2017/07/14

超富豪の壮絶コレクション


マンハッタンのマディソン・アベニューにあるThe Morgan Library & Museum

ここはマダムMの必見リストに載っていた、ライブラリー&ミュージアム。わたしはまったく存在を知りませんでした。

しかし、ニューヨークの不気味な要石みたいな存在で、すっごく面白い。

ふだんは入館料20ドルなんだけど、無料になる金曜の夜に狙っていきました。


吹き抜けになっている広々した正面エントランスホールではジャズも演奏されててお洒落。
20世紀はじめに建ったモルガン邸のとなりに増築した新館です。

このモルガン邸はもちろんあのJ.P. モルガンのモルガンさんのお宅で、19世紀末から20世紀はじめにかけてお金にあかせてヨーロッパや中近東から買い集めたコレクションをもとにした美術館なのだった。

19世紀なかば、独立戦争前からアメリカにいるというエスタブリッシュメントの家に育ち、高校を卒業するとすぐにヨーロッパに留学してドイツ語とフランス語をみっちり学び、20歳でニューヨークに戻って銀行業に入ったという、ピアポント・モルガンさん。

20世紀はじめには鉄道会社と鉄鋼会社も買収して銀行を巨大企業に変え、ウォール街の主としてアメリカ経済を完全に牛耳っていた人。

ニューヨークからロンドンに移住して銀行業をしていたお父さんが亡くなり、53歳で遺産を相続してから、モルガンさんは本格的に芸術品の蒐集を開始。
亡くなるまでの約20年間に、今の価値にすると900万ドル分の美術品を集めたんだそうです。
ざっと1000億円?どういうお金なんだか、ちょっとピンと来ないです。


美術館のサイトに載っていた、1911年の雑誌に掲載された風刺画。
当時のニューマネーで旧大陸から美術品をすごい勢いで買い集めるモルガンさんが「マグネット」として描かれてます。 今だったら「掃除機」でしょうか。
傾きかけたヨーロッパ貴族の家なんかから、ギュイーンと強力なドルで美術骨董を買い集めているようすが描かれてます。

ニューヨークのエスタブリッシュメントのリーダーとして、1880年に出来たばかりのメトロポリタン美術館の理事とプレジデントも務めたモルガンさん。

そのコレクションの置き場として

「めっちゃいいやつ建てて!なんぼかかってもええさかいに」

と(たぶん)建築家に頼んで建てたのが、マジソン街のこちらのお宅です。


じゃじゃん。
自宅の図書館。 3階分の書庫が吹き抜けに。この蔵書、絶対全部読んでないよね。
この場所では重要な銀行家の会議も行われたとか。

別の書斎には書棚の後ろの隠し金庫室もありました。


ピアポント・モルガンさんが1913年に亡くなったあと、息子のJ.P.モルガン・ジュニアさんがその個人遺産を受け継いだそうですが、全体の3分の2か、ひょっとすると4分の3は美術品だったそうです。

「こんなんどないすんねん、お父ちゃん困るわぁ、ようけ買い込んでしもてぇ」
と思ったのではないか。

 しかもモルガンさんの遺言が 

(make them) "permanently available for the instruction and pleasure of the American people" and that—in a life full of work—"lack of the necessary time to devote to it has as yet prevented my carrying this purpose into effect."



「これやねんけどな、アメリカのみんなに見したって。まぁ一生かかる仕事やとは思うんやけど、時間のおなってしもたさかいに、あとは頼むわな」(意訳)。

息子さんは税金などのためにかなりの部分を売り払わねばならなかったそうですが、大部分はメトロポリタン美術館などに寄付した後、コアなコレクションはこの邸宅に残して、ここを美術館にしたのだそうです。

コレクションはたった一度だけ、モルガンさんの亡くなった翌年に、メトロポリタン美術館で一堂に展覧されたそうです。


というわけで、モルガンさんのコレクションと邸宅が庶民にも見られるようになったのでした。入館料20ドルでなー。


図書館とはいうものの、革張りの蔵書は見るだけで単なる飾りになってますけど、


モルガンさんが集めていた中世の書の一部が展示されてました。

これは、イタリアのお風呂本

ナポリの近くのポッツオーリというところにローマ時代からの湯治場があって、そこの35種類のお湯を説明する13世紀の詩をフィーチャーしたもの。
このお湯は、「らい病、関節炎、うつ病に効く」そうです。えええっ。

しかしなぜそんなにくっつきあって入るのか!!!


図書館はまだしも、図書館入口のこのホール。
以前は邸宅の玄関ホールだったのかな、何種類もの違う大理石が使われていて、しかも柱の上にも天井にも床にもごってごての装飾が。

「趣味悪ぅー」
と、マダムMにも太鼓判をおされてましたよ。


丸天井にはウェッジウッド風の浮き彫り、ルネサンス風の壁画、ロココな花綱、ともうなにがなんだかわからんてんこ盛り。スタイルお構いなし。


併設のミュージアム入り口の天井は、東洋風のオーガニックなパターンがかっこよかった。これも20世紀はじめのものなのか。


こちらはうってかわって質素な机。
ヘンリー・デイヴィッド・ソローの使っていたもの。


ソローの直筆原稿などを集めた展覧会でした。
モルガンさんは作家の直筆原稿もたくさん集めていたそうで、マーク・トウェインからは直接買ったって書いてあった。

図書館&ミュージアムというから、ちょろっと展示がしてあるだけかと思ったらとんでもなくて、小規模ながら展示室が4つか5つあって、このソロー展のほか、フランスの素描とかヘンリー・ジェイムス展とか、どれも見応えある面白い展示だった。
遅めに行ったので1時間半くらいしかなく、全然見きれませんでした。残念。


この小さな部屋の展覧会は、動物をかたどったメソポタミアの美術品ばかり集めたもの。
もとはモルガンさん所有のものだったらしいメトロポリタン美術館所蔵品とかイェール大学の所蔵品とかから動物たちをピックアップして展示してました。面白かった!
さすがに東海岸のネットワーク。

これはヒツジかと思ったらウシだった。人間めいた顔をしている。膝のあたりとかもリアル。
紀元前3000年くらいの、今のイラン南部のものだそうです。銀製。

旧約聖書に出てくる近隣の民が崇めていた偶像ってこんな感じか。


この方は、ヒツジ。シュメール文明の、紀元前2500年ころのもの。毛皮は貝でできてるようです。

このほかにも、モルガンさんの書斎に飾られたロールはんこ(円筒形の全面に紋章が彫られていて、ぐるぐるおしつけるタイプの印章)のコレクションもすごかった。
モルガンさんは中世の絵付き本や作家の手書き原稿のほかに、ロールはんこもことのほかお好きで集めていたようです。



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