選挙の数日後、わたしの友人の義理の娘(20代の黒人の女の子)が、シアトルから少し離れた郊外のショッピングモールで仕事にいく途中、パーキングにいた男数名に「ニガー」とののしられた。
わたしのクラスメイトの20歳前後の黒人の女の子も、大学の近くでクルマに乗った3人の白人男性にむき出しの悪意を投げつけられたという。
超のつくリベラルの「バブル」に包まれたシアトルエリアでさえ、これである。
トランプに投票した人の中で、ほんとうに白人至上主義にこりかたまっている人はほんの一握りだとは思う。ほんとうにメキシコ国境に壁を作ってほしいと思っている人も少ないのだと思う。
でもトランプは、モスリムや移民や権利を主張する女性たちを切り捨てるような言動で、そのような人びとだけでなく、なんだかモヤモヤした不満をもっていた人びとの中にまでマイノリティへの憎悪をかきたてて、それを人気とりに利用した。
選挙後に、不満をもった頭のよくない人たちが、これでオレたちの時代が来たとばかり、調子にのって差別発言をしたりしている。
トランプはバカに通行手形をわたしてしまったようなものだ。
もちろんそんなのはウソの空手形なので、いつまでも続くはずがない。と思いたい。
でもトランプは先日、白人至上主義と関係の深い、ポリティカル・コレクトネス大嫌いのスティーブ・バノンという人物を補佐官に指名した。
この人はトランプの選挙参謀で、トンデモに近いような扇情的な記事で何度も問題になった極右の新聞を主宰している人。この人選には共和党の主流の人たちも冷や汗をかいている。これからこのグループの人たちがどれだけ発言権を掌握していくのか注目。
選挙から1週間、シアトルの人はショックから少しずつ立ち直り始めていて、戦闘モードにはいっている。
動画でみた高校生たちが持っていたのは、LGBTのシンボルのレインボーカラーの旗や、「Black lives matter」「This p---y grabs back」などのスローガン。これは大学やダウンタウンで行われたラリーも同じ。
これらのデモは、単に「トランプは嫌い」といいたいだけの、アンチのためのアンチ行動ではない。
(…レディ・ガガのツイートした「Love Trumps Hate」(愛はヘイトを踏んづけて乗り越える)が日本の一部メディアで「トランプは嫌い」と誤訳されて話題になってましたが)
自分たちが大切にしてきた「多様性」「共生」「社会正義」という価値観と、これまでに獲得してきた権利は絶対に守る、という表明のための行動なのだ。
この国は完全に分裂していて、トランプ支持者たちと反トランプの人たちとの間には、いまのところまったく会話が成立しない状態にある。
ほんとうに、生産的なポジティブな平和な対話が始まってほしい、と祈る毎日。
たがいにバカだと思っているだけでは、話は始まらない。
いったいなにが糸口になりうるんだろうか。