Don't Worry, He Won't Get Far on Foot という映画を観てきました。
シアトルではUptown Cinemaその他で上映中。
監督は『グッド・ウィル・ハンティング』のガス・ヴァン・サント。
主演はホアキン・フェニックス。
泥酔して交通事故に遭い四肢麻痺になってもお酒をやめられなかったアル中男が、酒をやめ、アルコホーリクス・アノニマス(AA)のグループに出会って、マンガ家になるというおはなし。
めっちゃ地味な話やん!と思うでしょう。
わたしも観る前はちょっと退屈な映画を予期してたのだけど、これがぜんぜん退屈しなかった。
俳優さんがむちゃくちゃいい。
主演のホアキンもいいけど、ジャック・ブラックとジョナ・ヒルもすごいし、セリフを言わない人もめっちゃ説得力があるの、あれは一体なんなんでしょう。監督さんの力量なのか役者がみんなうますぎるのか。
アルコホーリクス・アノニマスは、カート・ヴォネガットがインタビューで
「これはとくにすぐれている、とお考えの宗教がありますか」と聞かれて
「アルコホーリクス・アノニマスです。この会は血縁関係にとても近い拡大家族を会員に与えてくれます。あらゆる会員が同じ破滅的な体験を持っているからです。」と答えていたのが強烈に印象的だった。
(「自己変革は可能か」プレイボーイ・インタビュー1973年7月、『ヴォネガット、大いに語る』飛田茂雄訳、サンリオ文庫)
ヴォネガットはつづけて
「そしてアルコホーリクス・アノニマスのすこぶるおもしろい特徴のひとつは、大酒飲みでない大勢の人が加入していることです。彼らがアル中患者のふりをするのは、社会的、精神的な恩恵がそれだけ大きいからです」
とも言っている。これを読んだ当時AAのことも全く知らなくて、何だそれ?と思ったのでよく覚えているんだけど、この映画はそれに対する、充分すぎる回答だった。
アルコホーリクス・アノニマスは日本にも組織があるようで、ウェブサイトに「12ステップ」の日本語版があった。
自分が無力であることを認め「意志と生き方を、自分なりに理解した神の配慮にゆだねる決心を」し、あやまちを認め、自分が傷つけた人に許しを求め、「祈りと黙想を通して、自分なりに理解した神との意識的な触れ合いを深め、神の意志を知ることと、それを実践する力だけを求め」るというのが、その骨子。
委ねること、限界とあやまちを認めること、より良い価値を実践する力を求め続けること。
なるほど、と思った。
この映画が描いている、人を変革する力、人を不幸から救う力、というのは宗教の最善の部分だと思うし、ドグマに陥らず個人の救いになる宗教のかたちがあるならAAの実践しているこれがそうなのかもしれないとまったく本気で思う。
(アルコホーリクス・アノニマスは宗教を名乗ってるわけじゃありません、念のため!)
サンリオ文庫もなくなってしまった今、30年を経てやっとわかりました。