2016/04/05

ロッジとスーパーマーケット<イエローストーン7>


イエローストーン国立公園の、「Old Faithful Inn」。間欠泉のOld Faithfulの目の前に、ビジターセンターと並んで建っている。

1903年建造、世界で一番大きな丸太の建造物なのだそうです。

アメリカの国立公園内の建物が大きいのは、最初からだったんですね。


2階にはこういう展望台があって、Old Faithfulが眺められるようになってます。奥のほうの煙が上がってるところがオールド・フェイスフル。

ここは宿泊者じゃなくても、誰でも早いもの勝ちで座って鑑賞できます。「湯柱」が出てくる予定の時間になると、もちろん満席。ここでもみんな30分以上前から辛抱強く待ってます。


ロビーは吹き抜けになっていて、なんというか、バイキングの城みたいな、指輪物語に出てきそうな壮大な雰囲気。
石組みの暖炉も木材もこの近辺で調達して建てたものだそうです。

この正面扉も建設当時からのオリジナルのもの。

内側はこんな仕様。

この正面玄関には60代のラテン系おじさんがウェルカム係として立っていて、楽しそうにいろいろウンチクを披露してくれました。 夏の間3ヶ月、若者たちに混じって合宿のようにしてここで働いて、冬はメキシコで過ごすのだといってました。

このオールド・フェイスフル・インは丸太造りとはいえ、ちょっとしたホテル並みのお値段です。普通の部屋でも250ドルとかで、スイートは500ドル以上。それでもシーズン前にもう予約は一杯です。


このほかにもイエローストーン公園の中に、公園内ですよ!9軒も大型ロッジがあって、どこもかなり一杯。
わたしたちはこの時、公園のすぐ外に1泊、公園内のキャンプ場でテントを張って1泊、それから公園内の湖のそばのロッジに1泊しました。
最終日に泊まった公園内のロッジは2012年夏のこの時で150ドルくらいだったと思う。ホリデイ・インみたいな感じの別にとりたてて面白くもなく愛想もないけれど広くて清潔な部屋で、シャワーも水洗トイレもごく普通にアメリカンでした。さすがにバスタブはなかったけど。



公園内にはあちこちにギフトショップやスーパーマーケット並みの大きさのピカピカの日用品店、さらには大型アウトドア用品店もあり、キャンプ用品を一切持ってこなくても多分ここですべて揃えられそうな感じ。

この上の写真のブックストアは中でも一番小さくて、アウトドア感が漂っていて、唯一ほっとできたストアでした。ほかの店やレストランはとにかくみんなアメリカンサイズで、郊外のショッピングモールにいるような気がしてきます。


体育館サイズのギフトショップとバーガーショップ。

せっかくアメリカに住んでる以上、イエローストーンには一度は行っておこうかなと思って息子が高校生のうちに連れてったのですけど、ホテルやショップの多さに驚いてしまって、感動はいまいちでした。

春先とか冬季とか、シーズンオフに行ける機会あれば行ってみたいけど、夏場にもう一度行きたいとは思わない。


帰りはグランドティトンを抜けてジャクソンホールに出たのですが、グランドティトンのほうが広々してて、人や建物も少なくて、「ああやっと天然の場所に来た」という気がしました。
この写真ではよくわかりませんが、目の前に迫ってくるギザギザの山が迫力でした。

イエローストーン国立公園は四国の半分の大きさだそうです。とにかく公園といっても車で一周するだけで一日かかるくらい広いので、スケール感は途方もなかったです。


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2016/04/02

スーパー火山の噴水ショー<イエローストーン6>


突然思い出した4年近く前(2012年夏)の旅行記つづきです。
イエローストーンの続きをそういえば書いていなかったのでした。
前回から3年半あいてしまいましたが、イエローストーン第6回。

イエローストーン国立公園でいちばんの目玉アトラクション。「Old Faithful(オールド・フェイスフル)」の間欠泉


野外劇場のような観客席ができていて、役者の出番を待つように、みんな辛抱強く間欠泉が吹き上がるのを待っています。

吹き上がるのは60分から120分に1回。予測時間の30分以上前から席が埋まってました。間欠泉の噴水登場までの間、レンジャーがいろいろ話をして盛り上げてくれてます。

吹き上がる時間は2分くらい。私たちが見に行ったときにはあんまり大きな水柱ではありませんでした。

こんな大地の真ん中で、炎天下、お湯の噴水が出てくるのを大のオトナが百人以上も汗をかきながら待っているというのは、考えてみるとコントみたいな話ですね。

たしかに大昔から2時間間隔で休まず熱湯の大柱が吹き上がっていると思えば、すごいと思うのだけど。


オールド・フェイスフルの付近「アッパー・ガイザー・ベイスン」にはちっちゃな間欠泉や温水池が100個以上も密集していて、しっかりした歩道が張り巡らされ、2時間くらいでぐるっと回ることができます。


水の色が不思議な深い翡翠色の温水プールでした。
ここも本当に温水プールと間欠泉のギャラリーみたい。

歩道はこんな感じです。町中を歩いているのとほとんど変わらない格好で大丈夫。


あちこちから蒸気が上がっていて、さすがにドラマチックでした。

有名な「モーニング・グローリー」プール。morning glory (朝顔)の花に似ているというところからつけられた名前だそうです。
この色はお湯の中に棲む微生物の色。
もっとかっこいい写真は、たとえばこちらのサイトなどをご覧くださいね。


未知の土地を探検していて最初にここに行き当たった人たちはどんなにかびっくりしたことでしょうね。あちらこちらから熱湯が噴き出るわ、ものすごい色の池はあるわ。
異世界に迷い込んだと思ったかもしれません。

でも「オールド・フェイスフル」をベンチに座って辛抱強く待っているのと同様、すべてが整備された歩道を歩いて一つ一つ間欠泉をめぐって歩いていても、あんまり「おおっ、大自然すごっ!」という感動はわき起こらず。
ハワイ島のキラウェア火山で、斜面を覆い尽くし道路を飲み込んでいる溶岩流を見て感じた時のような迫力に圧倒されなかったのは、きっと人が多すぎ、見るべきものがみんなガイドブックに乗っているとおりで、一つも意外なものがなかったからなのだと思う。イエローストーンのせいじゃないんです。


ベビーカーを押して歩ける歩道が完備されているので、皆が見に来る、目の前にあるこの「すごい自然」がまるで造り物のように見えてしまったせい。

だって実力からいえば、このイエローストーンにまさる火山は世界のどこにもないんですから。

このだだっ広い公園のほとんどが一つの火山のカルデラという「スーパー火山」。
最後に大噴火したのは64万年前。またそんな噴火が起こるという確率は低いとはいえ、皆無ではない。イエローストーンが大噴火したら、その時はアメリカの半分が灰に埋まり、10万人近い人が吹っ飛んで即死するだけでなく、噴火の灰で世界中が数年間冬が続くという、という予測もあるそうです。まさに黙示録的な実力を隠し持った火山です。

そんな破壊力のある火山の真上を歩いていて、バッファローもエルクもいるのに、どうしてもテーマパークに見えてしまう。大自然パワーを感じるためには、意外にかなりの想像力を必要とするイエローストーンでした。


「オールド・フェイスフル」の真ん前に建っている、立派なビジターセンター。
いつも思うけど、アメリカの国立公園、箱モノに予算をかけすぎなんでないかい。
連邦の予算がそれだけついてるのは素晴らしいことですけど。でもこんなに巨大でなくてもいいような気がするよ。

ビジターセンターの中には何があるかというと、こういう説明が事細かに。このちょっとアーティスティックな説明板の一部に目が釘付け。

ぼ、坊主地獄ってなによ? と思ったら、高温の泥が「坊主の頭」のようにまるっと膨らむMud Pots という現象らしい。別府温泉にあるそうです。すごいネーミングだ。

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2016/03/26

大草原のギフトショップ


先日、土産物屋化が進んでいる部屋の話で、4年ほど前に行った大平原の土産物屋さんを思い出しました。

サウスダコタ州のバッドランズ国立公園のあたりに行ったとき、ハイウェイを走っているとこの看板が何十マイルもの間、何度も何度も出てくるのです。 外は摂氏41度。アイスクリームの看板につられて行ってみました。


WALL DRUG STORE。

Wallという小さな町(人口766名)にあるからウォール・ドラッグストア。
「ドラッグストア」といっても、マツキヨみたいな店ではありません。

だだっ広いおみやげ屋さんと、パイやドーナツがたくさん並んでいる昔風のレストランコーナーがくっついた、日本の高速道路の入り口付近に昔たくさんあった、大型の「ドライブイン」みたいな感じの施設でした。(今の「道の駅」とはちょっと違うかも)


パーキングには、馬をつなぐ用の杭が立っています。
ディテールもとにかく素朴なウェスタン調。


中には昔の西部の町並みを模した小さな専門店街もあります。
けっこう本気な革の専門店とか、昔風の手作りキャンディの店とか。

ディズニーランドのオミヤゲショップ街みたいですが、ミッキーマウスの代わりにこんなばあちゃんギャンブラーの像があったりして、わりあいにハードコアです。


なんだかよくわからない人の像が多かった。もしかして地元の有名なヒーローなのかもしれません。


さらに売っているものもなんだかよくわからない。

プレーリードッグはいいとして(でも本当に全然可愛くない)、なぜ、うさぎに角が生えているのだ?と思ったら、これは「jackalope(ジャッカロープ)」という幻の動物なんだそうだ。アンテロープ風の角が生えたうさぎ。
雪男とか「サスクワッチ」とかネッシーみたいな、ものらしい。でもサスクワッチと違い、ネイティブの伝説にはまったく出てこない、20世紀になってからたぶんハンターの冗談から生まれた幻の動物。アメリカン・ジョーク…。


ほかにもありとあらゆるイヤげものが、これでもかこれでもかと並んでいます。

今思えばジャッカロープの貯金箱か、このラシュモア山のスノーボールでも買ってきてCTちゃんにあげればよかった。うふふ。 




「コーヒー5セント。ウォールドラッグまであと◯◯マイル」
「冷たいお水無料。ウォールドラッグまであと◯◯マイル」


という巨大看板がハイウェイ沿いの大平原にいくつもいくつも立っていて、この近くを通れば嫌でも行かねばならないような気にさせられるのですが、ほんとにコーヒーは5セントでした。


このクラシックなマグが可愛い。そしてかりっとしたドーナツがかなり美味しかった!

観光客から小銭を絞りとることを目的に作られた施設をさす「Tourist trap(ツーリストトラップ)」という言葉がありますが、この言葉はまさにこのウォールドラッグストアのために作られたのではないかと思うほどぴったりな名称です。

 ほかにはまるでなにもない平原の真ん中にあって、ハイウェイの巨大看板だけで続々とツーリストを集めているところもすごい。きわめて優秀なトラップです。

実際行ったときには毒気にあてられて、ドーナツ食べてすぐ出てきてしまったけど、こうしてしばらくたってから見てみると、意外に味わい深い。


礼拝堂まであって、その隣りにはこんな像が。バッファローの頭蓋骨を捧げ持って祈りを捧げるインディアン像です。
これはまさに、先日行ったタコマ美術館の西部美術展でもフィーチャーされていた、一つのステレオタイプ。

白人が来て、それまで海の魚のようにたくさんいたバッファローたちを絶滅寸前にまで追い込んでしまい、人びとは見たことのない病気でバタバタ死に、先祖代々から住んでいた土地を白人たちに追われ、という、草原に住んでいた人びとにとっての世界の終わりに、バッファローを蘇らせ、白人を駆逐し、もとの世界を取り戻すためのカルト宗教がいっとき流行ったという。
たぶんその祈祷師の姿なのだと思う。

この像はたぶん白人のアーティストが作ったものだと思う。真っ赤な身体に角をつけた、悪魔その人のような姿に描かれています。チャペルの入り口に置かれているのも皮肉というか、悪意なのか一種のセンチメンタルなのか。

このキッチュなテーマパークのようなギフトショップの素朴な面白さは、西部のこんな意外にいろいろな層のある歴史がいやでもにじみ出ているところ。

4年前の西部日記でアップしていない記事があったのを思い出したので、いくつか続きます。

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2016/03/22

ガス大爆発


3月9日のことですけど、うちのわりと近所で大爆発がありました。
天然ガスが漏れていたとかで、建物ひとつがまるまる吹っ飛ぶという、すさまじい大被害に。

夜中だったこともあって、現場に入っていた消防士さん9人が怪我をしたほかは、奇跡的に死者や重傷者は出なかった。建物の中にいた消防士さんも重傷にならなかったそうで、本当によかった。

この建物には先日紹介した「Mr. Gyros」のちっちゃい本店と、何度か行ったことのあるカフェが入ってました。自分が出入りしていたビルなので本当にびっくり。

爆発直後の写真はこちらに。爆撃か竜巻のあとみたいな。
周辺の1ブロックにあった店も、衝撃でガラスが粉々に吹っ飛んだそうです。

じつはこの時、仕事で他の州に行っていたんですが、朝、同僚の人が「なんかシアトルで爆発があったんだってニュースで言ってたよ?」と教えてくれて、ええっ?とびっくりしてネットで見てみたら、なんとグリーンウッド! 
すぐとなりの角はわりと良く行くChocolati だし、向かいのスポーツバーでは友人のバンドが出演したこともあるし、ほんとに良く見知った街角。

馴染みの場所のよく知っている建物が吹っ飛んだ映像が全国ニュースで流れているのを、遠く離れた町で見るというのはなんともいえず妙なものでした。

とにかく死傷者がなくて本当によかったです。

上の写真は数日前に車で通ったときに窓から撮ったもの。グリーンウッドは若いプロフェッショナルな人口が流入中でこの数年急に栄えてきてるから、またすぐに新しい建物がたつのでしょう。

Mr. Gryos も、Neptune Cafeも、はやく再建できますように。


周辺の店では割れてしまったガラスの代わりにとりあえず板が貼られてるんですが、またガラスを入れるまでの間、殺風景にならないようにさっそく壁画が描かれたりもしてます。


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2016/03/18

ギフトショップ化が進行中


あっと言う間に3月なかばです。今学期もあとペーパー1つでなんとか終わりー。

今回はオンラインで「Theories In the Studies of Religion」という講座をとってました。最後まで講座の名前が覚えられなかった。ダメすぎる。いろんな人が19世紀以降現在まで宗教についていろいろ考えたことをざっと学ぶという、そういう講座でした。大変面白かったけど大変疲れました。

毎週のペーパーを書こうとしているときの有様は、このような、画像検索で「乱雑 混乱 テーブル」と入れたら出てきそうな状況。頭のなかもだいたいこんなです(そして真ん中にチョコレート)。

このダンスクの青いライン入りカップ&ソーサーと、ポルトガル製のやわらかい陶器で目つきの悪い鳥が描かれてる三日月形オードブル皿はGoodwillの獲物。

友人のCTちゃんがあそびにきたときに自慢したら
「tomozoの部屋、だんだん土産もの屋さんみたくなってきてるよ知ってると思うけど」と冷たく言われてしまいました。

ぎくぅーーーーー。

CTちゃんは私がじかに知っている人間の中で、たぶん一番のミニマリストです。

彼女のおうちのリビングもキッチンも、まるで禅寺のよう。
クロゼットを見せてもらったら、10枚か15枚くらいの色のトーンが揃った洋服が、美しくかかっていた。これだけか!

家具屋さんのカタログ以外であれほどスキマのあるクロゼットを私は見たことがありません。シーズンが終わるとヘビーローテションで着ていた服もいさぎよく処分しちゃう、捨てる名人。

気に入ったものだけをギリギリ必要な数だけしか置かないという生活が絵にかいたモチやグラビア写真用のセッティングだけではなくて、リアルに可能なのだということを、私は彼女から学んだのでした。

そんな厳しい美意識をもつCTちゃんが、何を間違ったかこんなガラクタを溜めこむ習性のあるゆるゆるな性格の私と、よく7年間も我慢して住んでくれたものだ。さぞ辛かったことでありましょう。

断捨離という言葉が発明されるずっと前から断捨離な暮らしを実践しているCTちゃん。

その昔ホノルルにいたころパートで働いていた某社で、会社宛に来ていたクリスマスカードをクリスマスの翌日に全部捨てたという伝説の持ち主でもあります。もちろん、12月26日にCT家にクリスマスツリーはありません。

うちの亡くなった母はその真逆でした。

とにかくモノが捨てられず、家中にモノがあふれかえって収拾がつかなくなっていた中で私は育ったので、CT家に同居するようになって、モノが積み上がっていない空間で暮らすという感覚、家の中に置くもののすべてをコントロール下に置くという感覚が、数年かけてじわじわと日常生活の中にしみとおっていったのだと思う。

そして7年後には、水回りが汚れていたり、デスクやテーブルの上にモノがありすぎるのが気になって気になってつい拭いてしまうまでに。

人は変わるものだ!

慣れってすごい。

もしかして、自分の性格だと思っている考え方や癖って、習慣が90%くらいなのかもしれないですよ。

しかし、CT家を去りこのアパートに入居して2年半。だんだんとカオスが再び忍び寄っている予感。

とくにこの非常時にも食べることのできない植物たちが増える一方で、日当たりの良いダイニングテーブルは半分占拠されてしまってます。どうするんだ〜。


去年のクリスマスに息子ガールフレンドからコーヒーいれるやつ(ケメックス)をもらって愛用中。
ほかの器は流しに出しっぱなしなのにこれだけはいつも使ったらきれいにゆすいで干してある。息子よ…。

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2016/03/06

Kehinde Wiley: A New Republic  


またもや先月の話になってしまいましたが、2月にシアトル美術館で始まったKehinde Wiley: New Republic を初日に見てきました。オープニングナイトで、本人の姿もありました。

まだ弱冠38歳のKehinde画伯。西海岸での大規模な展覧会はこのシアトルだけだそうですよ。お見逃しなく。


彼の作品は、むかしの巨匠たちの絵を下敷きに、通りで声をかけてつかまえた無名のアフリカン・アメリカンの人びとを主人公として描いたもの。最近ではアフリカやアジア、中南米など世界各地の人びとをフィーチャーしたシリーズを展開してます。

この代表作は、19世紀の新古典主義の巨匠、ダヴィッドが描いた有名なナポレオンの肖像を下敷きにしたもの。

これですね。
近づいてよくみると、壁紙みたいな背景にうようよと精子らしきものが泳いでいるのも面白い。元にした絵はマチズモ丸出しの19世紀絵画ですが、英雄をブラックアメリカンの男性に演じさせ、単にヒーローを置き換えているだけじゃなく、マチズモな構図そのものをちょっと笑える仕掛けをいれて客観的に描いている。
でも描かれた対象から離れすぎてもいないので、やっぱりかっこ良さは熱いのです。


無名な人ばかりでなくて、こんな有名人もモデルになってます。
マイケル本人から肖像画の依頼があったようですが、生きている間には完成しなかったらしい。
これは『Equestrian Portrait of King Philip II』(騎乗のフェリペ二世)というタイトル。元絵はルーベンスのこれです。


世界を制服した西洋の白い人たちが何世紀かをかけて作り上げた美術世界を、ただパロディとして扱うのではなく、そのきめ細かく華麗な美の世界を理解し嘆賞しながら、そこに21世紀のいまを生きる肌の黒い人びと、数世紀をかけて搾取されてきた人びとの子孫であり、いまもその負の遺産をいろいろな形で受け継いでいるリアルな人びとをあてはめてみる、というのが彼の作品です。

Kehinde画伯はインタビューで、10代の時に美術館でみたヨーロッパ絵画の美しさに心酔したと語っていました。彼の作品には、ヨーロッパの巨匠たちの美の世界への心からの賛辞と、その背景にあった社会と文化へのストレートな問いかけが共存しています。単なるパロディでもなく、単なるプロパガンダでもなく、単なる追従でもない。


いずれも元の作品の写真を展示してほしかった気もするけど、でも作品そのものの迫力を感じるには、余計な情報は無いほうが良いのかもしれません。元絵の情報がそばにあると、どうしてもパロディに見えてしまうのかもしれない。


これは、東方正教会のイコンに感銘を受けて作ったシリーズ。イコンの聖人が、ストリートの若者たちに置き換えられています。


ステンドグラスのシリーズ。
彼の作品をキッチュだとかキャンプだとかと批判する人もあるようで、そしてこのような宗教画の置き換えには特に我慢のならないという人びとも一定数間違いなくいるのだろうと思います。

たしかに、既存の美術の枠組みからは逸脱しているのかもしれない。でもとても真摯な作品であることは間違いないと感じました。美術に対しても、描かれる対象に対しても。

これは世界各地の人びとを主人公に制作している近作「ワールド・シリーズ」のひとつ。このディテールがわたくしはツボでした。魚がー。


素敵なマダムがフレームに入ってくださったのでそのままパチリ。
ほかの特別展と違い「Please take pictures」と、入り口に記されています。どんどん写真を撮って、どんどん拡散してくださいという姿勢。


エリカ・バドゥ的な女性胸像は、巨大な髪でつながっています。
女性たちの肖像は、とても強く、ミステリアス。


人物が装飾的な植物のパターンに溶け込んでいるところがすごく好き。


ミュージアムのブックストア。
奥の壁に再現されているブラックパンサーのジャケットを着た若者の絵は、シアトル美術館の誇る収蔵品です。

会期は5月8日まで。

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