快晴の元旦、レーニア山麓へ。山はホイップしたてのクリームのようでした。
レーニア山はシアトルの南90km くらいだから、東京から富士山の距離(約100キロ)とそんなに変わらないのに、標高が高いからか(レーニア山は4392m)、シアトルから見るこの山は、東京からの富士山よりももっとずーーっと大きく見えます。
とはいっても、シアトルは曇天の日が多いので、山が見える日はむしろ稀。
あまり稀なのでほとんど存在を忘れてしまいかけているところへ、珍しくパキっと晴れた日、青空を背景に巨大な白い山の姿が突然ビルの後ろに出現するので、見るたび感動するのです。
この山にMt. Rainier という名前はなじまないと思います。
もう百年以上そう呼ばれているのはわかっているけど、できることなら今からでも変えてほしい、と思う人、わたしだけなのでしょうか。
レーニアさんというのは、この辺を18世紀末最初に探検した英国人船長バンクーバーさん(この人もいろんなところに名前を残しています)の友人だった英国海軍将校の名前です。
辺境に「発見」した雄大な山に、バンクーバー船長は自分の友人の名を冠しちゃったのです。
当時の大英帝国海軍船長にとってはまったく疑いもなく正当な行いだったのでしょうが、縁もゆかりもない人の名前を勝手につけちゃうなんて、山にとっては失礼千万なこと、この上ない。
当時レーニアさんは東インド諸島の司令官をしていて、その後まもなく本国へ帰って亡くなっているから、自分の名前のついた山を見ることはついになかったのだと思われます。
もちろんこの山には白人が来るずっと昔から別の名前がありました。
この地の人びとは「mother of waters」を意味する「Tahoma」という名でこの山を呼んでいたといいます(「偉大な白い山」という意味だという説も)。
もっと後から来た日系の移民は、もちろん「タコマ富士」と呼びました。日本人なら、この山を見てまず間違いなく、あー富士山だ、と思うでしょう。
私も、最初にシアトルに来たとき、飛行機の窓から朝日を浴びたこの山を見て、あっ富士山がある!と思ったのでした。富士山があるところなら大丈夫だな、と、なにが大丈夫なのか意味不明ながら、ひと安心した気がします。
ハワイでは、一部をのぞいて地名はすべて古来のハワイ語の名前が保存されています。
土地と、その場所にまつわるスピリチュアルな存在に対するネイティブ・ハワイアンの思いは今でも血の通ったものとして受け継がれています。
先住のハワイアンの血をひいていない住民たちも、ハワイ語の土地の名前を自分たちの文化として尊重しています。
デベロッパーが新しい住宅街を作るときも、道の名前はすべてハワイ語で新しくつけられます。
そんな土地と名前との関わりに馴染んでいたから、こんなに雄大な山に、土地に縁もゆかりない白人がそのまま冠されているというのが、ものすごく無神経なこととに感じられます。
もちろん先住民たちにしてみれば不本意なことでしょうけれど、ハワイとは違い圧倒的な白人社会の中で、抗議の声がまとまることなどないまま、19世紀から20世紀初頭にかけていろいろな土地の名前が定着していったのでしょう。(ウィキペディアの記事によれば、最後にレーニア山の名前をタコマ山にするかレーニア山にするかが議題にのぼったのは、1920年代のことだったそうです)。
そういえば、日本に帰ったときに「Mt. Rainier」という名前のコーヒー飲料をコンビニでみつけてびっくりしました。
スタバ風のパッケージにレーニア山の絵がついてる缶コーヒー。日本の広告屋さんが作った「シアトル風」ブランドなんですね。こっちで売ったら意外にお土産として喜ばれるかもしれません。
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