2022/01/28

オミクロン渦中に入院の巻


日曜日の夜から木曜日の夜まで、入院してました。

10日のPCRで、コロナ陽性です!といわれたのが翌日11日朝。

以降、喉の痛み、微熱、咳という症状が数日続き、それはおさまったものの倦怠感が抜けず…という状況でしたが、陽性発覚後10日ころから、息切れがひどくなりはじめ、パルスオキシメーターで測ると、ちょっとした日常動作のあとで80台になってしまうという状況が続きました。

オミクロン禍のさなかにできるだけ病院には行きたくない!と思ってたんですが、21日の金曜あたりから息切れがますますひどくなってきたので、日曜の夜、ついに、うちの青年に有無をいわさずERへ強制連行されました。
ふだんのかかりつけの腫瘍クリニックは、コロナ陽性発覚後20日は受診できず、受け入れ先はERだけだったのです。

コロナ陽性が発覚したのはもうその時点で約2週間前なのだけど、ERではまだコロナ患者扱いで、待合室もコロナ患者専用。

ERに到着したのは日曜の午後8時すぎでしたが、コロナ待合室はわたしのほか誰もいず、普通の待合室にも3人か4人が待っているだけで、わりとすぐに診てもらえました。

何人かの医師や看護師さんになんどか聞いてみたところ、1月のはじめ頃は患者が急増して、かなり緊張状態だったこともあったそうですが、もうかなり全体数が減っているとのこと。

やっぱりシアトルではもうとりあえずオミクロン株の感染もピークアウトしているというのは本当みたいです。

すぐにER内の簡易病室に入れてもらい、レントゲンとCTを撮ってもらいました。

血液検査のほかに、夜中と明け方に2度の追加PCR検査をして、1回目は陰性だったものの、2回めは陽性になって、ここでコロナ患者に再決定!

感染後もう2週間で、一度症状はおさまってるのに????まだウイルスが活動してるの???と驚きました。

その間、医師が3人入れ替わりにやってきて、レントゲンでは判断できないけれど、コロナによる肺炎の疑いがあるといって、とりあえずコロナ陽性の肺炎患者として、2種類の薬で治療を受けることに。
もともと腫瘍と胸水の組み合わせで肺機能が低下しているのはわかってるんですが、そこに肺炎を併発しているのではないかという所見でした。
肺炎にしては、熱もなかったんですけどね。

コロナ患者扱いなので、もちろん付添いの息子も同室できず、入室してくる看護師さんや医師は全員、マスク、不織布ガウン、フェイスシールドの完全装備です。

しかも、隔離患者なので、廊下のトイレを使うことができず、「これ使ってね」と「おまる」を持ってきてくれました…。


これがいちばん悲しかった……。急に部屋に看護師さんその他が入ってくることもあるので、気が気じゃないし!

持ってきてくれた女性看護師さんが「わたしこっち向いてるから、ドウゾ」と背中を向けてくれたんですが、さすがにかたまりました。

好きなときにトイレが使えるって、なんて幸せなことなんだろうか、と実感しました。
水洗トイレが当たり前だと思っている毎日よ。

去年の夏読んだ『アンジェラの灰』で、毎日家のおまるのナカミを捨てに行く話を思い出して、我が身の幸運をつくづく感じました。


結局、ワシントン大学の向かいのメインキャンパスの病院のほうに移送されることになり、翌日の午後5時になってようやくERを脱出。

日曜の夜中、息子にチーズバーガーを買ってきてもらい、翌朝、看護師さんが朝食を持ってきてくれたあとは、まったくなにも食べていなかったので(通常の病室ではないので食事のことなど忘れられていて、自分でも何か外から注文するという発想はなかった)、夕方に救急車で搬送される頃にはかなりおなかがぺこぺこでした。


生涯2度めの救急車。搬送チームは若い男女のペアで、とてもテキパキしてて親切でした。
「大変な患者さんも多いでしょう」ときくと、「うん、すごく怒ってる人が多いんだよねー」と言ってました。

機嫌のわるい病人に当たられると、辛いだろうなあ。なんて大変なお仕事だ!

 「そんなのどうやって対処できるのか見当もつかない。あなたたちほんとにすごいね」
というと、寂しく笑っていました。

 



ここからは、ワシントン大学の向かいにある大きな病院の、呼吸器病棟の広々した個室に入れてもらって、ものすごく快適でした。

専用の広いトイレとシャワーつきで、西向きの窓からは針葉樹と湖の一部、そしてきれいな夕焼けが見えて、なにかのリトリートのようにほっとして過ごすことができました。


バスルームはやたらに広く、なぜかオレンジ色の照明。

オミクロン感染拡大中につき、病院全体で面会は一切禁止になっていて(本当に命が危ない、臨終のときだけ、例外が認められるそうです)、ビジターは病棟のフロアまで上がってこれません。

息子に家から身の回りのものを持ってきてもらい、下の受付にあずけてもらって、看護師さんが取りに行ってくれました。





コロナ感染後、ぜんぜん食欲がなかったのですが、ステロイド剤を投与されたせいか食欲がでてきて、移送後さっそくがっつり夕飯を完食。

チキンのグリル、マッシュルームソースとマッシュポテト、トマトスープ、いんげんも歯ごたえがありゆで加減上々で、おいしゅうございました。

食事は、ベッドサイドの電話かアプリで注文すると、部屋に持ってきてくれます。





こちらは別の日のポットロースト。メイン、サイドディッシュ、スープやサラダ、飲みもの、デザートなどをカテゴリべつに一つ一つ選べます。


ここでもコロナ患者として完全隔離で、部屋のドアは内側から開きません。

看護師さんや医師も、フェイスシールドとガウンの完全装備で入ってきて、診察や用事が終わったら、着ていた不織布ガウンを部屋の中のゴミ箱に捨て、外の人にドアを開けてもらって出ていく、というのが、プロトコルになっているそうです。


使い捨てのガウンですぐにいっぱいになってしまうゴミ箱をみつつ、わたし一人のためにこんなにたくさんのゴミが出るなんて、と本当に申し訳ない気持ちになりました。


ここの病院の腫瘍医チームと呼吸器内科の医師たちが診てくれて、ひきつづき3日間、コロナの治療薬とされている「レムデシベル」とステロイド剤、それと血栓予防の薬剤を投与してもらっていたのですが、水曜の午後になって、とつぜん、その医師のひとりがやってきて、「疫病医と一緒に履歴を再検討した結果、あなたはもはやコロナ陽性ではないと判断しました」と宣言されました。

そして急に魔法のように隔離が解かれて、コロナ患者から非コロナ患者になりました。

「PCR検査って、感染後30日くらいまで陽性になることがあるから、再検査は推奨されないのよねー」
と、その医師が言うのですが、でも検査、したやん、2回も……。

やはり、渦中だけに、すこしでも可能性があればコロナと思えという姿勢になるのでしょう。



で、じゃあもう退院かとおもいきや、病室でやった心臓の超音波検査(これは呼吸器の患者に対するデフォルトの検査だそうです)で、心房のひとつに異常かもしれないものが見つかり、CTで脾臓にも梗塞かもしれないものが見つかったので、血栓のおそれがあるとのことで、再検査のためもう一日入院することに。


ベッドサイドの超音波検査。この時点ではまだコロナ患者扱いで隔離中だったので、検査技師もフル装備でした。

木曜日に再度CTを撮り、心電図を取り、血液検査をしてもらいました。そしてこんどは、心臓血管科の医師たちがぞろぞろとやってきて、「新しいデータをかんがみるに、異常はないとほぼ断言できるので、これ以上の検査はとくに必要ないです」といわれ、退院になりました。

レントゲン、CT2回、超音波検査、心電図、救急車搬送、1日3回以上の血液検査、いろいろな薬剤、ゆうに10人以上のいろんな科の医師の診断、看護師さん、そのうえ栄養士とフィジカルセラピストのカウンセリング。

これ全部自費だったら、たぶん小型のクルマがさくっと買えちゃうくらいの費用だと思います。

オバマケアがなかったら、フリーランスという身分のわたしには保険のチョイスがほとんどなかったので、ほんとうにありがたいことです。

わたし一人のためにこんなにリソースが使われて…とも思うけれど、わたしを媒体として、医療の現場に経済がまわっているのだと思うことにしています。(捨てられる不織布とプラスティックの多さには心が痛むけど)

どれだけの医療がほんとうに「適切」なのかどうかは、難しい問題ですよね。

本当に血栓の原因になる脾梗塞が発見されて、命拾いをすることになったかもしれないのだし、そういう可能性が目の前にあったら、医師は見過ごすわけにいかないですよね。

なんて手厚いシステムのなかにいるんだろう、と感謝する一方で、こんなに手厚いシステムに守られていることを、すこし居心地悪くも感じてしまう。






いちばんおいしかった、鮭のグリルつきシーザーサラダ、チョコトルテ。


病室で活躍した、うちの青年のクロックス(サイズ10)。看護師さんたちにやたら褒められた。

結局、これだけ大騒ぎした後、コロナ肺炎じゃなかったということがわかった以外は、あんまり状況は変わってないのですが、息がくるしくなったとき用に酸素吸入器をかりてきました。


 


高度医療のおかげで、いろいろ不具合はありつつも、まだ生きてます。しかもとても快適に。

既往症のあるうえに最新流行のウイルスに感染までしてみると、いろいろと新しい立場でものごとを見ることになります。

いろいろ社会のリソースを使いつつ、そのぶんきっと、誰かのなにかの役に立っているはずだ、と思って暮らしています。医療費や研究費などのリソースを回す媒体としても、ほかのもっと別のよいものを回す媒体としても、きっと役に立っているし、役に立てることはうれしい。

とりあえず、毎日楽しく快適に過ごせること、まわりの心優しいひとたちに、ほんとうに感謝です。



帰ったら、ハワイのえりぴょんから、マンガとバター飴とはちみつなどが届いてました。

バター飴うまい!



 

 

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