シアトル中央図書館が新装オープンから10周年を迎えたそうです。
シアトルで一番目立つ建物の座をEMPと競っているこのカッコ良い図書館を設計したのは、 オランダの建築家、レム・コールハースさんとシアトル出身のジョシュア・プリンス=ラマスさん。
フランク・ゲーリーさんの、のたうつ有機物のようなEMPとは対照的なカクカクした大胆な多面体デザインが目を惹きます。
シアトルに一番最初にあそびに来た時にも、コールハース・ファンのCTちゃんに連れられてまずここを見に来たのでした。
向かいのビルの前にある、オーガニックな形のヘンリー・ムーア彫刻とも好対照です。
入り口のブックポストで本を返却すると、このベルトコンベアに乗ってカウンターの後ろに運ばれる仕掛け。レトロな工場っぽくて素敵。
チェックインカウンターの前の床には世界各国の文字の活字がデザインされています。日本の文字もあり!
チェックアウトはもうどこの図書館もセルフサービスになってしまいましたね。
こちらは1階上がった6th Avenue 側のロビー。坂道に建っているので1階と3階に玄関があります。
3階のほうのロビーにはシアトル地元のショコラ屋さんChocolati のスタンドもあって、濃厚チョコレートやエスプレッソを飲みながらまったりできます。
その隣には図書館グッズや地元アーティストの作品などがあるギフトショップもあって、けっこう楽しい。
どちらも営業は午後5時まで、Chocolati のスタンドは日曜のみ午後4時までです。
上階へはこのドラマチックな黄色いエスカレーターで。
エスカレーターの途中にはアートの展示。
上がると5階の Mixing Chamber という広いホール。ここは備え付けのPCが無料で使えるところ。
オサレ空間ですが、使っているのはダウンタウンに居住しながらPCを所持していない人びと、すなわちホームレスの人が結構多かったりします。
誰にでも開かれた空間であることを目指すお洒落な図書館ですが、ダウンタウンの真ん中に位置するだけに、住宅街にある図書館とは違うセキュリティ面の葛藤が伺えます。
たとえばトイレの壁には「ハウスルール」として、「麻薬、アルコール、煙草の使用の禁止/ 身体を洗う、ひげを剃る、髪を切るなどの行為の禁止/洗濯および着替えの禁止/睡眠やみだらな行為の禁止」が貼りだされてます! つまりそう書いておかないとそういう行為があとをたたないということ。
私もちょうどこの階の ↑ 左側の書架の間で、「みだらな行為」を目撃してしまったことがありましたΣ(゚Д゚|||)
警察官が見まわっているし、酒気を帯びていたり見るからにヤバい人はすぐつまみ出されるのですが、特に上のほうの階のひと気のないところでは、女性一人でのんびり読書はお勧めできません。
6階から9階は大きな螺旋を描いて書架が並ぶ階で、「スパイラル」と呼ばれてます。
オズの国行きみたいな黄色いエスカレーターを乗り継いでいくと、最上階のリーディングルーム。(ここは明るくて見通しが良く、いつも比較的人が多いので安全です)
ここには歴史的資料を保存している「シアトル・ルーム」という資料室があって、だれでも閲覧することができます。
資料室の開いている時間はスタッフが常駐していて、私も何度か調べ物に行ったのですが、これこれこういうのを探してるんだけど、と尋ねると本当に親切にいろいろと助言してくれました。
自然光をたくさん取り入れた贅沢なリーディングルームは、のんびり仕事や勉強ができるスペース。
もちろん全館で無料WiFiが使えます。無料WiFiはシアトル市内の図書館27館どこでも共通。
この中央図書館が建ったころのシアトルはきっと最高に景気が良かったのじゃないかと思います。
最近は市も予算不足で、2年前だったかには、市内の図書館のほとんどが営業時間をカットされていました。
しかしすごいなと思うのは、Seattle Public Library Foundation という財団が活発に活動していて、毎年かなりの寄付を集めていること。
今年の春のキャンペーンでは1200名ほどの寄付者から$204,000を集めたとお知らせが来てました。この寄付金は書籍やコンピュータの購入、オンラインシステム整備、講演会やイベントの企画運営、移民のためのさまざまなプログラム運営などに使われるそうです。
1階にある「マイクロソフト・オーディトリウム」では毎週のように無料のコンサートや著者を招いての講演などが行われてます。
私の敬愛するSF作家、アーシュラ・K・ル=グウィンさん(おとなりのオレゴン在住)も年に1回くらいの割合でここの図書館に来て講演してるんですが、いっつもなにかしら避けられない用事が出来て、まだ一度も行けてません。今度こそ~。
人口63万人の都市で図書館が27もあって、そして春のキャンペーンで2000万円がさくっと集まってしまうなんて、シアトルの人は図書館がほんとに好きなんですね。
Seattle Public Library Foundationのサイトでは、遺言書で財産を図書館に寄付するようにしておいては、とか、万一不慮に亡くなった時には積み立てた年金の受け取り人が図書館基金になるようにしておいてはいかがでしょう、という提案もされてて、財産ができたら一定の寄付をするという文化が浸透してるなあと思わされます。
ちなみに東京都杉並区は人口約55万人で、図書館の数は13館。杉並区の図書館は優秀だと思ってましたが、その2倍の数があるとは。(土地の面積ではシアトル市は杉並区の約10倍ありますが)
ホノルルに住んでいた時にがっくりしたことの1つは、図書館があまりにも早く閉まってしまうことでした。ダウンタウンの中央図書館は気持ちの良い中庭のあるクラシックな建物で好きだったのですが、なんと午後5時閉館。しかも日曜休館。
ていうかオアフ島の図書館はすべて5時閉館で、日曜日に開いている図書館が島中で当時1箇所しかなくて、週末に子どもの宿題のために図書館に連れて行って資料を探さねばならないのに、とても困ったものでした。
シアトルの図書館は中央図書館だけでなく小さな図書館でも平日午後8時まで開いているし、週末も土日ともオープンしてます。でなければ勤め人は行けませんよね。
エレベーターの中もエスカレーターとお揃いの蛍光イエロー。
そしてミーティングルームの ある4階は、真っ赤! SF映画みたいな不思議空間。
このウルトラモダンな建物には好き嫌いがあるようですが、あまり好きではないという人も、ワールドクラスの建築家によるワールドクラスの図書館があるのはシアトルの誇り、という点では一致してます。
市で一番立派な建物が市庁舎とか裁判所なんかじゃなくて、誰もが気軽に日常使える図書館っていうところが良いではないですか。
ギフトショップにはこんなポストカードもありますよ!
映画『アメリ』に出てきた、旅をするノームが黄色いエスカレーターに乗ってる図。
シアトルに住んでてまだ中央図書館に行ったことないという方、これからシアトルに行く方、ぜひぜひこの建物を体験してみてください。 個人的には、スペースニードルよりずっと面白い観光ポイントだと思います。
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