2020/05/13

名前入りの小切手がとどいた


Happy母の日でした!

いやーうるさい週末だった。近所中がワヤワヤしてるし、上の階の住人は3日連続で昼からどんちゃん騒ぐし。カフェも開いてないし公園も混んでるから逃げ場がない。しかたないので車で近所の静かな住宅街に逃げて、知らない人の家の前に車をとめてパソコン開いてました。不審者そのもの。張り込みか。

ボストンの息子とフェイスタイムで話して、ルイジアナのもと義母とメッセージやりとりして、年季のはいったママ友たちとLINEでハッピー母の日スタンプを交換しただけだけど、これだけでもつながってることに安心できるってすごい。ビバ・テクノロジーです。
普段はまめ蔵しか話し相手がいない真正ひきこもりですのでね。コロナ関係なく。

週末に入る前に『PLANDEMIC』というビデオが大流行していたと聞いていくつか記事を読んでみたら面白かったのと、銃規制反対派とワクチン反対派の連合ってなんだろうとすごく興味を惹かれたので、デジタルクリエイターズに書かせていただきました。
よろしかったらご笑覧くださいませ。こちらに転載してます

結局「アンチ」って攻撃に終始するだけの力にすぎないなんだな、というのはごく当たり前すぎる結論だけど、こうやって並べてみて初めてわかった気がする。
そして攻撃は気分がよいものなのだなー。 困ったことですね。


ところで先週、ドナルドの名前入り小切手がとどきました。
自由の女神のよこに「Economic Impact Payment」と、ドナルドの名前と肩書きが入ってます。この余計な印字のために発送がいくらか遅れたという報道もあったね。

IRSのサイトに行ってしかるべき時に銀行口座の情報を入力すれば振り込みになったらしいんだけど、ほったらかしにしていたら小切手でやってきた。
振り込みはスマートフォンでできるので、これは後の世の記念にとっておきましょう。

かなり前だけど、なにかの拍子にトランプ支持者のフェイスブックページを見たら、この Economic Impact Paymentについて「大統領を支持しない人のところには送られなければいいのに」というような内容のことを真面目に書いてる人がいて、しかもいいね!がいっぱいついていて、知らない星に来ちゃった人のような気持ちになりました。うーんどうしたらいいんだろう。



同日に、にゃを美先生からのアマビエちゃんのステッカーもやって来た! やっぱりいつもよりゆっくりと、2週間かけて海を越えて…ではなくて飛行機待ちをしてたのだろうけど、長旅をしてきてくれました。さっそくCTちゃんちにゴーヤと引き換えにおすそ分け。




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2020/05/10

日本がまた遠くなる


真夏のような陽気で、町の人々は浮かれてます。

うちの上の階の住人が2日連続でパーティーをおこなっていて大変にうるさい。ぜったい5人以上いるでしょって物音。んもー。
 



土曜も日曜も、気温はホノルルと同じだった!
(なぜかシアトルとボストンだけ英語表示になる不思議)

家の外に一歩出たとたんにもあっとした熱気に包まれて、ああ〜ここはハワイ〜!と錯覚する、しあわせな週末でした。



郵便局に行ったら、窓口がアクリル板で覆われてました。



窓口の人が作業をしている間、いつもどおりカウンターにはりついていたら「下がって」と言われ、床を見ると、カウンターから50センチくらい離れたところにマークがついていました。はっ、失礼しました。かなり万全の体制です。

日本行きの郵便は、通常ならば普通のエアメイルでも5日から1週間で届くのに、今は「2週間から3週間」かかるそうです。
飛行機の便数が減っているからだって。

日本がまた少し遠くなった気がして切なかった。

そうそう、あの大統領は、USPS(郵便サービス)に介入しようとしてトップを送り込んでいます。 言う通りにしないとコロナの補助金を出さないという凶暴な手段を取り、郵便料金値上げを強要する見込み。公共と名前がつくものは任期中にすべて破壊するのが自分の使命だと思っているのかもしれない。

切手一枚で全国どこでもはがきが届く時代はもうすぐ終わるのかもしれません。




昨年末、こずも食堂主人のかなぼんさんに日本から買ってきてもらった秘蔵の米麹茶。
秋田の麹屋さんが作っているものだそうです。

お米と麹だけでできていて、キャラメルのような香ばしさとふんわりした甘みがあってむっちゃくちゃおいしい。日本の方、これはおすすめですぜ。ちびちび大切に飲んでます。


日本でおいしい新茶が飲みたいなー。



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2020/05/08

段階的オープン、最初の週末



朝から快晴で夏の匂いがする1日でした。
気温は18度C。きょうは半袖でもだいじょうぶ。5月というより、7月の独立記念日のあたりみたいな陽気。

近所の小公園の芝生にも、寝転んだり椅子をもってきてごはんをたべている人がたくさん。大集団はいなくて、みなそれなりにディスタンスを保ってはいましたが。
なんだか今日は、なんのお祭り? みたいに、街中ソワソワした感じです。



5日に発表されたワシントン州の「段階的アプローチ」をおさらいしてみます。

このまま感染者数の増加が起こらなければ、最低3週間をあけて少しずつ経済活動を再起動していこうという計画です。

【フェーズ1】5月5日〜26日?
  • レクリエーションは、ハンティング、釣り、ゴルフ、ボート、ハイキングが解禁。
  •  州立公園がオープン。
  •  集会は引き続き禁止。車での集会(郊外ではドライブスルー式の礼拝を実施している教会があるようです)は1家族1台までOK。
  • 「不要不急」の旅行は引き続き禁止。 
  • 営業再開:ランドスケープ、自動車販売、小売(店外での受け渡しのみ)、洗車、ペットの散歩代行。
【フェーズ2】5月27日〜?
  • キャンプなども含むアウトドアレクリエーションがすべて解禁。ただし5名以下に限る。
  •  同じ家に同居していない人との集会は、週に1度、5名まで解禁。
  • 「家の近く」での不要不急の旅行が許可。
  •  営業再開:製造業、新規の工事、メイドサービスやベビーシッターなどの訪問サービス、小売店(条件つき)、不動産、オフィスでの勤務(テレワークは引き続き推奨)、美容院・理髪店、ネイルサロン、ハウスクリーニング、レストラン(店内での飲食は定員の半分の人数まで、ひとつのテーブルには最大5名まで)。
      
 【フェーズ3】6月17日〜?
  • 50名までのアウトドア・スポーツ再開。
  • プールなどの施設再開、ただし入場は収容定員の半分まで。
  • 50名までの集会が解禁。
  • 不要不急の旅行が解禁。
  • レストランは定員の75%まで店内で飲食可。ひとつのテーブルは最大10名まで。
  • 営業再開:バー(定員の25%まで)、フィットネスクラブ(定員の50%まで)、映画館(定員の50%まで)、政府諸機関(テレワークは引き続き推奨)、図書館、美術館・博物館、その他50名以上が集まるイベントやクラブ以外のすべての事業。

 【フェーズ4】7月8日〜?
  • すべてのレクリエーションが再開。
  • 50名以上の集会が再開。
  • ナイトクラブ、コンサート、大規模スポーツイベントが再開。
  • すべての事業所で通常通りの業務再開、ただし「身体的距離と手洗いなどの習慣は継続」。




今日は午前中近くまで車ででかけたら、洗車場にも長い列が出来ていた。交通量もかなり増えてました。

友人M太郎は、さっそく近所でゴルフのラウンドをしてきたそうです。でもカートは使えないのでクラブを担いで歩いたので背中が痛いとこぼしています。

なんとはなしに戦勝ムードのようなものが漂っていてちょっと逆に憂鬱になってしまうのだけど、順調に再開できるのかなー。


1919年のスペイン風邪流行時は、第2波のほうが被害が激増したそうですが。

秋口にまた感染爆発があって再度ロックダウンとなったら、今度はもっとたくさん不満を持つ人が多くなりそうだし、失業保険ももう財源が保たないよねー。

いやもっと最悪なシナリオは、秋口までに経済がひとまず持ち直し、トランプが自分のおかげでアメリカはグレートに救われた!と宣伝しまくって再選される>とたんにコロナ再流行で経済大暴落…という順番………。くらーい。どんな『ブラック・ミラー』のエピソードよりも怖いです。

暗くなっても仕方ないので、とりあえず日にあたってお茶でも飲もう。


フジベーカリーで日本式食パンをゲットしたので、卵サンドをつくりました。たまに無性に食べたくなる卵サンド。辛子をたっぷり。


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2020/05/06

シアトルのお宝を守る


カリフォルニア・ポピーが咲き始めました。
これは園芸種だと思っていたら、西海岸の原生種なのだそうで、カリフォルニアでは野原一面この花が咲きまくるところもあるそうです。かわいい花だけど、視界一面このオレンジはちょっときつい気がする。見てみたいけど。

きのう5月5日は子どもの日&シンコ・デ・マヨでしたが、ワシントン州ではGive Bigの日でもあったのでした。5日と6日の2日間でワシントン州のNPOに寄付をしよう!という趣旨のオンラインイベントです。

GiveBigのサイトはこちら。 1,682のNPOと、個人や団体が主催するファンドレイジング1,036件がリストされてます。動物レスキュー、フードバンク、公園や図書館や公共放送への支援、教育支援、ホームレス支援など、ありとあらゆる団体が活躍しているのですね。

今朝の時点で、たとえばシアトル市の図書館には7万ドル以上が集まってました。

あまりにもたくさん団体がありすぎてどうしたら良いかブルブルしてしまいますが、ほんとうに雀の涙ながら、ホームレス支援団体とスケアクロウ・ビデオにほーんのちょっとずつ寄付をしてきました。

Scarecrow Videoは、ワシントン大学キャンパスの近くにあるレンタルDVD屋さんで、2014年から非営利団体として活動してます。外国映画含め13万5,000本以上のタイトルを有する、シアトルになくてはならないお宝のひとつです。

日本にはツタヤが、シアトルにはスケアクロウがある。





NetflixやAmazonやHULUやYouTubeのストリーミングは便利だけど、なんでもあるかというと全然そうでもなくて、ほんの数年前の話題作なども意外と見つからなかったりする。

急に『蜘蛛の巣城』が見たくなったときにも、ヴィスコンティ祭りや80年代B級映画祭りを開催したくなったときにも、スケアクロウは頼りになるリソースです。なくなってしまっては困るのです。

もちろん今は閉店中ですが、郵送によるレンタルを実施中とのこと。

シアトル近郊の映画好きの方、ぜひぜひサポートを☆



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2020/05/05

アメリカンサイズの饗宴


約ひと月ぶりに植物園(Washington Park Arboretum )に行ってきました。前回は桜が満開だったけれど、いまはロードデンドロンがまっさかりです。

やっとArboretumという単語のスペルをおぼえた。
でもロードデンドロン(rhododendron)はまだ覚えられません。やっと間違えずに言えるようになったけど。幼稚園か。
なにがツツジでシャクナゲでロードデンドロンなのかは、ますますよくわからない。




ここにも「あんまり混んでると閉園しちゃうよ」の警告が。そして、なんと駐車場は閉鎖されていました。なのでちょっと離れた住宅街に車を停めさせていただいて、てくてく歩く。





パーキングが閉まっているわりにはけっこう人がいました。
といっても、ときどき木の後ろから子どもの雄叫びが響いてきたり、という程度。週末は混み合うのだろうな。付近の住宅街も路駐の車で大混雑ですねきっと。



「これが6フィートだから。お互いにこれだけ離れてね」という看板。



当地のロードデンドロンは、日本のツツジよりずっと大柄。花も大きいし、木も「灌木」の域ではなく5メートルくらい聳えるやつもけっこうあって、まさにアメリカンサイズ。かなり威圧感がある。押しのつよい花です。お蝶夫人か姫川亜弓かー。たとえが昭和すぎるな。縦ロール巻髪のかんじね。



ロードデンドロンと、マロニエの木。


これから花開こうという蕾も、なんというか爬虫類の爪のようなパワフルさを漂わせています。


 園芸種の交配は1930年代から米国北西部のこのあたりで盛んにおこなわれていたそうで、ロードデンドロン愛好家のクラブがあったそうです。第二次大戦中には英国から疎開してきた株をシアトルの愛好家が保護していたなんて話が書いてありました。

バラとか錦鯉とか馬とかとおなじように、ロードデンドロンもこの道ひとすじの愛好家たちが研究を重ねて新品種をつくってきたんですね。


これは雄蕊が金属みたいな光沢があってひときわ豪華でした。


ハイブリッド品種の森。
ハワイや日本だったらヤブ蚊がでてきてたいへんになりそうな道だけど、幸いこのへんは滅多に蚊が出ません。今日は13度C。薄手のセーター1枚だけだとちょっと肌寒かった。


黄色いのは、なぜか香りがとてもよい。


先行きのわからない日々ですが、とりあえず今日も平和であった。

うちの青年は6月末でインターンの契約終了。ふつうの年ならばほとんどそのまま正式雇用となる見込みだったのだけど、親会社がなんと9割を超える減益という非常事態なので、今年のインターンがポジションを得るのは見込み薄のようです。アパレルはこれからどこも大変。無傷の業界はそんなにないだろうけど。

力のおよぶ限りで、見える範囲のことをしていくしかないですね。
寝られるときにはよく寝てよく食べて、散歩して。仕事のあるときには力のおよぶ限りの仕事をして。



今日はー、フジベーカリーのあんドーナッツと緑茶をお伴に!
3か月越しで読んではほったらかし読んではほったらかしていたダマシオ先生の本もようやく読了。よい一日でした。



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2020/05/02

段階的再開とうすら寒い事実


もう5月ですね! 日本はゴールデンウィーク! 

桜が終わって、近所はリラ/ライラックの花だらけです。この写真↑は、1週間ほど前のもの。八重桜とライラックのパープル&ピンクの組み合わせが珍しく、少女歌劇のように華やかでした。風の強い日だったので盛大に花が散り、宝塚のフィナーレみたいだった。(宝塚、行ったことないです。すみません)


濃い色のも艶やかですね。

今日は朝から雨降りで、日本の「梅雨寒」という感じでした。そんなに湿度は高くないけど。しっとりして、一日家籠もりにはぴったり。



これも派手やかなロードデンドロンにライラックのパープルがすごい配色で目に飛び込んできます。


ほぼピンクの花もあり。ライラックっていろんな種類があるんですね。
この近所に引っ越してきてそろそろ6年になるけど、こんなにライラックがたくさんあったかな、と驚くほど。

ライラックが咲くと、ああもう初夏だなーと思う。



2週間ぶりくらいにサンセット・ヒルの公園に行ってみたら、こんな警告が出てました。

「混み合っている公園は、閉鎖することになってしまいますよ」
公園管理のスタッフが定期的に見回っていて、あまりに人が多い公園は閉鎖することになっています、という、シアトル市のお知らせ。

なので、大勢でピクニックをしたりという行為は避けるように、集まるな、という警告です。

ワシントン州では「Stay at home」令が5月末まで延長されると同時に、「フェイズ1」から「フェイズ4」までの段階的な「reopening(経済・社会活動の再開)」計画が発表されました。

各フェイズの間は様子を見ながら「最低3週間」を置くというもの。
これによると、順調に3週間ずつ推移したとして、50名以下の集会が許可されるのは6月中旬以降。50名以上の集会が許可されるのは7月以降。

美容院や床屋さん、レストランは条件つきで5月末ころから営業再開、かも? といったところです。だいたい、大方予想されていたとおりなのでは。もちろんこの間にまた患者激増なんてことにならなければ、ですが。

アメリカ人はおとなしくロックダウンに応じているなあ、と思っていたら、やはり先週くらいから、「いますぐロックダウンをやめろ」という人たちの抗議集会が散発してます。

日本でも報道されてるようだけど、とくにミシガン州がひどくて、民主党の女性知事を「独裁者」呼ばわりするグループが自動小銃で武装して州議会堂に詰めかけるという衝撃的な映像に目が点になりました。

 Hesiod Theogenyさんのツイートより。

ちょっといくらなんでもこれはネタだろうと思ったんだけど、これは本当にあった怖い話でした。

自動小銃を持って州議会堂におしかけたら普通は逮捕されるだろうと思うのだけど、そうならないのが不思議なこの国。
「凶器準備集合罪」てあったよね日本には? 暴走族の子どもたちが鉄パイプもって夜中に集まって神奈川県警に逮捕されてたけど、この人たちに比べたらかわいいもんだった。

ロックダウンに超反対している人々は、政府に命令されるのが嫌いな人、銃規制大反対派、トランプ支持者、ワクチン反対派。「自由を妨害するなー」「政府にそんな権利はない」と、各地で特に民主党の知事に対して激しく反応しています。特に銃規制反対派が活気づいている。

ふつうこういう人たちが自分の支持者だと表明していたら、少しでもまともなセンスのある政治家なら事態を収束させようとするものではないかと思うけれど、この国の大統領は民主党の知事に「お前がちょっと譲歩してなんとかしろ。この人たちはたいへん良い人たちで、ただ怒っているだけなのだ」とツイートして分裂を煽る一方です。

うすらトンカチだと笑って済ませられる事態ではないです。この人たちが支持するこのうすらトンカチが11月にまた再選されてしまう可能性が高いというのが、人類にとってのたいへん不都合な事実。


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2020/04/29

うまくいかない夫婦の話


一日ごとに木の葉が茂り、花もどんどん入れ替わり。ドッグウッド(ハナミズキ)の花(じゃなくてほんとうは総苞だけど)があっというまに満開です。

ひとつ大きな仕事が終わったらまた超ヒマになってしまった。しーんとしています。

だからといって積ん読本はちっとも減らず。そしてなぜか本棚を開けて(うちの文庫本用本棚は扉つき)ランダムに目についた、夏目漱石先生の『道草』を読み始めてしまいました。

面白かったです!
20代の頃に読んだはずだけれど何ひとつ覚えていなかった。

これ20代で読んだってわかるわけないわ。同じ本を読んでも、そのときそのときで受け取るものは違いますよね。

これは完成作品としては漱石先生最後の作品で(未完の『明暗』の前)、49歳だった漱石先生が自分の36歳の頃の出来事を振り返った自伝的作品。そして物語の中心は、うまくいかない夫婦仲です。

子どもの頃養子に出された先で、承認要求ばかり高くて素直な愛情を子どもに注げない毒親に辟易した思い出。

そして海外から戻り、教師となり、学問の世界で高い野心と自負を持つものの、その野心と自負に比例するほどの経済的余裕はないのに、過去の闇からころがりでてきたような毒親はじめ、親戚一同がお金をせびりにくる哀しさ。

夫婦ともにめちゃくちゃ我が強く、互いに思いやりはあるのに素直に譲ることのできない気性で、すれ違うばかりの夫婦仲。

主人公の健三さんに、漱石先生の筆は容赦なく切り込んでいきます。

「つまりしぶといのだ」
健三の胸にはこんな言葉が細君のすべての特色ででもあるかのように深く刻みつけられた。彼は外の事をまるで忘れてしまわなければならなかった。しぶといという観念だけがありとあらゆる注意の焦点になって来た。彼は余所を真っ暗にして置いて、出来るだけ強烈な憎悪の光をこの四字の上に投げかけた。細君は又魚か蛇のようにその憎悪を受け取った。(139)

13年前の自分をこれだけ冷静に、第三者的に見られるってほんとにすごいと思う。だから文豪なんですね。

お産間近で、今度は死ぬかもしれない、と弱音を吐く奥さんと健三さんの会話。

「女はつまらないものね」
「それが女の義務なんだから仕方ない」
健三の返事は世間並みであった。けれども彼自身の頭で批判すると、全くの出鱈目にすぎなかった。

これには漱石先生の女性観の一部がすごくよくあらわれてると思います。
この小説が発表されたのは大正4年、1915年。
女性には参政権もなく、女は子どもだけ生んで育てていればよろしい、夫や親の所有物であるというのが「世間並み」の価値観であったときに、近代人であった漱石先生はそれが「出鱈目」であることを感じつつもその世間並みの価値観の中に生きていて、その矛盾を痛切に感じていたのだと思います。この時代の矛盾はもちろんそれだけではなく、社会のあらゆる面で目について、漱石先生みたいな正義の人&美意識の人にとってはたいへんなストレスだったことだろうと思う。

ちょっとあまりにヒドイと思った箇所を。

一番目が女、二番目が女、今度生まれたのもまた女、都合三人の娘の父になった彼は、そう同じものばかり生んでどうする気だろうと、心のうちで暗に細君を非難した。然しそれを生ませた自分の責任には思い到らなかった。(209)
「同じものばかり」って……。
もうひとつ

その赤ん坊はまだ目鼻立さえはっきりしていなかった。頭にはいつまで待っても殆ど毛らしい毛が生えて来なかった。公平な眼から見ると、どうしても一個の怪物であった。
「変な子が出来たものだなあ」
健三は正直なところを云った。
「どこの子だって生れたては皆なこの通りです」
「真逆そうでも無かろう。もう少しは整ったのも生まれる筈だ」(242)

おい!娘にむかってなんてことを。でもこんなことを言っても、漱石先生の場合にはまったく嫌味でなくて、笑ってしまえるのは人徳。

奥様も漱石先生も、どちらもぜんぜん悪者ではないけれど、それぞれのしがらみによりそれぞれの立場でしかものを見られず、それで互いに期待している反応が得られずに癇癪を起こすという、うまくいかなさの機微をどうしてこう細かく容赦なく描けるものだろうか。冷徹すぎる。

わたしも36歳くらいのときに離婚しましたけれど、 元旦那もわたしも、当時は健三さんとお住さんどころではない、まったくもって小学生なみの我の張り合いをしていたものですから、そんな幼稚な応酬は精密に思い出したくもないし思い出そうとしたら相当に疲れそう。





夫婦のすれ違いっぷりを描いた作品では、最近は Netflixの『Marriage Story』もよかったなー。

これは20世紀初頭の健三さんとお住さんとはまた全然違う、21世紀初頭のアメリカの話だけれど、お互いに期待するものと自分が目指すものと自分の我の折り合いがつかなくなってだんだんねじれてくるところはおんなじ。

とても切ない話でした。俳優陣がみんなすごくよかったー。



きょうの夕虹。ひと雨ごとに緑が濃くなっていきます。



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