<週のうち六日、バスに乗ってウッドロー・ウィルソン橋を渡り、ミス・リーフォルトや、ご友人の白人家族の住むベルへイヴンに向かう。>(『ヘルプ 心がつなぐストーリー』上巻 28p)
ミシシッピ州ジャクソンのグーグルマップは何度も何度もにらめっこしたのだけど、この「ウッドロー・ウィルソン橋」がどうしても見つからなかった。
実際に行ってみると、これは川にかかる橋じゃなくて、鉄道の線路をまたぐ大きな陸橋でした。
この橋は、『ヘルプ』では黒人地区と白人地区をわける境目として描かれてます。実際、その通りでした。
<こうしてジャクソンでは、白人の居住区はどんどん増えていくが、あたしらの住む地区はひとつの大きなアリ塚みたいだ。売り物にはならない政府の保有地に囲まれていて、人が増えてもこれ以上は広がりようがない。黒人地区は混み合っていくばかりだ。>(上巻29p)
『ヘルプ』の舞台になったのは1962年から63年ですが、それから半世紀たった現在も、この「棲み分け」の状況はあまり変わっていないように見えます。
上の写真は、ウッドロー・ウィルソン橋を渡ってしばらく行ったあたりにあった、きわめてシンプルな窓のないナイトクラブ。
ミニーの旦那、リロイが飲んだくれていたのもこんなクラブだったかもしれません。
このすぐ近くに、自宅前で暗殺された黒人活動家メドガー・エヴァーズの家があります。
<「KKKに撃たれたんだよ。自分の家の前で。一時間前に」
背筋に鳥肌が立つ。「家ってどこ?」
「ガインズ通りだよ。あたしらの病院に運ばれたんだ」>
<ミニーはこぶしを握り、歯がみしている。
「子どもちたの目の前で撃たれたんだよ、エイビリーン> (上巻 328p)
エヴァーズの家は博物館として保存されていますが、見学は予約制なので中は見ませんでした。彼が撃たれて倒れたドライブウェイも、そのままに保存されています。
エヴァーズ宅のあるガインズ通り。この通りは手入れの行き届いた、比較的良い暮らし向きの家が多い。
でも地区のほかの場所は貧しさが露わです。
裕福でない地域には、放し飼いだか野良だかわからない犬が困った顔でうろうろしているのは全米共通。
ハワイにもワシントン州にも、犬放し飼いエリアがあります。
人を噛んだりしない限り、犬がちょっとくらいうろうろ出歩いていても隣人も大騒ぎしないのでしょう。
こちらは橋の反対側、ダウンタウンに近いノース・ステート・ストリートのお屋敷。
ジャクソンの白人エスタブリッシュメントたちが居を構えた通りです。
現在の基準からすると規模は小ぶりですが、意匠をこらしたお屋敷。ギリシア風円柱の並ぶポーチ、裏のポーチにはブランコの椅子、きっと表玄関のドアを開けたら中には回り階段があるに違いない。
ダウンタウンから少し離れたベルヘイヴン地域は、『ヘルプ』でエリザベスやヒリーが住むという設定の住宅街。20代の中流階級の若い夫婦が最初に住むに適当なこぢんまりした家が並ぶ、閑静な住宅街でした。
このネイバーフッドには犬はうろうろしていなかったけれど、かわりに猫たちがひなたぼっこをしてました。
人種隔離政策は半世紀前に撤廃されたものの、圧倒的な経済的格差の壁は今でも取り払われてはいないし、当時からの住宅街にはまだ「こちら側」と「あちら側」の違いが厳然と存在しています。