2016/03/26

大草原のギフトショップ


先日、土産物屋化が進んでいる部屋の話で、4年ほど前に行った大平原の土産物屋さんを思い出しました。

サウスダコタ州のバッドランズ国立公園のあたりに行ったとき、ハイウェイを走っているとこの看板が何十マイルもの間、何度も何度も出てくるのです。 外は摂氏41度。アイスクリームの看板につられて行ってみました。


WALL DRUG STORE。

Wallという小さな町(人口766名)にあるからウォール・ドラッグストア。
「ドラッグストア」といっても、マツキヨみたいな店ではありません。

だだっ広いおみやげ屋さんと、パイやドーナツがたくさん並んでいる昔風のレストランコーナーがくっついた、日本の高速道路の入り口付近に昔たくさんあった、大型の「ドライブイン」みたいな感じの施設でした。(今の「道の駅」とはちょっと違うかも)


パーキングには、馬をつなぐ用の杭が立っています。
ディテールもとにかく素朴なウェスタン調。


中には昔の西部の町並みを模した小さな専門店街もあります。
けっこう本気な革の専門店とか、昔風の手作りキャンディの店とか。

ディズニーランドのオミヤゲショップ街みたいですが、ミッキーマウスの代わりにこんなばあちゃんギャンブラーの像があったりして、わりあいにハードコアです。


なんだかよくわからない人の像が多かった。もしかして地元の有名なヒーローなのかもしれません。


さらに売っているものもなんだかよくわからない。

プレーリードッグはいいとして(でも本当に全然可愛くない)、なぜ、うさぎに角が生えているのだ?と思ったら、これは「jackalope(ジャッカロープ)」という幻の動物なんだそうだ。アンテロープ風の角が生えたうさぎ。
雪男とか「サスクワッチ」とかネッシーみたいな、ものらしい。でもサスクワッチと違い、ネイティブの伝説にはまったく出てこない、20世紀になってからたぶんハンターの冗談から生まれた幻の動物。アメリカン・ジョーク…。


ほかにもありとあらゆるイヤげものが、これでもかこれでもかと並んでいます。

今思えばジャッカロープの貯金箱か、このラシュモア山のスノーボールでも買ってきてCTちゃんにあげればよかった。うふふ。 




「コーヒー5セント。ウォールドラッグまであと◯◯マイル」
「冷たいお水無料。ウォールドラッグまであと◯◯マイル」


という巨大看板がハイウェイ沿いの大平原にいくつもいくつも立っていて、この近くを通れば嫌でも行かねばならないような気にさせられるのですが、ほんとにコーヒーは5セントでした。


このクラシックなマグが可愛い。そしてかりっとしたドーナツがかなり美味しかった!

観光客から小銭を絞りとることを目的に作られた施設をさす「Tourist trap(ツーリストトラップ)」という言葉がありますが、この言葉はまさにこのウォールドラッグストアのために作られたのではないかと思うほどぴったりな名称です。

 ほかにはまるでなにもない平原の真ん中にあって、ハイウェイの巨大看板だけで続々とツーリストを集めているところもすごい。きわめて優秀なトラップです。

実際行ったときには毒気にあてられて、ドーナツ食べてすぐ出てきてしまったけど、こうしてしばらくたってから見てみると、意外に味わい深い。


礼拝堂まであって、その隣りにはこんな像が。バッファローの頭蓋骨を捧げ持って祈りを捧げるインディアン像です。
これはまさに、先日行ったタコマ美術館の西部美術展でもフィーチャーされていた、一つのステレオタイプ。

白人が来て、それまで海の魚のようにたくさんいたバッファローたちを絶滅寸前にまで追い込んでしまい、人びとは見たことのない病気でバタバタ死に、先祖代々から住んでいた土地を白人たちに追われ、という、草原に住んでいた人びとにとっての世界の終わりに、バッファローを蘇らせ、白人を駆逐し、もとの世界を取り戻すためのカルト宗教がいっとき流行ったという。
たぶんその祈祷師の姿なのだと思う。

この像はたぶん白人のアーティストが作ったものだと思う。真っ赤な身体に角をつけた、悪魔その人のような姿に描かれています。チャペルの入り口に置かれているのも皮肉というか、悪意なのか一種のセンチメンタルなのか。

このキッチュなテーマパークのようなギフトショップの素朴な面白さは、西部のこんな意外にいろいろな層のある歴史がいやでもにじみ出ているところ。

4年前の西部日記でアップしていない記事があったのを思い出したので、いくつか続きます。

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2016/03/22

ガス大爆発


3月9日のことですけど、うちのわりと近所で大爆発がありました。
天然ガスが漏れていたとかで、建物ひとつがまるまる吹っ飛ぶという、すさまじい大被害に。

夜中だったこともあって、現場に入っていた消防士さん9人が怪我をしたほかは、奇跡的に死者や重傷者は出なかった。建物の中にいた消防士さんも重傷にならなかったそうで、本当によかった。

この建物には先日紹介した「Mr. Gyros」のちっちゃい本店と、何度か行ったことのあるカフェが入ってました。自分が出入りしていたビルなので本当にびっくり。

爆発直後の写真はこちらに。爆撃か竜巻のあとみたいな。
周辺の1ブロックにあった店も、衝撃でガラスが粉々に吹っ飛んだそうです。

じつはこの時、仕事で他の州に行っていたんですが、朝、同僚の人が「なんかシアトルで爆発があったんだってニュースで言ってたよ?」と教えてくれて、ええっ?とびっくりしてネットで見てみたら、なんとグリーンウッド! 
すぐとなりの角はわりと良く行くChocolati だし、向かいのスポーツバーでは友人のバンドが出演したこともあるし、ほんとに良く見知った街角。

馴染みの場所のよく知っている建物が吹っ飛んだ映像が全国ニュースで流れているのを、遠く離れた町で見るというのはなんともいえず妙なものでした。

とにかく死傷者がなくて本当によかったです。

上の写真は数日前に車で通ったときに窓から撮ったもの。グリーンウッドは若いプロフェッショナルな人口が流入中でこの数年急に栄えてきてるから、またすぐに新しい建物がたつのでしょう。

Mr. Gryos も、Neptune Cafeも、はやく再建できますように。


周辺の店では割れてしまったガラスの代わりにとりあえず板が貼られてるんですが、またガラスを入れるまでの間、殺風景にならないようにさっそく壁画が描かれたりもしてます。


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2016/03/18

ギフトショップ化が進行中


あっと言う間に3月なかばです。今学期もあとペーパー1つでなんとか終わりー。

今回はオンラインで「Theories In the Studies of Religion」という講座をとってました。最後まで講座の名前が覚えられなかった。ダメすぎる。いろんな人が19世紀以降現在まで宗教についていろいろ考えたことをざっと学ぶという、そういう講座でした。大変面白かったけど大変疲れました。

毎週のペーパーを書こうとしているときの有様は、このような、画像検索で「乱雑 混乱 テーブル」と入れたら出てきそうな状況。頭のなかもだいたいこんなです(そして真ん中にチョコレート)。

このダンスクの青いライン入りカップ&ソーサーと、ポルトガル製のやわらかい陶器で目つきの悪い鳥が描かれてる三日月形オードブル皿はGoodwillの獲物。

友人のCTちゃんがあそびにきたときに自慢したら
「tomozoの部屋、だんだん土産もの屋さんみたくなってきてるよ知ってると思うけど」と冷たく言われてしまいました。

ぎくぅーーーーー。

CTちゃんは私がじかに知っている人間の中で、たぶん一番のミニマリストです。

彼女のおうちのリビングもキッチンも、まるで禅寺のよう。
クロゼットを見せてもらったら、10枚か15枚くらいの色のトーンが揃った洋服が、美しくかかっていた。これだけか!

家具屋さんのカタログ以外であれほどスキマのあるクロゼットを私は見たことがありません。シーズンが終わるとヘビーローテションで着ていた服もいさぎよく処分しちゃう、捨てる名人。

気に入ったものだけをギリギリ必要な数だけしか置かないという生活が絵にかいたモチやグラビア写真用のセッティングだけではなくて、リアルに可能なのだということを、私は彼女から学んだのでした。

そんな厳しい美意識をもつCTちゃんが、何を間違ったかこんなガラクタを溜めこむ習性のあるゆるゆるな性格の私と、よく7年間も我慢して住んでくれたものだ。さぞ辛かったことでありましょう。

断捨離という言葉が発明されるずっと前から断捨離な暮らしを実践しているCTちゃん。

その昔ホノルルにいたころパートで働いていた某社で、会社宛に来ていたクリスマスカードをクリスマスの翌日に全部捨てたという伝説の持ち主でもあります。もちろん、12月26日にCT家にクリスマスツリーはありません。

うちの亡くなった母はその真逆でした。

とにかくモノが捨てられず、家中にモノがあふれかえって収拾がつかなくなっていた中で私は育ったので、CT家に同居するようになって、モノが積み上がっていない空間で暮らすという感覚、家の中に置くもののすべてをコントロール下に置くという感覚が、数年かけてじわじわと日常生活の中にしみとおっていったのだと思う。

そして7年後には、水回りが汚れていたり、デスクやテーブルの上にモノがありすぎるのが気になって気になってつい拭いてしまうまでに。

人は変わるものだ!

慣れってすごい。

もしかして、自分の性格だと思っている考え方や癖って、習慣が90%くらいなのかもしれないですよ。

しかし、CT家を去りこのアパートに入居して2年半。だんだんとカオスが再び忍び寄っている予感。

とくにこの非常時にも食べることのできない植物たちが増える一方で、日当たりの良いダイニングテーブルは半分占拠されてしまってます。どうするんだ〜。


去年のクリスマスに息子ガールフレンドからコーヒーいれるやつ(ケメックス)をもらって愛用中。
ほかの器は流しに出しっぱなしなのにこれだけはいつも使ったらきれいにゆすいで干してある。息子よ…。

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2016/03/06

Kehinde Wiley: A New Republic  


またもや先月の話になってしまいましたが、2月にシアトル美術館で始まったKehinde Wiley: New Republic を初日に見てきました。オープニングナイトで、本人の姿もありました。

まだ弱冠38歳のKehinde画伯。西海岸での大規模な展覧会はこのシアトルだけだそうですよ。お見逃しなく。


彼の作品は、むかしの巨匠たちの絵を下敷きに、通りで声をかけてつかまえた無名のアフリカン・アメリカンの人びとを主人公として描いたもの。最近ではアフリカやアジア、中南米など世界各地の人びとをフィーチャーしたシリーズを展開してます。

この代表作は、19世紀の新古典主義の巨匠、ダヴィッドが描いた有名なナポレオンの肖像を下敷きにしたもの。

これですね。
近づいてよくみると、壁紙みたいな背景にうようよと精子らしきものが泳いでいるのも面白い。元にした絵はマチズモ丸出しの19世紀絵画ですが、英雄をブラックアメリカンの男性に演じさせ、単にヒーローを置き換えているだけじゃなく、マチズモな構図そのものをちょっと笑える仕掛けをいれて客観的に描いている。
でも描かれた対象から離れすぎてもいないので、やっぱりかっこ良さは熱いのです。


無名な人ばかりでなくて、こんな有名人もモデルになってます。
マイケル本人から肖像画の依頼があったようですが、生きている間には完成しなかったらしい。
これは『Equestrian Portrait of King Philip II』(騎乗のフェリペ二世)というタイトル。元絵はルーベンスのこれです。


世界を制服した西洋の白い人たちが何世紀かをかけて作り上げた美術世界を、ただパロディとして扱うのではなく、そのきめ細かく華麗な美の世界を理解し嘆賞しながら、そこに21世紀のいまを生きる肌の黒い人びと、数世紀をかけて搾取されてきた人びとの子孫であり、いまもその負の遺産をいろいろな形で受け継いでいるリアルな人びとをあてはめてみる、というのが彼の作品です。

Kehinde画伯はインタビューで、10代の時に美術館でみたヨーロッパ絵画の美しさに心酔したと語っていました。彼の作品には、ヨーロッパの巨匠たちの美の世界への心からの賛辞と、その背景にあった社会と文化へのストレートな問いかけが共存しています。単なるパロディでもなく、単なるプロパガンダでもなく、単なる追従でもない。


いずれも元の作品の写真を展示してほしかった気もするけど、でも作品そのものの迫力を感じるには、余計な情報は無いほうが良いのかもしれません。元絵の情報がそばにあると、どうしてもパロディに見えてしまうのかもしれない。


これは、東方正教会のイコンに感銘を受けて作ったシリーズ。イコンの聖人が、ストリートの若者たちに置き換えられています。


ステンドグラスのシリーズ。
彼の作品をキッチュだとかキャンプだとかと批判する人もあるようで、そしてこのような宗教画の置き換えには特に我慢のならないという人びとも一定数間違いなくいるのだろうと思います。

たしかに、既存の美術の枠組みからは逸脱しているのかもしれない。でもとても真摯な作品であることは間違いないと感じました。美術に対しても、描かれる対象に対しても。

これは世界各地の人びとを主人公に制作している近作「ワールド・シリーズ」のひとつ。このディテールがわたくしはツボでした。魚がー。


素敵なマダムがフレームに入ってくださったのでそのままパチリ。
ほかの特別展と違い「Please take pictures」と、入り口に記されています。どんどん写真を撮って、どんどん拡散してくださいという姿勢。


エリカ・バドゥ的な女性胸像は、巨大な髪でつながっています。
女性たちの肖像は、とても強く、ミステリアス。


人物が装飾的な植物のパターンに溶け込んでいるところがすごく好き。


ミュージアムのブックストア。
奥の壁に再現されているブラックパンサーのジャケットを着た若者の絵は、シアトル美術館の誇る収蔵品です。

会期は5月8日まで。

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