2020/06/02

AM I NEXT? とブラックアウトの火曜日


日曜日のボストンのデモはおおむね平和に終わったようで、こちらの夕方、息子からテキストが入ってきてほっとした。

日曜の午後はやっぱり心配であんまり何も手につかず、部屋の片づけをしながら、ネットでボストンのテレビ局の中継をずっとつけっぱなしにしていました。便利な時代になった。

道路を埋めつくした何千人もの群集が整然と行進していました。


ABCより

でもこの後、夜になってからやはり暴動があったそうで、うちの青年の住んでいる近くのニューベリー・ストリートではブティックのガラスが割られて店内が荒らされたりしていたそうで、州兵が出動したそうです。


うちの青年のインスタグラムの投稿より。

翌朝、ガラスが散乱している通りを通ってトレーダー・ジョーズに食料品を買いにいく間、警官と州兵がおおぜいいて、ジロジロ見られたという。


おなじくインスタの投稿より。「AM I NEXT?」というこの文字は自分でパーカーに書いて、日曜日のデモに行くときに着ていったそうです。

次に警察の蛮行の犠牲者になるのは自分か?という意味です。

「自分のような見た目の者にとってはそこに警官がいることは安全のサインじゃないし、州兵の存在は、まんま、脅威だ」という書き込みを読んで、お母さんはまた涙腺崩壊してしまいました。

これを被害妄想とか誇張だと思う人がいるだろうことは想像できるけれど、ほんとうに、肌の色が違って一見「怖く見える」というだけで、ちょっとした成り行きでブタ箱に放り込まれたり、過剰な暴力を受けたり、最悪の場合には死んでしまったりというケースがぜんぜん珍しくない。そのことを今まで社会全体が見過ごしてきてしまった、というのが、今回の背景にある事実です。

それを認めようとしない、または正当化しようとする層と、痛みを共有しようとする層が、ふたつに分かれています。



TIMEより

そしてやはり、この先週からの動きに対して、まったく予想を裏切らないというか、予想を上回る発言と行動を繰り返している、米国大統領。

ホワイトハウス前で抗議をしている人たちに対しては

Big crowd, professionally organized, but nobody came close to breaching the fence. If they had they would have been greeted with the most vicious dogs, and most ominous weapons,
(大勢集まったな、プロが組織してるんだな。でも誰もフェンスには近寄らないぜ。もし近づいたらすごく凶暴な犬がお出迎えするからな。それに最強に怖い武器もな)」

と、実は怖がってるのをまる出しの小学校のガキ大将みたいな脅しをかける一方で、きのうの月曜日には州知事を集めたビデオ会議で

「You have to dominate or you'll look like a bunch of jerks, you have to arrest and try people」
(おまえら、群集を制圧しないとバカの群れに見えるぞ。逮捕して裁判にかけるんだ)

と、軍を積極的につかって抗議の群集を「制圧」するように知事にハッパをかけた。これには多くの知事が、何言ってんだ、黙ってろと反発していたけれど。

大統領はもしかして、この国を滅亡させるシナリオで動いているのかもしれない、そのためにわざと私たちを激怒させ、自分の信者たちにヘイトを焚き付けて、国を分割しようとしてるのかもしれない、という壮大な陰謀論が頭をかすめるようになりました。

そしてきのう、 ホワイトハウス前で平和に抗議活動をしていた群集に催涙弾を打ち込んだあと、お向かいの教会に側近といっしょにとことこ歩いていって聖書を片手に写真撮影をして帰ってくるというプレゼンテーションをして、その様子を得意げに音楽つきの動画にしてTwitterに投稿した大統領。

教会の一部は週末の暴動で被害をうけて板張りになっていました。

その前で聖書を持って「オレは神と教会を守る英雄的指導者だ」とでもアピールしたかったのだろうけれど、これが完全に裏目に出て、その動画にはさっそく無数のパロディが出回るわ、聖職者にも「教会を自分の宣伝に使うな」「写真撮っただけでちょっとの祈りさえしなかった」と叱られるわ、写真撮影に先立って自分が安全に歩けるように無抵抗の群集に催涙弾を打ち込んだことで大ブーイングを受けています。

しかし大統領よりももっともっと理解できないのは、その追随者のほうです。

サウスカロライナ州の知事なんか、大統領が主張している<このプロテストはプロによって組織されたもの>>というあいかわらずの陰謀論を信じているらしいし。

トランプ信者にはおそらく、抗議のデモに参加している人たちの痛みがまったく理解できないししたくもないのだろうと思うと、それが一番こたえる。どうしたらいいんだろう。

不支持率がこの段階でもまだ54%だということは、半数以上の国民はこの人でいいと思っているということ。その事実に深く傷ついてしまいます。




インスタグラムでパラパラと見ていた感想に過ぎないのだけれど、今回のことは、これまで以上に世論をハッキリと分ける分水嶺になった気がします。

もうすでにアメリカは分断されていたけれど、今回でそれがさらにハッキリした。

企業も個人も一人ひとりが、ブラックコミュニティの怒りに連帯するのかしないのか、理解するのかしないのか、立場をはっきりさせなければならなくなっています。そして言うだけじゃなく、実際に何をするかも問われている。

NIKEがいちはやく、「For Once, Don't Do it」(この国で問題が何も起きていないフリをするな、見てみぬフリをするな)というメッセージCMを出して話題になったけれど、これも一部からは「カッコつけたCMで言うだけじゃなくて、実際には何してんの。あんたもそういう体制を温存してきた一部でしょ」と批判を浴びてます。
 
インスタグラムの公式アカウントも月曜日にアイコンをブラックに変えて、「レイシズムに対して立ち上がり、ブラックコミュニティとともにあります」と宣言し、「Facebook社は差別を終わらせるために1,000万ドルを使うことを誓約します」と投稿していました。




家具のハーマンミラーまで、「BlackLivesMatter」の投稿をして「私たちはブラックコミュニティとともに連帯し、レイシズム、警察による蛮行、暴力に立ち向かいます」と宣言していました。

これほどアメリカの社会が大きく動揺したのは、同時多発テロ以来だと思う。
でもあの時は外部から来た攻撃への反応だった。

今回は、社会にある矛盾を問題としてとらえるのかどうか、それに対してNOを言うのかどうか、というところで分断が起きている。
この視点の違いがこれほどハッキリ、激しく対立して国全体が揺れているのは、1960年代以来かもしれません。

コロナのせいですでに生活がグラグラしていたところに、こんな展開の一撃が来るとは思ってもみなかったけれど、ここで問題になっているのは何一つあたらしいことではなく、それこそキング牧師が50年以上も前に言っていたとおり、アメリカ社会が先送りしてきたこと。わたし自身も、見ないふりをしてきたし今まで特に何もしてなかった。

コロナ禍とトランプが、それをますますよく見えるようにしてくれた、ともいえる。

もちろん、この動きがすぐに建設的なリフォームに直結するほど話は簡単ではないだろうし、トランプが売り出そうとしている陰謀論みたいなスカスカのカス話だけではなく、もっともっと陰湿な妨害が入るだろうし、内輪もめをあおる動きもどんどん出てくると思います。

なにより、キング牧師のようなリーダーのいない今、この怒りが革マル派みたいに崩壊していくのを見るのは何よりもつらい。

それでも、若い世代の冷静な行動力と、つながる力と、純粋な意欲に期待したい。今の「Z」世代は、エゴを介在させないで政治ができる世代になるのではないかなんて期待も少しだけしているのです。買いかぶりすぎかもしれませんが、その壮大な希望をもって祈っています。

トランプ政治がいくところまでいって、ウミを出し尽くして、その反動で透明感のあるものが出てきてくれるといいな。

きょうはインスタグラムのアカウントがみんな真っ黒になっています。

暴力でなく、ほんとうの対話が始まるように。理解にもとづいた社会を築ける日が来るように。
ひきつづき諸天善神に祈る。


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