あれは確か去年の6月頃であったか。
ある日の夜、台所で片付けものをしていると、レンジの上についている換気扇の中から、ごにょごにょと話し声がして来たのです。
もしかして頭がおかしくなったのかと一瞬思ったのですが、それきり話し声はやんだため、忘れたことにして寝てしまいました。
すると翌朝、朝ごはんを食べている時に、今度はブリキのバケツをホウキでかき回すような音がしてきたのです。
うちの換気扇は7、8メートルくらいのダクトを通って外壁についた排気口につながっています。
ベランダに出てその排気口を見てみると、なんだか怪しい草がいっぱい出ていました。
そして、キュー?ピュルピュル?というような声がするではありませんか。
バタバタする排気口の蓋をあけてみると、果たして壁の中が大騒ぎに。
スターリングの夫婦が巣を作ろうとしていたのでした。
European starling (ヨーロピアン・スターリング)、和名はムクドリですが日本のムクドリとは違い、もっと小さくて全身光沢のある緑色の綺麗な鳥です。
シェイクスピアの愛した鳥として知られていて、見た目も鳴き声も特徴的できれいだし、モノマネもできるらしい、とても賢い鳥なんですが、なにしろ繁殖力がめちゃめちゃ強い。
19世紀にシェイクスピア愛好者がヨーロッパから北アメリカに持ち込んだそうですが、以来爆発的に増え、大勢でやってきて農作物を食い荒らしてしまったり、土着の種を蹴散らして繁殖するので北米では害鳥扱い。
そんな夫婦がウチの換気扇に住み着こうとしていたのでした。
雛でも孵ってしまった日には大変なので、強制退去させた上で速攻で大家さんにテキストしてすぐに来てもらい、もう入れないように網を張ってもらいました。
そして今年。おととい、また壁の中から声がするような気がして、不安に思い、ベランダから排気口を見てみると。
また怪しい草がたくさん詰まっていました。
去年大家さんがつけてくれた網というのが、実は不織布製のぺっらぺらのものだったことが判明。
というのは、食い破られたその布がベランダにぺろっと落ちていたので露見したのです。
息子がホウキで草を掻き出すと、中に確かに誰かいる。
しかし1メートルくらいあるホウキの柄を突っ込んでみても、ゴソゴソいうものの、簡単に出てきません。
しかも低い唸り声を出して、ホウキの柄を攻撃しはじめるのです。
やっとその時点で、これはスターリングではないと気づきました。
この声は、Pさんちのタマラちゃんの機嫌の悪い時の声に似ている。
タマラちゃん。 |
そしたらしばらしくて、さらにバケツいっぱいくらいの草や苔や葉っぱのかたまりがガサガサっと出てきたかと思うと、続けて毛のかたまりが飛び出して、壁をつたって逃げていきました。
リスでした。
いやまさか。リスが。換気扇の中に住み着こうとするなんて思わなかった。
また大家さんに頼んで、今日、今度は金属の網を取り付けてもらいました。
換気扇でなければよかったんだけどね……。
露地をはさんだ裏の家には大きな柳の木があって、カラスが巣をかけています。
今は子ガラスが巣立ち間近からしく、黄色いクチバシの子が時々隣の家の屋根の上で羽根を試していたりして、カーカーかなりうるさいです。
クチバシの黄色い子どもというのは本当に、どのような種族であっても、うざい時はうざい。
このカラスの声を聞いていると、ウチの息子が2歳くらいの時を思い出します。
その家に最近越してきた若い夫婦によると、屋根の上の排水溝にはキツツキが巣をかけているのだそうです。
そしてウチのベランダの前のタウンハウスには、電線を引き込むこういう器具があるんですが、ここはもうずっと、去年からすずめアパートになっています。(上の図)
たぶん3家族くらいが入居しているらしく、いつも誰かしらこの電線に止まったり出入りしている。
この間この家族がいつになくチュンチュン大騒ぎをしてるので何かと思ってみたら、ブルージェイがこの巣の中を覗きこんでいたのでした。
そんな非常時にもすずめの声ってあんまり切羽詰まった感じがしないですね。ちゅんちゅんって。
このあたりでは庭付きの古い家がすごい勢いでどんどん取り壊されて、そのあとにちんまりとした箱のような家が4軒ずつ建っているって去年書きましたが、今まであった木や藪が減ってきて、小動物たちの居場所もだんだんと狭くなりつつあるのかもしれません。
シアトルに長く住んでいる人が集まると、「どこも混むようになったね」て話になるんですが、鳥や動物たちもそんなふうに感じているのかも。