メキシコシティのタクシーには何種類かあります。
ホテルと契約してホテルの玄関に来る、観光客向けのリムジン的なタクシー
Sitio(シティオ)という無線タクシー
Libre(リブレ)という流しのタクシー
上から下へと値段は安くなりますが、それぞれ、その場の交渉しだいで若干安くなったりもします。リブレは相乗りが普通で、人が乗っていても同じ方向だと後から客が乗ってきたりするそうな。上のピンクのはリブレです。
あと最近はUberも進出しているようです。
流しのタクシーには危険だから絶対に乗ってはいけません!とクライアントさんに釘をさされましたが、だいたいリブレの運転手さんはまずスペイン語しか話さないので、わたしには意思の疎通ができない。
空港から乗ったシティオの運転手さんもほとんど英語を喋らず、行き先を伝えるのにたいへん苦労しました。
展示会の会場からホテルに戻るときには会場のタクシー乗り場にやってきたのに有無を言わさず順番に乗せられるので、リブレにも何度かあたりましたが、クライアントさんの、スペイン語ペラペラでシマリスみたいに超絶可愛いB嬢が運転手さんとコミュニケートしてくれました。笠智衆ドライバーもリブレでした。
リブレはシートが普通に破けていたり、トランクの中がむき出しだったり、かなり使い込んだクルマが多かった。
新しい車はみんな白とピンクに統一されてて、上のみたいなピカピカの電気自動車も見かけましたが、古い車は相当の年代もの。
乗客を拉致して金品を強奪する強盗タクシーが大変多かった(今も出るらしい)ので、市も対策のために10年ほど前からライセンス制度を一新する、車をピンクに統一する(なぜだ?)など、いろいろ努力してるようです。
最近はスマートフォンのアプリで呼ぶタクシーが普及してるそうです(アプリでライセンスとナンバープレートを確認して、ちゃんとした運転手のタクシーかどうか調べられるらしい)。
3日目、午前中お休みをいただいて一人で後から展示会場に行ったとき、当然ながらホテルで呼んでくれるタクシーに乗ったのですが、この運転手さんはかなり英語を流暢に話す青年でした。
翌日の最終日に半日だけ観光できる時間があるので、何をしようか思案中だったのですが、シティからクルマで片道1時間くらいのとこにある世界遺産の遺跡テオティワカンに貸し切り往復1500ペソ(約80ドル)で行ってくれるというので、お願いすることにしました。
メキシコシティの運転手さんはこうやって積極営業します。
ほかのタクシーに比べればきっとバカ高い値段なのかもしれませんが、英語でわりとふつうに会話できる信頼できそうな運転手さんで、エアコンつきの綺麗なSUV(ヒュンダイ)の貸し切りで、観光している間待っててくれて100ドル以下なら、こちらとしては願ってもなし。
ツアーに参加するのも検討してみたのですが、タイアップの土産物屋やレストランに寄り、あちこちのホテルを回って帰ってくるのではどうしても帰りが夕方になっちゃって時間が間に合わなかったので、テオティワカン見物は諦めかけていたのです。
この運転手さんはエドガー君という礼儀正しい27歳の青年で、2年ほどオレゴンのポートランド付近の高校に通っていたそうです。
「僕はアメリカよりもメキシコのほうが好きだ」と言ってました。
「ここがホームだから」。
さて遺跡に行ったあと、ホテル近くの歴史地区で見逃したベジャス・アルテスの壁画を見たかったので、その前で降ろしてもらい、一旦ホテルに戻ってシャワーを浴びて着替えて荷物をまとめ直してチェックアウトをすませてから、また空港までエドガー君に送ってもらいました。
空港のチケットカウンターでグリーンカードの提出を求められて、かばんの中に財布を探したら、あら。なぜか、入っていない。なぜだろう。
旅先で、その旅に必要なすべてアンドさらに色々大事なものもろもろが入った財布をなくしたのは、わたくし、これが初めてではございません。
以前、子どもと日本に帰ったときに、JRパスとドルと円あわせて6万円くらいの現金とクレジットカード全種類およびグリーンカードまで入った財布を、新宿駅の京王線改札に置き忘れたことがありました。
その時は恐怖のあまり一時体が軽くなるという臨死状態に近い体験をしましたが、幸い親切な方がそのまんままるっと届けてくれて、小一時間ほど冷や汗をかいただけで済みました。
今回はクルマを降りるときに、エドガー君にペソの残りとUSドルの現金でチップをあげて、そのまま座席に忘れてきてしまったのだ!と思いいたり、速攻エドガー君に電話。
「さっさっさいふをっ!あなたの車に置いてきちゃったと思うんだけどっ」
気の毒そうに見守るチケットカウンターのお姉さんにスーツケースを預かってもらったまま、回りを顧みず超大声でエドガー君に報告。
「…え?」
「さっさいふ!」
「財布を僕のクルマに忘れたの?」
「そう!!…だと思う(であってほしい!)」
「……ちょっと待って。5分くらいしたらかけ直すから」
といったきり、 エドガー君からは10分以上電話がありませんでした(涙)。
もしかしたら空港に着いてから掏られたのかもしれない、ほかにはクレジットカードも現金も何も持ってないので、出てこなかったら日本領事館かどこかに連絡して救助を求めなくてはならないのだな、グリーンカードも入っていたから当分アメリカに入国ができないのだろうか、難儀なことになったものよ、などと考えていると、エドガー君から電話が。
「見つかったよ。空港に持ってってほしい?」
「はいっ(裏声)。ぜひお願いいたします!」
「口が開いてたけど、中身全部入ってるか確認して」と財布を渡してくれました。
ドルとペソの現金を全部使ってしまった後だったので、戻って来てくれた分のお礼もできなかったのですが、「良い旅を!」とニコニコして去っていきました。
いい青年や(涙)。
どこまでも詰めの甘いというか脇が甘いというか、ほんとに無事に今まで生きてこられたのはありとあらゆる周りの人に恵まれていたからだわ。
この次の旅行ではクレジットカード1枚とグリーンカードは別の場所に入れておくことにしよう。
でもこの日、詰めが甘かったのはこれだけではなかったのでした…。つづく。