型になっている狭い道路をおっかなびっくり進んでいくと、原チャリに乗ったおじさんが民家から出てきたので、「あのー、天香久山はこちらでしょうか」と尋ねてみた。
そしたらこのおじさんがとっても親切で、「神社に行くならこのさきだよ!駐車場?えーとどこかなあ、ちょっとまってね」と、その家に戻って「おかーさん」に尋ねてくれ、さらにすぐ先の神社まで先導してくれて、「いいよここに停めちゃって!」と、急に大いなる権威を発揮して、狭い道で切り替えして神社の前に車を停めるのも手伝ってくれた。
鳥居の手前に停めさせていただいた、レンタカーのヴィッツちゃん。
小さいけれど古式ゆかしい、雰囲気のあるお社でした。
このおじさんによると、この山はすべて私有地なのだそうで、宮司さんはいないそう。
神話にも出てくる赤土(その赤土で「天の八十平瓮(やそひらか)」という器をつくって神事を行い、国の無事を祈るというのが古事記にあるそうです)を採取したといわれるのは「あっちの畑んとこらしいよ」と、古事記の時代と現代がオーバーラップする案内をしてくれました。
この木の皮で香具山の雄鹿の骨を焼いて吉凶を占ったといわれる「波波迦の木」にもしめ縄がありました。
久方の天香久山このゆふべ 霞たなひく 春立つらしも
という柿本人麻呂の歌碑がありました。
大和の大きな舞台をなす場所のはずですが、お社はどこかの無人駅のようにローキーなたたずまい。
そして一歩なかにはいると、蚊が、複数、ものすごい勢いで顔面を直撃。
ご挨拶もそこそこに失礼しました。
「もうちょっと勉強してから来なさい」と持統天皇に怒られたのかもしれません…。
おじさんに話を聞いているうちに、どうやら自分は山の反対側に来てしまっているらしい、ということに気づく。
別の駐車場に行ってそこから山頂をめざすには、もう時間が足りなくなってしまいました。
おじさんにお礼を言って車でもとの道に戻る途中、「月の誕生石 見学はこちら」という手書き看板があったので、なんだか知らないけどついでに行ってみる。
民家と畑の横を通って、茂った夏草をかきわけながら山の小道を数分歩いた先に「月の石」がありました。
古事記などに出てくる場所ではありませんが、この巨石から月が生まれたという民話があるそうです。
ちょっとだけ分け入ってみた天香久山は、夏草が生い茂ってなんとなくどろーんとした感じの丘でした。
藤原京…。奈良に移る前にあった都だというくらいの認識でしたが、平城京や平安京よりもさらに広かったのだそうですね。
藤原宮跡は、ちょっと広い運動公園くらいの大きさという印象だったけど。そしてあちこちに教科書で読んだ古墳がいっぱいある。
機会があったら今度はゆっくり頂上へ上ってみたい、でも夏ではなくて春か秋がいいです。