2016/06/25

山寺のたくさんの骨(奥の細道/山形 立石寺)

せっかく仙台に行ったので、『奥の細道』で有名な立石寺に行ってきました。

芭蕉先生が

「閑かさや 岩にしみ入る 蝉の声」

の句を詠んだところです。

仙台からは電車で一時間弱。


立石寺はシンプルに「山寺」とも呼ばれていて、駅の名前もシンプルそのもの。
ついでに隣が「面白山」ですよ。


駅のすぐ前にあるこのこんもり山に、お堂が散らばっています。

ここから参道。
ふもとから奥の院まで、石段の数、1015段。なのだそうだ。

メキシコのテオティワカンに登った翌日、全身硬直して階段が降りられないほどの筋肉痛だったので、ここに来る前にはトレーニングしましたよ。といっても散歩を早足にしただけだけど(ゆる)。


参道の最初の階段を上がると、まず本堂があります。
ブナ材でできた日本最古の建築だそうで、14世紀半ばの建物。


ここからさらに山門をくぐり、檜の森を登っていきます。
道の両脇には数えきれないほどのお地蔵さまが。


かなり年配の方も奥の院まで登ってらっしゃいました。

ゆっくり登れば、それほど大変でもなかったです。


立石寺は「たていしでら」だと思ってたら「りっしゃくじ」が正解でした(恥)。
さらに正式名称は「宝珠山立石寺」。天台宗のお寺です。


残念ながらまだセミは鳴いていませんでしたが、山門をくぐるとすぐに緑に包まれ、清々しいヒノキの香りが。お風呂桶の香り!

『奥の細道』には

「岩に巌を重ねて山とし、松柏年旧り、土石老いて苔滑らかに、岩上の院々扉を閉て、物の音きこえず。
岸をめぐり、岩を這て、仏閣を拝し、佳景寂寞として心すみ行のみおぼゆ」

とあります。


芭蕉先生の時代にすでに、「松柏年旧り、土石老いて苔滑らか」だった(柏はヒノキ類のことだそうです)だった山道。いまある松やヒノキのうちどのくらいが当時のものなんでしょうか。
参道の両脇にはお墓もたくさんありました。地元の名家なのか、かなり立派な墓石もあれば、日露戦争で亡くなった方の碑も。


「後生車」という車輪がついた卒塔婆のようなものもたくさんありました。古くてもう朽ちたものから真新しいものまで。これは東北地方独特のもののようです。

「若くして死んだ人の供養のために、車を回すと転生が早くなる」というような説明がありましたが、ミニチュアサイズのお地蔵さんや風車と同じく、水子供養のためなのかもしれません。 


仁王門。これは1848年、幕末に造られたもの。けやき材だそうです。
中には運慶の弟子作だという仁王像と、閻魔像が入居してます。

仁王門から上は森を抜けて、空気が少し変わります。



ようやく着いた奥の院。ここが終点です。


岩は火山性のもので、わりに柔らかそう。岩屋にも昔の僧侶たちの骨が納められていると説明が書いてありました。

これは奥の院の少し手前。お堂にアンテナがついている。

美しい木壁とお掃除用具。


奥の院。


「岩上の院々扉を閉て、物の音きこえず」「佳景寂寞として心すみ行のみおぼゆ」


…という時代ではなくなり、(私達も含め)無遠慮な観光客がカメラを下げて行き来する参道ではありますが、それでも下界にくらべれば、「佳景寂寞」。


芭蕉先生の時から比べれば、色とりどりの建物と電線が増えていますが、山の形や木々の色は、たぶん同じ。


こういう岩にうがったたくさんの穴に、お骨が納められているのでしょう。
860年開山だから、それ以来の1250年間!に、どれだけの遺骨が集まったことか。

山全体が巨大なお墓ともいえるわけですね。


とても不思議な形に岩が組み合わさっていて、たしかに石が立っている。


開山堂。開山の祖、円仁(慈覚大師)の像を納めているそうですが、これは非公開。
円仁さんのお墓もこの下に。

中国を思わせる風景。最後の遣唐使で、唐に9年以上もとどまって長安も見た円仁さんは、この当時の都人にとっては北の果ての国の山中のお寺に、もう二度と見ることのない唐の風景を重ねていたのかもしれないですね。


見晴らしの良い「五大堂」。


そしてその後ろにはこんな立て札が。


この「修行の場所入り口」の一画は格別に清々しく、もみじと竹が茂る静かな場所でした。


セミの声は聞こえなかったけれど、うぐいすやそのほかの鳥の声が降ってきます。


下りは、もときた道をさくさくと。森の中は下りと上りの参道が整備されていました。
あじさいの中の道。こんなに緑が多くても、まだ蚊はほとんどいませんでした。


本坊の中。広い玄関に、なぜか世界各国のお面が飾ってありました。

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2016/06/22

IJET-27(3)イディオムの国のアリス


仙台のIJET、1日目の夜の交流会は仙台駅隣のホテル・メトロポリタンにて。これがまた、美しくて美味しいものてんこ盛りでびっくり!
ずんだ味噌の田楽、なす田楽、ローストビーフにラムチョップにお刺身に揚げたて天ぷらに秋刀魚のお寿司。サラダも煮物も中華も。そして魅惑の地酒、大吟醸も種々。


予算オーバーしなかったのかしら、それとも仙台の方々が特別に豪華なごちそうを振る舞ってくれたのかしら、と色々考えてしまうほどレベルが高くてほんとに感激。ちょっと顔出して早めに帰ろうなんて思ってたけど、お会いした方々との話も面白く、最後まで居残ってしまいました。



こちらは仙台の街角カフェ。仙台はオシャレなコーヒーショップがたくさんありました。


小さいミルク入れにクリームが入って出てきた。懐かしいー。

さてさて、IJET2日目は、腱鞘炎や肩こり対策(深刻な職業上の問題です!)の大変ためになる講義、エージェント経由と直接クライアントからの仕事のPROS&CONSについてのパネルディスカッション、そして午後は日英翻訳者の方の表現に関するプレゼンテーションを2コマ拝聴しました。

最後のプレゼンテーション、「Alice in Idiomland: Dealing with Idiomatic Expressions in Japanese Document」がとてもおもしろかった。

ウィスコンシン大学の「技術日本語」というプログラムの主任であるJames L. Davis教授の講義でした。

日経新聞の記事から採取した日本語のイディオムを、ウォール・ストリート・ジャーナルの読者むけに翻訳するという前提で、ひとつひとつ取り組んでいきます。
「接点」「重い腰を上げる」「頭を抱える」「救世主」「可能性を秘める」「尾を引く」「臨機応変に対応」など、どれもそのまま訳してはかえって誤訳になってしまうイディオムをどう訳すか。

エンジニアの学位を持つDavis教授は、「大きな問題に出会ったら、小さく切り分けて取り組みやすくする」のがエンジニア流アプローチだといい、その通りに、日本語の文章を解体し、単語の背後にある意味を特定して、読める英文にするために足りないものを足していきます。

たとえば、
「安倍政権は医薬品の国際競争に打ち勝ち、成長の柱に据えようと矢継ぎ早に政策を打ち出す。だが過去の出遅れは今なお尾を引く
の下線部分は、
< past delays are still holding the industry back>

のように、「尾を引く」の意味するところを読み取って、なにがどう尾をひいているのかをまず考え「過去の遅れにより産業が遅れを取っている」と言葉を足す、など。

イディオムや表現を頭の中で解体して、原文の意味を忠実に再現するために言葉を足したり削ったり。
英日翻訳でも、読んで意味の通る自然な文章にするためには同様の作業が必要です。

訳しにくい単語やイディオムに常日頃苦しんでいるので、こんなふうに他の人が頭を悩ました経過を聞くのは楽しいです。

Davis教授の講義は歯切れよくて軽快でした。

こうやってわざわざカンファレンスに出てくる特典はいろいろあるけれど、最大のメリットの一つは、共感でき尊敬できる同業界のプロフェッショナルの方と直接会って同じ空気を吸えることです。賢い分子が鼻の穴からいくつか忍び込んで、ちょっとだけ脳のシワが増える気がします。


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2016/06/20

IJET-27(2)萩の月&ワークショップ


今回のIJETのオミヤゲバッグ。ミニサイズのキャンバストートバッグで、政宗公のシルエットつき。デザイン素敵。これはキープです。
プログラムも政宗公が表紙でした。

今回のIJETは東京で開催された前々回にくらべて小規模ではあるものの、とても心がこもっていて、東北・仙台の方々の熱意が伝わってくる感じでした。


おやつには「萩の月」と「ごまゆべし」が登場〜!! 参加者全員、目がキラリン!と光る。 


会場の仙台国際センター。 展示棟と、すぐ目の前の地下鉄東西線国際センター駅はできてからまだ1年もたっていないそうで、どちらもとても綺麗でモダンな建物でした。
青葉城のすぐふもとにあって、まわりを緑に囲まれてます。


ひと駅手前にある交番も新しく、お城仕様。パトカーもカワイイ。



そしてお弁当もおいしかった。すぐ近くの東北大学生協からのケータリングだそうです。

1日目の午後は、下館教授のワークショップに参加しました。
下館教授はダンディで歌舞伎役者みたいな、とてもチャーミングな座長さん。

基調講演の続きのような、シェイクスピアを東北弁に訳す際の苦労話の講演なのかと思ったら、ぜんぜん違って、演劇の基本技術ワークショップ。
ザ・シェイクスピア・カンパニーの方も翻訳者たちの中に加わって、身体を動かし、小さな偶発的なグループを作り、身体の動きを真似たり創り出したり、言葉ではない声でコミュニケートしたり、グループでの集中力を研ぎ澄ますワークなど、とても新鮮で楽しい60分でした。

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2016/06/19

IJET-27(1)東北ハムレット


日本翻訳者協会(JAT)主催の第27回英日・日英翻訳国際会議(IJET-27)に行ってきました。
会場の仙台国際センターは、泊まったお家から徒歩10分。公園を右手に見て、広瀬川をわたってすぐでした。青葉城が目の前。いいところだー。


1日め、土曜日の基調講演は、東北学院大学の下館和巳教授。

下館教授が主宰・演出する「ザ・シェイクスピア・カンパニー」は、シェイクスピアを東北弁に翻訳した「東北人による東北人のための」シェイクスピア劇を公演してます。

妖精をワカメや牡蠣やタコに変えて松島を舞台に公演した『真夏の夜の夢』を皮切りに、東北弁で東北の人びとのためにシェイクスピアをやることの意義を見出したという下館教授の話、ほんとうに面白かったです。

ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに行って「ザ」シェイクスピア・カンパニーという名前にお墨付きをもらった話。

松島での公演で、お客の入りの悪さに気をもんで無料ビールまでつけたけれど、最終的にたくさんの島の人や外からの人が見に来てくれた話。

見に来てくれる島のおばあさんたちが役者に声をかけるので、上演時間がどんどん長くなる話。

下館教授は、シェイクスピアの時代にも舞台の観客と役者との距離はこのように近く、劇場は猥雑なエネルギーでいっぱいだったのではないかといい、そして、シェイクスピアの作品をこのように変形させてしまうことで作品が傷つくのではないかと聞かれたら、「英国人は傷つくかもしれないがシェイクスピアは平気だ」と答えるといいます。

もちろん単に面白いから東北弁にしてみた、というだけではなく。

東北の役者たちが東北の人の前で公演するために、必然的ですらある東北弁シェイクスピア。演劇と言葉の深い精緻な理解に基づいて、東北の土地に移植されています。

ユダヤ人とイタリア人の差別の話である『ベニスの商人』は、東北で商いをする近江商人の話に。『ハムレット』は戊辰戦争後の東北に。
『オセロ』は虐げられたアイヌに。『リア王』は寿司屋の主人に。『マクベス』の魔女は恐山のイタコに。

有名なハムレットの科白、
To be or not to be. That is a question.
は、言葉の音がとても女性的な余韻を残し、観客に苦悩を投げかけ、その悩みに巻き込んでいるのだというのです。だからto DO ではなく弱々しい BE が使われていると。

この東北弁訳は、

「すっか、すねがた。なじょすっぺ」


下館教授の講演のあと、カンパニーの役者さんたちが『ベニスの商人』『ハムレット』『オセロ』『リア王』『マクベス』のさわりを見せてくれました。
東北弁、16世紀のクイーンズイングリッシュなみに、難しい。

震災のあと、活動休止状態だったカンパニーは被災者の方々のために公演を再開して、被災した各地を回ったそうです。

アメリカだったらこういう活動にはどこかからどどーんと資金援助が出ると思うのだけど、日本ではなかなかそういうわけにいかないのでしょうか。
 

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2016/06/18

政宗と牛タン


仙台に来ています。
今年の3月からスイカが仙台エリアでも使えるようになったそうで、伊達政宗仕様のスイカペンギンちゃんが上野にいた。

「伊達政宗ディスったら生きて帰れないっぽい」とNちゃんに教わったので、とりあえず安全のために伊達政宗本を買ったけどまだ全然読んでない。


初やまびこ!初東北新幹線! 上野駅の地下ホームに来たのは初めてだー。

アメリカにも高速鉄道があったらなあ。
オバマ大統領になってから、ワシントンDC、フロリダ、カリフォルニアなどたしか4箇所くらいの都市に高速鉄道を建設する連邦予算がついたんですよ。建設準備のために会社までできていたのに、計画はすべて!!地方議会とか知事とか共和党に潰されてしまった。

アムトラックみたいな100年前のインフラが列車のすべてだと思っているアメリカ人の全員を新幹線に乗せてあげたい。


駅弁は「深川めし」。お米のお茶「ゆめぴりか茶」がうますぎ。
自販機のお茶の種類も数限りなくあって、どうしたらいいか途方にくれてしまう。


仙台は、小学校の時に一度来たきりです。
けやき並木やイチョウ並木の美しい通りがタテヨコに走っている美しい街です。
ちょっとポートランドを思い出した。 もちろんポートランドほどヒッピーな街ではないけど、オシャレな店やカフェは無尽蔵にある。そして牛タン店も。
ご一緒した翻訳者さんも、「住みたくなる街」だと言ってましたが、同感。

うちのおじいちゃんが仙台出身なのだけど、いったい仙台のどこなのか全く知らない。
父にも母にももっと聞いておけばよかったことがたくさんある。


仙台にも素敵な植木鉢ハウスがたくさんあります。

仙台ではAirbnb利用。城址の近くで、中心街までも歩いて10分くらいの便利なところです。というか、コンパクトな街なんですね。


伊東豊雄氏設計の、せんだいメディアテークを見てきました。


そしてもちろん牛タンっ。目の前でカモクなおじさんが焼いてくれる牛タンのシンプル定食1人前1300円。スープ、麦飯、牛タン、お漬物。

お客が席についたと同時に、注文する前に牛タンを網に並べて焼き始める眼光鋭いおやじさん。うなぎとか他の品目もメニューにあるんだけど、お客が店ののれんをくぐった瞬間に「こいつは間違いなく牛タン」と分かるのに違いない。

ねぎたっぷりのオックステールスープがうまかったです。


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