2015/07/23

マグノリアの木


タイサンボク(泰山木)、マグノリアの花が咲いています。

この写真は今年のじゃなくて数年前に撮ったもの。最近ほんとにカメラにさわってない。

子どもの頃、泰山木が家の庭(正確にいうと隣あっていた祖父の家の庭)にありました。
馴染み深い木です。

幹の手触りも良く、かなりの高さがあって、庭の中では登るのに都合のよい唯一の木だったので祖父母が心配したのか、下のほうの枝をみんな切りとって登れなくしてしまってありました。

だからうちにあったこの木は、下から3メートルくらいまで枝がなく、花はずっと上のほうに咲くので、あんまりよく見たことがなかったのです。

巨大な花びらと、この人形みたいな大きな花芯が地面に落ちているのを使って遊んだ覚えはあります。それに、ざらっとした幹の心地よい感触は、今でもはっきり覚えています。

シアトルに引っ越してから、近所でよく庭木として見かけるので、はじめて間近で花を観察することができました。

こういう形の木だったんだと気づいたのは、シアトルに来てから。

うちにあったのはマッチ棒みたいなかたちになってたので、そういう形状の木だという先入観があったのです。


アメリカでは、木蓮も白蓮もコブシもこのタイサンボクもひとまとめに「マグノリア」と呼ばれています。 なぜこうも大雑把なのだろうかと不思議に思うほど。

でも南部で「マグノリア」といえば間違いなくこのタイサンボク。
『マグノリアの花たち』は、ルイジアナを舞台にした映画でした。


カエルが降ってくる映画もありましたね。『マグノリア』。

近くで良く見ると、ほんとに優雅で華やかな花。



この花が特に気になるようになったのは、マージョリー・ローリングス著『Cross Creek(クロス・クリーク)』を読んでから。

最近新訳も出た『仔鹿物語』(新訳は『鹿と少年』)の作者として有名な著者のエッセイ集で、20世紀の前半の北フロリダのオレンジ農園での生活をつづったものなのですが、これが本当に素晴らしい。

まだ『子鹿物語』(原題『Yearling』)という代表作を書く前。フロリダにオレンジの果樹園と小さな家を買って、ニューヨークでの生活を捨てて女一人で移住。

この辺境といっていいような田園の人びと(恐ろしく貧しい白人家族、頑固一徹の農家のおっちゃん、黒人の娘たち、など)と出会い、かなり真剣に果樹園経営と自家用農園を営み、乳牛と鴨を飼い、猟にでかけ、ニューヨークから友人が来れば土地の一風変わった食材を使って、ものすごく美味しそうなコース料理を作ってふるまったりするのです。

独立心が強いだけでなく、本当にたいていの事は何でも出来てしまう、「リソースフル」というのはこういう人のためにある言葉なんだ、と思わされるような人。

芯が通っていてかなり頑固で気が強く(庭に入ってきたブタを撃ち殺してさばいて豚肉パーティーを開いたら、そのブタの持ち主がやってきてあわや大げんかなんていうエピソードもある)、でも人や動物を見る目には驚くほど偏見がなく、温かい。

ちょっと検索してみたら、マージョリーさんに関するこんな素敵な記事がありました。



『クロス・クリーク』の章のひとつは、マグノリアの木への賛辞で始まっています。

「最小限の幸福というものが、ほかの人びとにとって何なのか、私は知らない。私自身にとって何かということすら、確実に言うのは不可能だ。けれども、私にとって是非とも必要な、はっきりとした形あるものが何かを言うことはできる。それは、空を背負った樹木の天辺だ。

もし体の自由がきかなくなったり、長い病に伏せるようなことがあっても、あるいは、大いにあり得ることだけれど牢屋に放り込まれるような羽目になっても、外の世界と繋がるその一片の形見さえあれば、私は生きていけると思う。クロス・クリークに来た最初の日々、私にはそんな支えがあった。


それはマグノリアの木だった。周りを取り巻くオレンジの木々のうち一番高い木々よりも、まだいっそう背が高い。この世に醜い木というものはないが、マグノリア、Magnolia grandiflora (タイサンボク)には、特有の完璧さが備わっている。

周りがどれほど繁っていようとも、ヒイラギやライブオークやモミジバフウがどれほど繁く混み合っているさなかにあっても、マグノリアは完璧な左右対称の樹形をつくる。この樹を見ていると、品格とは、人であれ植物であれ、おのずと内に備わっているものなのだろうか、と思わされる。

成長するために隣りをむやみに押しのけることがないので、オレンジ園に植えておくことのできる数少ない木のひとつなのである」(拙訳)



この本は日本では昭和20年代に『水郷物語』という題で翻訳されたそうです。

メアリー・スティーンバージェン主演で映画化もされてます。

彼女はマージョリー女史のイメージに良く合っていたと思うけど、やはり原作の世界があまりにも豊かなので、物足りなく感じてしまう。
でもマージョリーさんのたくましさ、緑深い「水郷」の感じはよく出てました。

『Cross Creek』中の、「日々の糧」という、料理と北フロリダの独特の食材(キャンプで食べる極上のビスケット、農園の野菜、天国のようなマンゴーアイスクリーム、クリスマス料理、それに蛇肉やリス肉も…)が次から次へと出てくる章がもう本当に面白い。友人や他の人にもぜひ読んでもらいたくて、この章含めいくつかの章を翻訳済みなのですが、もう気づいたら3年もほったらかしになっていた。

紙の本で出版できなくても、何かの方法で読んでもらえる方法はないものかと、またちょっと模索してみようと思います。時が経つのは早過ぎるー。


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2 件のコメント:

  1. 読みたい!早めに出版をお願いします!

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    1. motokoちゃん、ありがとう。じゃあ今度こっそりブートレッグ版をお送りしましょう(笑)。

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