2011/01/11

FOB

Capitol Hill

映画『Amreeka』(2009年)で、パレスチナからシカゴ近郊に移民したばかりの高校生の男の子に、アメリカで育った従姉妹が

「そんな服着てたら一目でFOB だって思われるわよ」

という場面があった。

高校生の息子を連れて、占領下のパレスチナから妹の家族を頼ってアメリカに移民する中年シングルママの苦労話で、地味だけれど切なくも癒される、しみじみとした良い映画だった。 プライドが高くバイタリティいっぱいで、次々に災難に見舞われてもめげないお母さんの運命は、同じ年頃の息子をもつシングル母としてはもう本当に人ごととは思えず、思わずコブシを握りしめて応援したくなる。

International Districtの中華ビル
で「FOB」。貿易用語の「本船甲板渡し条件(Free on Board)」のことではもちろんなくて、「Fresh Off the Boat」の略。ついさっき外国からの船をおりてきたばっかりのような、まだ当地に馴染んでいない移民のことなんだそうだ。

もちろん、移民船や難民ボートでアメリカにたどり着く人は、フロリダあたりはともかく西海岸には今時分あまりいないが、とにかく「ボート降りたて」のようなニューカマー、という意味らしい。ウェブ辞書によれば、語源はハワイで、もともとは本土から来てハワイの文化を理解していない白人のことを指した、という説もある。
 
 シアトル市内の高校に通っているウチの息子によると、ハワイでもシアトルでも、この言葉はよく使われているという。「あいつFOBだぜ(笑)」というような感じらしい。発音は「エフオービー」ではなくて「フォブ」という、そうです。

学校のキャンパスでFOBと認定されるのは、英語が流暢でないことのほか、「だれも着てないような服を着ている」点が、やはり大きいそうだ。
個性的というのではなくて、アメリカのティーンエイジャーなら誰でも理解しているところの服装コードがインプットされていないということ。靴底の厚さとか、パンツの裾の長さとか、Tシャツに書いてある文字とかのディテールがあり得ない服を着て学校に行ってしまう。

Westlake Ceterのフードコート
アメリカは建国当初から移民の国。今でもどんどん流入は続いている。ハワイなんか、100年以上前からアジア系移民が過半数を占めている。
シアトルは、全体では白人率が7割くらいだけれども、アジアやアフリカの人もよく目につく。シアトル市の南部にはソマリア人の大きな移民コミュニティがある。うちの息子のいるサッカーチームに最近入ってきた足の早いフォワードの選手もソマリア生まれ。

シアトル市内の公立校に通う生徒たちが話す言語は、129種類にもなるそうだ。州が市民サービスのために用意している認定通訳の言語は、カンボジア語、ラオス語、韓国語、ベトナム語、広東語、北京語、スペイン語、ロシア語、とやはり環太平洋なラインナップ。

移民のあるところ、常に問題はおこる。空気も読めないし洋服のセンスも違う「FOB」であった人たちやその子どもたちが、社会の構成員になって、社会の常識のほうが少しずつ変わっていく。衝突や軋轢を経ながら、すごい勢いでどんどん変わる文化はアメリカの一番の強みでもある。

伝統文化がない分、だれもが<建前としては>同じ土俵に立っている。アメリカ文化は言葉とロジックと服装コードでできているから。両親がどこの国の人であっても、アメリカで生まれればアメリカ人だし、どこの国で生まれても、祖国をアメリカと決め、アメリカの法と常識に従うことを誓えば、正当な「アメリカ人」となる。

この間久々に大相撲を見たら、外国人のお相撲さんがめちゃめちゃ多くて驚いた。日本の国技がこんなに国際化してるなんて、しらなかった。こんなに全力をつくしてお相撲界のコードを土俵の上でも外でも身につける努力をしている若い人たちも、それでも決して「日本人」と日本人からみとめられることはないのだろう。ていうか彼らは「日本人」になりたいと思うのだろうか。

日本には、外国人が日本人になるコードが存在しない。流暢な日本語を話し、日本人以上に日本文化を深く知る帰化した人であっても、その人が外国から来た以上、その人を「日本人」と呼ぶ日本人はたぶんそんなにいないだろう。まだ今のところは。

「社会の懐の広さ」とか偏見とかは、実は数量的条件で決まるのだと思う。
良くも悪くも30年後、50年後には日本人による「日本人」の定義も変わっているかもしれないけど、それは多分、日本国籍をもつ人がどれくらい多様化しているか、それに応じて社会常識がどのくらい変わってるかに比例して、やっと変わるのだと思う。

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4 件のコメント:

  1. FOB、初耳。
    うちの旦那も知らなかったので、教えておきました。笑
    ちぐはぐな服装とかで指摘されるとすれば、私はどちらかと言うとFOA(Fresh off the Airplane)かな。がはは。

    いや〜、Tomozoさんの文章は本当に読み易いし、書いてる事も楽しいなぁと思っていた矢先、歯医者の待合室にあった日本の雑誌「Hanako」に、芥川賞を受賞した作家さん(?)のブログURLが載ってたので早速見てみたの。そしたら文章が読みずらくって・・・。

    そういえば、最近は作家やエッセイストを「文筆歌手」っていうの?FOBといい文筆歌手といい、付いていけないです。

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  2. 最初聞いたときは、カワナナコア中学校の中だけではやっている言葉かと思ったんだけど(笑)。

    おほめの言葉をありがとうぅ。楽しんでいただけたらほんとうに嬉しいわ。
    文筆歌手?はじめて聞いたです。川上みえこさんかな? あの方の本はまだ読んでないんだけど、元気があってかわええねえって感じ。感性のみで文章が書けるのは若い女の子の特権だから、いいのでごわすよ。

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  3. そうそう、川上未映子です。よく分かったねー。
    彼女は若いと言っても30過ぎぐらいじゃなかったっけ?

    文筆歌手というのは、どうやら音楽活動もしてるからみたい。定かじゃないけど、どこかにCDも出してる様な事が書いてあった気がする。

    文章に関しては、スタイルは好みだしいいのだけど、点(、)が多くて読んでると息切れしてくるの。笑
    読書家でもない私が他に気がついたのは、同じ書き物内で文末の処理の仕方が違うから、どういうムードなのかが掴みづらい。関西弁で書いてある時も、偽関西弁か?と思っちゃうんだよね。

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  4. ふふふ、「文筆歌手」で検索してみたです。
    いくつだかわからないけど、分類的には「若い女の子」…に見える…。本当に若い女の子からみたらまた全然違う分類なのだろうけどw。

    >同じ書き物内で文末の処理が違う
    ぎくう。それは私も時々やる。さらっと書いているようで、実はかなり拘泥していたりするのかもねー。わたしは非常に書くのが遅くて、人から見たら多分本当にどうでもいいような語句を何度も書き直したりすることが多いんだけど、文筆家の方ってどのくらいの速度で書いちゃうんでしょう。一気に書いて読み直しもしない人って多いのかな。

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