2014/07/28

東京駅丸の内駅舎の大正モダンとKITTE  


いまさら東京日記のつづきです。

今回はなぜか縁があって、丸の内に3回くらい行きました。





東京駅丸の内駅舎の復元工事が終わってから行ったのは初めて。

ほんとにこうしてみると、壮麗な、帝国的な建物ですねー。
ドームのかたちが雅やか〜。

意匠は優雅だけれども、とにかく横幅が広い!スケールがおおきい。
端から端まで歩くと、軽くひと駅分くらいある。

この、これでもか!的なスケールは、日露戦争後の日本のイケイケ感をあらわしているのではないかとおもうのです。



前回帰国時もお向かいの新丸ビルには行ったんですが、駅舎が眺められるこのデッキは、そのときにはまだなかった。

 八重洲側にも背の高いビルがたくさんできてますねー。



復元された丸の内南口。




きれいですねー。ケーキみたい。

よく見るとまんなかに大日本帝国の紋章、菊が配されています。

鳥の紋章はもちろん、平和の象徴のハト、ではなくて、帝国の力の象徴、ワシ。

でも、このいかついワシがいっぱいいるのにもかかわらず、クリーム色と緑、梁の茶色のとりあわせがとても優雅で、全体の雰囲気はやわらかい。

軽やかで明るい、大正モダンの楽天的な空気を感じます。

東京の、というか日本の、明治から昭和へのあゆみを思わずにいられない建物です。



このお向かいの東京中央郵便局も、あたらしくKITTEというビルに変わってました。

ここは昔、八重洲の小さな広告代理店で仕事をしてた20代はじめの頃に、よくお使いに来て、書類を郵送したり切手を買ったりした懐かしい郵便局。
(ええ、郵便局へのおつかいという業務がある時代だったんですよー。切手貼って出すものがあったんですねー)

なので、この外観がそのままに保存されたのは嬉しいです。よく見ると上に高層ビルが載っているのだけど、4階までの部分はほんと昔のまんまの姿。

黒ブチの窓枠がきりっとしてかっこいいですよねー。

郵便局そのものもほとんど変わってなくて、東京駅グッズが並んでました。

郵便局だから「キッテ」って名前もかわいい。

最近の新しい名所は(「ソラマチ」とか)、日本語をもとにした国籍不明な響きの造語が多いですね。

意味不明のガイコク語の名前をつけるよりは、意味不明な日本語のほうがずっといいと思う。

ガイコク文化に憧れる時代はひとまず終わったのかなー。



キッテの中にあった、もと郵便局長室だったという展望室より、東京駅庁舎を展望。
近くでみると、ますますかわいい建物です!スケールは長大なのに、細部がほんとに繊細。

キッテのなかにはLOFTとか中川政七商店とか、足を踏み入れたらタダでは出られない魔境のようなお店がいっぱいです。おかねがいくらあっても足りません。

中川政七商店では狂ったようにふきんを買いまくってしまいました。なぜこんなに布巾が好きなのか、説明できないほどのかや布巾ラブ。



夜の丸の内付近。明治生命館もすごい建物ですねーー。

この辺は残念ながら中をじっくり見学する機会はなかったので、この次東京に行くときは明治の東京たてものツアーを決行したいです。


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2014/07/25

日本の食べもの:しらすめしと七つ森


東京めし、これもNちゃんに連れていってもらった大森の素敵定食。

大森って東京に住んでいた20数年間、記憶にある限りまるで行ったことのないエリア。降りたことのない駅だった。

でも都心からすぐだし、おいしそうな定食やさんがいっぱいあって、色々雑多で面白そうで、住みやすそうな町。

今回はグループ展中だった素敵ギャラリーにお邪魔して興奮したあとでのしらす御飯。

なによりこの看板がインパクト強烈です。主張がはっきりしている。余計な要素は一切なしで清々しい。



どちらも駿河湾からやってくる釜揚げしらすと桜海老。うまうまーー。
たっぷりの大根おろしも嬉しい。

店のおばさんが、半分くらい食べたころを見計らってだし汁のはいったヤカンをもってきてくれる。
これでお茶漬けにするのがまた、うまーーーー。

このためにまた大森に行っちゃうかもしれない。

今回の東京ではマダムランチのお供や、青山のこじゃれたヨーロッパ料理のお店にも連れてってもらったりしたんだけど、なんだかんだ一番がつんと嬉しいのはやっぱり正しいシンプルな定食だとか、焼き鳥だとか。こういうのに飢えてるんですよねー。



もう1軒、雨の夜に小学校時代の友人M嬢と逢引した新高円寺の「七つ森」。

昭和の時代からの老舗です。遠い昔、たぶん開店まもなくの頃?によく行っていた懐かしい店。

店内も食器もメニューもほとんど変わってなくて、トイレに入ったらそこも変わってなくて(和式)驚いた。


カレーセットについてくるスープのカップが、子ども用よりちっちゃいひと口サイズ!
このカップ懐かしい。キャベツのサラダのドレッシングも昭和な感じのシンプルなほっこり味。


濃い目の珈琲。ここはフクロウのお店。

それからマッチもフクロウ、昭和だから当然灰皿備え付け。ここの店でプカプカタバコをすって偉そうに眉間にしわとか寄せてた10代のワタシを後ろから思い切り親切をこめて蹴り倒してやりたい。


高円寺はなんだか古着屋さんが驚くほどたくさん出来てました。

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2014/07/24

日本のたべもの:焼き鳥!そして蕎麦女子会



ああ、なんだかんだしているうちにあっという間にもう7月も後半。日本から帰ってきて早や3週間。
シアトルはここ数日薄ら寒くて、今日なんかしとしと雨が降って気温は17度。東京を歩いていた時には文句たらたらだったあのもわっとした蒸し暑さが、懐かしいです。

記憶の彼方になってしまいそうな日本のおいしいものたち。


吉祥寺「いせや」の焼き鳥~~!

井の頭公園目の前のお店、一時帰国の際には墓参りと同じく、かならず行かねばならない場所。

畏友Nちゃんと一緒にノンアルコールビールでぷはー(この日はこのあとやりかけの仕事があったのだ)。これプラスさらにもっと食べて、2人で2000円ちょいという、リーズナブルさも感激。

Nちゃんごちそうさまでした!



バス通りの「総本店」が上にマンションをのっける大工事の後でこちらの公園店も全面改装したらしく、店のおもてはなんだかオサレにグレードアップしていたけれど、


中のインテリアはそのまんまでした。
店員さんの愛想のなさもデフォルト。でも焼き鳥うまい!


一番上の写真はバス通りの総本店。上にマンション乗ってると思えない、以前の店とほぼ同じな佇まい。大変よくできてます。




ここから公園に焼き鳥のケムリをばらまいて客をおびき寄せる手口も以前のまま。

母が府中の病院に入院してたときにも、ここの焼き鳥を買って行ったんだった。

寡黙に焼き鳥を焼き続けるお兄さんも素敵。


そして蕎麦!

これは『ヘルプ』を翻訳した女子3名グループ「ヘルプガールズ」の刊行後2年目にして初めての!オフ会という、楽しい昼食会でもありました。

豊洲の「石楽」という本格的なお蕎麦屋さんにて。

鴨南蛮、おいしかった!

でもそれ以上に、もうおひと方の翻訳者さんも加わり、翻訳女子4名で、話が尽きるはずもなく。


 真っ当な女子会らしく、近くのカフェに移動。ほんとに楽しい時間を過ごさせて頂きました。

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2014/07/17

文芸翻訳者の使命 <IJET その5>


6月にIJETで参加したセミナーの報告、続きです。

<翻訳者は何ができるか、何をすべきか> 越前 敏弥さん(文芸翻訳者)

2日目の午後に参加した、楽しみにしていた講演。越前さんはダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』の翻訳者さんで、ダン・ブラウンものをはじめミステリーの訳書をたくさん出版されています。

翻訳業20年目という越前さんは、1994年から翻訳の勉強をはじめ、翌年に初の訳書を出版。2004年の『ダ・ヴィンチ・コード』の大ヒットを機に専業になられたとのこと。

『ダ・ヴィンチ・コード』は単行本と文庫本がのべ1000万部を超えるというあり得ないほどのモンスターヒットでした。現在では文庫でも初版1万部を切ることもあると聞きますから、それはそれは気の遠くなるような数字です。そんなヒット作を持つ翻訳者として、越前さんが出版翻訳の世界を牽引する責任を感じ、後進を育てるだけにとどまらず、読者をも育てようとしている、真摯な姿勢が理解できたセミナーでした。

出版翻訳の現状は、どこでも聞くことですが、厳しいものです。(翻訳物に限らず出版全体ですが)

15年前は文庫1冊の定価が700円で印税は8%が普通で、初版発行部数は2万部。単純計算で110万円くらいの印税収入だったそうです。
現在では定価が平均900円で印税は7%、発行部数は平均12,000部となっているので、これを計算すると67万円ちょっと。

1冊を訳すのにはどうしたって平均3ヵ月はかかります。重版がかからなければその3ヵ月の作業に対する見返りは、それだけ。月割にして20万円台??

厳しい現実です。定価や印税率などの要素は翻訳者には変えることができないので、唯一、影響を持つことができる発行部数に働きかけるしかない、と、売れる部数を伸ばすため、読者獲得のために、越前さんたちは色々な努力をしているそうです。

まず、翻訳にはスキルが必要であることを伝え、一般に理解してもらうように努める。

そして、「謙虚になりすぎない」。読者がいるところでは絶対に翻訳について謙遜してはいけない、 と越前さん。

人の誤訳/悪訳を公の場で叩かない。これは業界内の足の引っ張り合いになり、全体として良くないということなのでしょう。

また、質の低下に加担しないこと、そして、多少無理をしてでも締め切りを守り、たとえばシリーズものの刊行ペースを維持して読者の期待に応える、なども信条とされているそうです。

求められるスピードは出版翻訳の世界でも加速しているようです。

版元の要望する出版日に間に合わせるために、原書で300ページある作品を5人の下訳チームに割り振り、越前さんが監訳の作業を数日間で行なって、5週間ほどで納品したというケースも紹介されていました。これもチーム翻訳で、やはり用語統一のためにはGoogle Docを使ったそうです。

ヘルプ 心がつなぐストーリー』の翻訳は、それほどの短時間ではありませんでしたが、やはり出版決定から入稿まで3ヶ月もなかったので、下訳担当が2人でそれぞれ担当した部分の訳をGoogle Doc に上げ、メイン翻訳者の栗原さんが見直すという体制で、用語はエクセルの表をGoogle Docに上げて同期しながら使っていました。懐かしいです。昼間別の仕事があったので、夜間と週末とランチブレイクまで完全に潰れた3ヵ月でしたが、登場人物と向き合い、文字を通して声を聞くのがとても楽しくて、仕事から帰ってきてコンピュータをひらくのが待ち遠しい毎日でした。
(越前さんのブログで、以前に『ヘルプ』のご紹介もしていただいたのでした。本当に嬉しい記事でした)。

さて、越前さんたちが牽引している読者獲得のための運動は、「翻訳ミステリ大賞」 の創設や、全国各地の読書会、小学生を対象にした翻訳文学の感想文コンクール、その他イベントなど。

本が「売れない」と言わないこと、も翻訳者に呼びかけているそうです。

売れない売れないと言っていても何もならないし、ますます出版全体のイメージが停滞してい見えてしまうので、ほんの少しでも本を読んでもらうための仕組みづくり、本が読みたくなる仕掛けづくりをするという姿勢。

人がものを学ぶのは「視野を広め、みずからを相対化するため」。そして翻訳という仕事は、「海外文化の受容をしやすくして、客観視、相対化の一助となること」だと言う越前さんは、ご自分の「使命」として文芸翻訳に淡々と取り組む、守護天使のような役回りを買って出ているようです。


最後に、奇しくもこの講演の日の前日に亡くなった翻訳家の東江一紀さんの業績を讃えていらっしゃいました。 「小骨のない翻訳」のお手本を示してくれ、越前さんが駆け出しの時から支えてくれた、恩師であったそうです。東江さんの築いた「翻訳道」を後進に伝えて行くのが自分の使命、と淡々と語る言葉の真剣さに心を打たれました。


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2014/07/16

翻訳者のためのウェブマーケティング <IJET その4>


6月21日~22日に開催されたIJETで参加したセミナー報告&感想の続きです。

1日目の終わりには立食パーティー式のディナーが用意されていて、ここでも世界各地から参加している日英・英日の翻訳者さんとお話しができ、 楽しかったです。

ケーキは25周年だというIJETおめでとうの飾りつき。さすが日本のケータリング、ちゃんとしたふわふわスポンジの生クリームケーキで、ついお代わりをしてしまいました。


ランチや夕食のときにちょこっと話をした米国人のワカモノたちは、JETプログラムで日本に来ている子が多かった。英語を教えるだけでなく、日本の官庁や大学で働いている子も何人か。

どうして日本語に興味を持ったの?と聞いてみると、子どもの時からANIMEが好きで、という子が半分以上でした。クールジャパン(笑)! 高校時代に日本語のクラスを取ったのが日本語を学んだ最初だったという人が、ほとんど。

いや、うちの子どもも含め、半端にバイリンガル環境で育った子たちよりも、高校や大学から日本語を学んで、日本語が好きになっちゃって大変な勉強をして身につけたという人びとのほうが、ずーっときちんとした日本語を身につけていたりするんですよね。

社内通訳・翻訳者として米国中西部の日本企業で働いているアリソンさんという若い白人女性は、日本語も英語もアナウンサーのようにとても綺麗な発音でしたが、東京オリンピックの年までにフリーになって通訳で来たい、と言ってました。きっと彼女なら実力を磨いて成功するに違いない。楽しみです。



<フリー翻訳者のためのウェブマーケティング> 平原憲道さん(企業家、RDシステムズ・ジャパン 代表)


さて2日目のプログラムで参加したのは、ウェブサイト運営に関する講座で、講師はウェブサイト開発などを専門とする平原さん。

独自サイトを持つ利点はたくさんあるけれど、個人サイトが失敗する要因の大半は、更新が進まないことが原因。そして更新が進まない原因は、多忙であること、作業が複雑であること、技術の利用が難しい、という3点だ、といいます。

ではどうすれば良いか? 更新を超簡単にする秘密兵器が、CMS(Content Management Systems)。

何が優れているかというと、コンテンツ管理とパブリッシュ(書き出し)がハッキリと分かれた構造になっているので、そのままモバイル版にもできるし、サーバーやドメインの引っ越しの時にもコンテンツをまとめてさっと別のプラットフォームに載せることができる、更新も簡単、と良いことずくめ。

そんなに便利ならすぐ使おう、とメモを取っていましたら、CMSってWordpressDrupal のことだった。 そ、それは…もう使ってました… orz...。  別ブロクの自己ドメインのサイトはワードプレスを使用中です。全然使いこなせてないけど。しかも更新がめっちゃ滞ってるけど… (;・∀・)。

そしてDrupalは、6年くらい前に、前いた会社のウェブサイト作成の時にデザイナーに勧められてちょっと使ってみたのでした。


Wordpress、Drupal と並ぶ第3のCMS、Joomla というのは初めて聞きました。おもにEコマースのサイトでよく使われているそうです。


ワードプレス、もっと勉強しよう…いやホントに。と肩を落とした講座でした。


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2014/07/14

翻訳者チームで仕事をするという可能性 <IJET その3>


6月21日~22日に開催されたIJETで参加したセミナー報告&感想の続きです。

 <チームアプローチ101:今日からやってみよう!ソースクライアントから受注しチームで「良い」仕事をするための7つのヒント> 小林一紀さん (翻訳者、有限会社エコネットワークス代表)

これは1日目の最後のコマのセミナーでした。

一昨年サンディエゴで行なわれたATA(アメリカ翻訳者協会)のカンファレンスで参加したセミナーの1つに、アメリカ人とドイツ人の英独翻訳者コンビによるプレゼンテーションがありました。

その2人の翻訳者はそれぞれ英>独、独>英の翻訳とチェックを分担しあって、翻訳だけでなくチェック・編集校正も込みの「完成品」として納品する体制を作っているという内容でした。信頼できるチェッカーと常にコンビを組むことで品質も管理でき、不明点を互いにすぐ問い合わせることもできるので安定したクオリティを提供できるという良いことずくめの内容で、たしかにこれができたら理想かも、と思って聞き、それ以来、フリーの翻訳者同士でチームが組めたらいいなと漠然と思っていました。

 今回の小林さんのプレゼンテーションは、まさにそうした理想をかなりの規模で実践しているケースの紹介でした。

小林さんのチーム、「エコネットワークス」にはのべ100名の翻訳者や各分野のフリーランサーが登録し、そのうち常時30名ほどが稼働、年間80万字/語を処理しているそうです。 一点に利益を集約する「会社」ではなく、最初から協同作業のみを目的とする「チーム」を作るというスタイル。

翻訳者にとってはエージェント経由よりもソースクライアントから直接受注のほうが断然単価が高くなり条件が良くなりますが、1人ではこなせる量も得意分野も限られている。それをチームワークでカバーするというモデルです。

実践の役割分担では、仕事のできる人に負担が集中してしまう、苦手な作業を振ってしまったために全体としてロスが出る、などのリスクを避け、徹底的に互いに負担を減らしあい、それぞれが得意な作業を組み合わせて補いあうことを目指しているそうです。

そのために必要なのは信頼とコミュニケーション。この時間帯はできる、このくらいできる、というキャパシティやライフスタイルのプロフィールを共有しあっているといいます。

報酬は字数(ワード数)あたりの基本レートに加えて、プロジェクトのマネージメントなど翻訳作業以外の作業に対してはプロジェクト終了後に「付加価値ファンド」という形で還元する形をとっているそうです。また、クライアントからのフィードバックも共有しているとのこと。

コミュニケーションに使っているツールは特別なものではなく、進捗状況を毎日メールで連絡しあうほか、進行中の用語統一やグロッサリーなどは、Google Document、Skype、Drop Boxで共有。

セキュリティ上格別の注意が必要なクライアントの書類は有料のアマゾンのクラウドを使用しているそうです。

10万字の報告書英訳を12名のチームで数週間で行なうという離れ業も、この体制で完遂できたとのこと。専任コーディネーターがいる翻訳エージェント以上の処理能力。凄いです。


私も、これまでに大小様々なプロジェクトで翻訳者さんと協同作業をさせて頂いたことがあり、その際に使ったのもやはりGoogle Document とDrop Box、それからTradosでした。

エージェントから翻訳だけ、チェックだけ、と縦割りで仕事を振られて、自分の担当した翻訳にどうチェックが入ったのか、あるいは編集した翻訳が最終的にどのように納品されたのかが見えないと歯がゆい思いをすることが多々ありますが、フリーの翻訳者さんと同じ立場で訳文をチェックしあったり、チェッカーと翻訳者が直接情報をやりとりできると、そのプロジェクトへの意識や責任感も強くなりますし、個々の訳語だけでなく訳文理解についても細かな情報を共有でき、品質面でより良い結果が出るように感じます。

エージェントのコーディネーターは忙しいので、フィードバックは余程のことがないと来ないほうが普通です。最終クライアントともっと密にコミュニケーションが取れればより細かに要望を汲んだ翻訳ができるのに、と残念な思いをすることもしばしば。もっと言えば、どのようなメッセージを誰に向けて発したいのかを直接最終クライアントの担当者に確認して、その表現の方法についても提言ができたら良いのに、と思うこともあります。

 小林さんのチームではクライアントとも単なる発注/受注の関係ではなく、対等なパートナー関係を目指しており、チームのキャパシティをクライアントと共有したりもしているそうで、大変魅力的なモデルです。

お話を聞いていて感じたのは、チーム内、そしてクライアントに対しても大前提としてオープンなコミュニケーションへの姿勢と互いの信頼がなければならないということでした。コミュニケーションに対する姿勢をチーム全体で共有するためのシステムづくり、ということにも力を注いでいらっしゃるのが伝わってきます。


こうした有機的なネットワークによる仕事の仕方に、それこそ翻訳者サバイバルのための可能性がかかっているのではないかと思わされました。


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2014/07/13

技術的特異点と翻訳者のサバイバル <IJET その2>



IJETで参加したセミナーのメモ、つづきです。

<世界で生き残るために翻訳者がとるべきコラボレーション戦略> 齋藤 ウィリアム 浩幸さん

1日目3コマ目は、日本人の両親を持ってアメリカで生まれ育ち、ごく若い頃からエンジニアとして大成功した斎藤ウイリアム浩幸さんのセミナー。日本語での講演でした。

指紋認証システムを開発して成功し、その会社をマイクロソフトに売却した後は後進のための環境作りを目指して日本に拠点を移し、日本国のIT戦略コンサルタントとして活躍中という華々しい経歴のハイパーエンジニア。講演の後でいただいた名刺は内閣府本府参与、科学技術・IT戦略担当というものでした。

直接翻訳とは関係ない部分で、大変にエキサイティングな内容のセミナーでした。

話の中核は技術革新がいかに急速に進んでいるかということ。たとえば、現在では市場に行き渡っているスマートフォン1台のほうが、10年前のホワイトハウスのコンピュータの処理速度よりも速いとか。

めくるめく技術の世界を吉本の芸人さんさながらのテンポで次々に紹介してくれるので、まるでジェットコースターに乗っているような気分にさせられるプレゼンテーションでした。

トランジスタ、通信、ストレージ、センサーはいずれ「タダ」になる技術であること、ホットなトピックはやはり、ビッグデータ、ソーシャルネットワーク、モバイル(ウェアブル)技術、センサー応用、サイバーセキュリテイ、3Dプリンター、「モノのインターネット」であること、そして技術的特異点(シンギュラリティ)についての予測など。

人工知能が人間の脳の能力と同等になる時期というのは、早い予測では2030年、あとわずか15年。さらに、1台のコンピュータが地球上の全人類の脳を合わせた以上の能力を持つようになるのが2045年だという予測もあるそうです。この20年間のコンピュータの普及、インターネットの出現と普及、技術上の「ドッグイヤー」の加速を考えれば、充分に可能性があることと納得できます。

それは「もしかしたら」ではなく、遅かれ早かれ確実に、21世紀中に実現するだろう技術。

その時いったいどんな社会が出現するのか、誰にも見当がつかない、と齋藤さんはいいます。これほど最先端を知りつくしている人が、わからないと。

ヒトよりも賢くなったその時、コンピュータは人を幸せにするのか不幸にするのか。富の偏在を加速させるのか、是正するのか。現在ある仕事のほとんどが不要になるとしたら経済はどうなってしまうのか。社会の変化はスムースに起きるのか、あるいは世界戦争のような災厄的なイベントの引き金になるのか。

生きている間にとてつもない変化を見ることになりそうだという予感が、このセミナーを聞いていてますます強くなりました。

 先日のマイクロソフトの「スカイプ翻訳」の発表の際にも感じたのですが、翻訳業界では意外なほど技術に対する危機感が少ないようです。技術的特異点を待つまでもなく、言語サービスが職業として成り立つのはあと10年か15年くらいじゃないかと、私はごく漠然と感じます。

たしかに現行の機械翻訳はまだ実用レベルではなくて編集に余計な手間がかかるくらいですが、精度が上がっていくスピードは現在想像できる以上に早くなる気がするし、自動通訳機械みたいなものは恐らく10年くらいでかなり普及レベルになるんではないかという感じがします。

だから正直なところ、通訳翻訳業はこれからの若い人に薦められる職業ではないと感じています。

村岡花子さんが活躍した20世紀は翻訳の時代だったけれど、21世紀は人工知能の時代。情報のやりとりももっと速く、データはもっと膨大になっていく。

21世紀後半には人間という存在の捉え方そのものが変わるだろうなと思います。

そこへの移行がどのくらいゆるやかに、または急激に進むのか、固唾をのんで見守るしかありません。

 で、そんな世界で「生き残るために翻訳者がとるべき戦略」はというと、結局はテクノロジーの動向から目を離さずに取り入れながら、(今のところ)ヒトの力でしかできない事に能力を特化していくこと、でしかない、というのが結論のようです。

ルーティン・ワークやマニュアルでこなせる単純な仕事は加速度的に消滅していく世の中で、最後までヒトでなければできない仕事は何か。市場に何が提供できるか。

それを常に点検していかねばならない。市場のルールと需要は年ごと、いや日ごとに変わっていくでしょう。

これはどの業界でも同様なのだと思いますが、きわめて深刻で難しい課題です。

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